人工鼻(HME)とは?その種類や性能の見方、交換頻度、禁忌などを解説します。

人工鼻(HME)とは?その種類や性能の見方、交換頻度、禁忌などを解説します。

人工鼻は、呼気に含まれる熱と水分を保持し、次の吸気へ戻すことで、人工気道によって失われる上気道の加温・加湿機能を補う医療機器です。HME(Heat and Moisture Exchanger)とも呼ばれます。

人工鼻には、自発呼吸をしている気管切開患者に使用される自発呼吸用と、人工呼吸器管理中の患者に使用される人工呼吸器用があります。

本記事では、人工呼吸器用の人工鼻について解説します。

公開日:2026年9月10日

人工鼻(HME)とは

人工鼻の読み方と基本的な役割

「人工鼻」は「じんこうばな」と読みます。英語ではHeat and Moisture Exchangerと呼ばれ、一般にHMEと略されます。

通常、鼻や口、咽頭などの上気道には、吸い込んだ空気を温め、湿らせてから下気道へ送る働きがあります。気管挿管や気管切開によって上気道をバイパスすると、この加温・加湿機能を十分に利用できなくなります。

人工鼻は、呼気に含まれる熱と水分を内部の素材に保持し、次の吸気時にその一部を戻すことで加温・加湿を行います。電気的に加温する加温加湿器とは異なり、患者自身の呼気を利用する「受動的加湿」です。

ただし、人工鼻は本来の鼻の機能を完全に再現するものではありません。患者の分泌物、換気状態、一回換気量、リークに加え、人工鼻によって追加される死腔や抵抗も見ながら、その患者に適した加湿方法かを継続して評価する必要があります。

 

人工鼻フィルタ(HMEF)とは

HMEとHMEFの違い

人工鼻について調べていると、HMEのほかに「HMEF」という表記を目にすることがあります。両者は同じ意味ではありません。

HMEは主に加温・加湿を目的とする機器です。一方、HMEFはHeat and Moisture Exchanging Filterの略で、加温・加湿機能に呼吸回路フィルターとしての機能が加わります。

HMEFは、主に手術中や人工呼吸器を使用した気道管理の際に使用されます。

BFEとVFE

HMEFなどの呼吸回路フィルターでは、製品仕様としてBFEやVFEが示されることがあります。

BFEはBacterial Filtration Efficiency(バクテリア除去率)、VFEはViral Filtration Efficiency(ウイルス除去率)を意味し、それぞれ試験条件下での細菌・ウイルスを用いたろ過性能を示す指標として使われています。

呼吸回路フィルターには、粒子をどの程度捕捉できるかを評価する試験規格もあります。ISO 23328-1では、呼吸システムフィルターのろ過性能を評価する試験方法が規定されています。

 

除去率は試験条件付きの製品仕様として読む

BFEやVFEが高いことと、「患者の感染を同じ割合で防げる」ことは同じではありません。

フィルターの性能値は、使用された試験方法、粒子や微生物、流量、湿度などの条件に基づく製品性能です。実際の使用時には、湿度や流量などの条件によって、HMEやフィルターのろ過性能が変化し得ます。

したがって、「VFE 99.99%だからウイルス感染を99.99%防げる」といった読み替えはできません。

BFEやVFEはフィルターを評価する一つの製品仕様として確認し、患者の感染予防効果そのものを示す数値とは区別して考えます。

 

フィルター付きかどうかで機能と評価項目が変わる

HMEとHMEFでは、仕様表で確認する項目が異なります。

項目 HME HMEF
一回換気量 確認する 確認する
死腔量 確認する 確認する
加温・加湿 確認する 確認する
流量抵抗 確認する 確認する
BFE(バクテリア除去率) 通常は主評価項目ではない 製品仕様として確認する
VFE(ウイルス除去率) 通常は表示対象外 製品仕様として確認する

 

HMEにBFEやVFEの表示がないからといって、単純に「性能が低い」と判断することはできません。HMEとHMEFでは、そもそもの機能と評価対象が異なるためです。

製品を比較するときは、まず「加湿を目的とするHMEなのか、フィルター機能も備えたHMEFなのか」を確認し、そのうえで各製品に必要な仕様を見ていきます。

 

人工鼻を選ぶときに確認する性能

人工鼻の仕様表には複数の数値が並びます。特定の項目だけを見るのではなく、患者の一回換気量との適合、死腔量、加湿性能、流量抵抗を組み合わせて確認することが重要です。

 

一回換気量

一回換気量は、1回の呼吸で出入りする空気の量です。英語の「Tidal Volume」を略して「Vt」と表記されることが一般的です。人工鼻には製品ごとに想定される一回換気量の範囲があります。

一回換気量の例

製品 一回換気量
人工鼻エディス 500 70mL~500mL
人工鼻エディス 1000 110mL~1,000mL
人工鼻エディス 1500 150mL~1,500mL

 

一回換気量は理想体重を用いて設定する

人工呼吸管理下では、一回換気量の設定が多すぎると、肺胞が過剰に膨張して肺損傷の危険性があります。人工呼吸器関連肺障害を予防するために、成人の場合「理想体重(kg) × 6~8mL」で一回換気量を設定します。

一回換気量 (Vt) = 理想体重 (kg) × 6~8mL

※理想体重の計算式
成人男性:50.0 + 0.91 × (身長 – 152.4)
成人女性:45.5 + 0.91 × (身長 – 152.4)

肺の容量は肥満などに比例しないため、実体重ではなく理想体重を用いて算出します。一回換気量の例は以下の通りです。

身長・性別 計算式 一回換気量 (Vt)
身長140cm・女性 (理想体重:34kg) × 6~8mL 204~272mL
身長150cm・女性 (理想体重:43kg) × 6~8mL 258~344mL
身長160cm・女性 (理想体重:52kg) × 6~8mL 312~416mL
身長170cm・男性 (理想体重:66kg) × 6~8mL 396~528mL
身長180cm・男性 (理想体重:75kg) × 6~8mL 450~600mL
身長190cm・男性 (理想体重:84kg) × 6~8mL 504~672mL

 

死腔量

死腔量とは、酸素と二酸化炭素のガス交換が行われない空間の容積のことです。鼻腔や口腔、咽頭・喉頭、気管、気管支、終末細気管支などを解剖学的死腔と呼び、成人では約150mLとされています。

人工鼻を装着すると、人工鼻の容量の分だけ死腔量が増加します。

死腔量の例

製品 死腔量
人工鼻エディス 500 17mL
人工鼻エディス 1000 28mL
人工鼻エディス 1500 38mL

 

一回換気量と死腔量の関係

肺胞換気量とは、実際に肺胞でガス交換される空気の量です。肺胞換気量は、一回換気量から死腔量を引いた値となります。

肺胞換気量 = 一回換気量 - 死腔量

一般的に成人では、正常な状態では一回換気量(約500mL)のうち約150mLが死腔となり、残りの約350mLが肺胞換気に使われます。

一回換気量に対する死腔量の割合(死腔率)が大きくなると、ガス交換の効率が低下し、血液中に十分な酸素を取り込めなくなったり、二酸化炭素が体に溜まり血液中の二酸化炭素分圧(PaCO₂)が上がることがあります。

パターン 一回換気量 死腔量 肺胞換気量 状態
正常な状態 500mL 150mL 350mL 効率よくガス交換ができている
一回換気量が減少 250mL 150mL 100mL 肺胞換気量が落ちている
死腔量が増大 500mL 300mL 200mL 肺胞換気量が落ちている

 

人工鼻を選ぶ際には一回換気量と死腔量をセットで見る必要があります。

 

低一回換気量では死腔の影響をより慎重に評価する

人工鼻の死腔量が仮に同じ30mLでも、一回換気量が大きい場合と小さい場合では、一回換気量に占める割合が異なります。そのため、特に一回換気量が小さい患者では、人工鼻による追加死腔の影響を慎重に評価する必要があります。

 

加湿性能

人工鼻の重要な役割の一つが、吸気へ水分を戻すことです。加湿性能は一般に、吸気1L当たりに含まれる水分量を示すmg H₂O/Lなどで表示されます。

米国呼吸ケア学会(AARC)の2012年ガイドラインでは、侵襲的人工呼吸にHMEを使用する場合、30mg H₂O/L以上の水分量を提供することが推奨されています。

 

mg H₂O/Lは測定条件と適用範囲を合わせて確認する

製品カタログに「30mg H₂O/L」などの加湿性能が示されていても、測定時の一回換気量などの条件が製品ごとに異なる場合があります。

例えば、「加湿性能:30mg H₂O/L (Vt 500mL) 」と表記されていた場合、一回換気量(Vt)が500mLの時に加湿性能が30mg H₂O/L であることを意味しています。

 

流量抵抗

空気が人工鼻の内部を通過するとき(息を吸う時や吐く時)には、一定の抵抗が生じます。製品仕様では、特定の流量条件に対する圧力差などとして示されます。

流量抵抗が選定上重要なのは、患者が呼吸するときの負荷や、人工呼吸器との相互作用に関係するためです。

 

流量条件と分泌物による抵抗上昇を合わせて見る

「流量抵抗0.9cm H₂O」などの数値を見るときは、その値が何L/minで測定されたのかまで確認します。異なる流量条件で得られた数値を、そのまま横並びに比較することは適切ではありません。

例えば、「流量抵抗0.9cm H₂O(30L/min)」と表記されていた場合、1分間あたり30Lのガス(空気や酸素)を流した状態での流量抵抗を示しています。30L/minは、成人の平均的な呼気流速の目安です。

さらに、使用開始時の仕様値だけでなく、使用中の変化にも注意が必要です。分泌物や水分などが人工鼻内部に付着すれば、抵抗が増加する可能性があります。

換気状態の悪化や抵抗上昇が疑われるときは、予定された交換時間までそのまま使い続けるのではなく、人工鼻の状態を確認し、必要に応じて交換や加湿方法の再評価を行います。

 

人工鼻の禁忌と使用を再評価する条件

人工鼻は有用な加湿方法ですが、すべての患者に適しているわけではありません。

2024年のAARCガイドラインでは、患者—人工呼吸器評価の中で、分泌物、追加死腔、体温、リーク、抵抗などを踏まえ、加湿デバイスの適切性を継続して評価することが重視されています。

「禁忌」という言葉だけを暗記するのではなく、なぜその条件でHMEが問題になり得るのかまで理解しておくことが大切です。

 

ネブライザや加温加湿器との併用

薬剤をエアロゾルとして投与するネブライザを使用する場合や、加温加湿器へ切り替える場合には、人工鼻を使用してはいけません。

人工鼻を回路内に残したままネブライザを使用すると、人工鼻が目詰まりを起こし、患者が呼吸困難を起こすおそれがあります。また、人工鼻は加温加湿器との併用により閉塞し、換気が困難となるおそれがあります。

 

分泌物や出血が多い場合

分泌物が多い場合や、粘稠(ねんちゅう)な分泌物、血液が人工鼻へ流入する状況では、内部への付着によって抵抗が増加したり、閉塞につながったりする可能性があります。

 

閉塞や抵抗上昇が懸念されるときは加湿方法を再評価する

分泌物が増えている患者では、「人工鼻を交換すれば、そのままHMEを使い続けられる」とは限りません。

人工鼻そのものの状態に加え、次の点を確認します。

  • 分泌物の量や性状
  • 気道内の乾燥状態
  • 回路抵抗
  • 換気状態
  • 必要な加湿量

これらを踏まえ、HMEを継続するのか、加温加湿器など別の加湿方法へ変更するのかを評価します。

 

低一回換気量や大きなリークがある場合

人工鼻が呼吸回路へ追加する死腔は、特に一回換気量が小さい場合に相対的な影響が大きくなります。

また、患者と回路の間に大きなリークがある場合は、十分な呼気が人工鼻を通らず、呼気から熱と水分を回収するHME本来の仕組みが機能しにくくなる可能性があります。

 

患者条件によって加温加湿器が適する場合がある

一回換気量、追加死腔、換気状態、分泌物、リーク、体温などを評価した結果、受動加湿であるHMEよりも、加温加湿器による能動加湿が適する場合があります。

人工鼻を使用している患者で換気や加湿状態に変化が見られた場合は、「現在使っている人工鼻が引き続き適切か」という点まで含めて再評価します。

 

人工鼻の交換頻度と日常点検

交換時期を決める基準

すべての製品に共通する一つの交換時間はなく、人工鼻の交換頻度は製品によって異なりますが、24時間以内の交換を推奨しているものが多いです。

交換頻度は、実際に使用する製品の添付文書を上限として、患者状態や人工鼻の汚染・閉塞・抵抗上昇も合わせて判断します。

 

交換頻度は一律に決めず、添付文書と患者状態で判断する

交換頻度を決めるときにまず確認するのは、実際に使用している製品の添付文書です。

ただし、製品が定める交換上限まで必ず使い続けるという意味でもありません。患者と人工鼻の状態を継続して確認します。

交換判断は、次の順で整理すると分かりやすくなります。

  1. 使用製品の交換上限を確認する
  2. 分泌物や汚染の有無を確認する
  3. 抵抗や換気状態に変化がないか確認する
  4. 異常があれば予定時間前でも交換・再評価する

 

予定より早く交換するサイン

人工鼻には時間による交換基準だけでなく、使用中の状態によって早めの交換が必要になる場合があります。

一部製品の添付文書では、分泌物などによって抵抗が上昇した場合や、閉塞が疑われる場合には直ちに交換することが示されています。

 

汚染・分泌物付着・抵抗上昇・換気変化を確認する

日常的には、次の点を確認します。

  • 人工鼻内部に目立つ分泌物や汚染がないか
  • 呼吸回路内で閉塞を疑う変化がないか
  • 抵抗の増加が疑われないか
  • 換気量や気道内圧などに変化がないか
  • 使用時間が製品の交換上限に達していないか

換気状態に異常があるときは、「交換時間までまだ残っている」という理由だけで使用を継続せず、人工鼻を含む呼吸回路全体を確認します。

 

人工鼻の仕様表をどう読むか

人工鼻を比較するときは、一つの数字の大きさだけで優劣を決めるのではなく、患者に必要な条件を順番に確認していくことが重要です。

 

一回換気量・死腔量・加湿・流量抵抗を条件付きで比較する

仕様表は、次の順に見ると整理しやすくなります。

  1. まず、その製品の一回換気量の適用範囲に患者が入っているかを確認します。
  2. 次に見るのが死腔量です。特に一回換気量が小さい患者では、追加死腔の影響を慎重に評価します。
  3. 続いて、必要な加湿性能が得られるかを確認します。加湿値は、測定された一回換気量などの条件まで含めて読みます。
  4. 流量抵抗についても、測定条件を確認します。異なる流量で得られた値をそのまま比較しないことが重要です。

HMEFを選ぶ場合には、フィルターの試験性能も確認します。

 

重量も比較のポイントになる

人工鼻が軽ければ軽いほど、気管チューブへのテンションが緩和されます。人工鼻そのものの重量も、比較のポイントになります。

仕様表の例

製品例 人工鼻エディス1000 人工鼻フィルタ HMEF 750/S
一回換気量 110mL~1,000mL 120mL~750mL
重量 8g 19g
死腔量 28mL 34mL
加温・加湿 30.0 (Vt750mL) 30.0 (Vt500mL)
流量抵抗 1.0 (30L/min) 0.9 (30L/min)
BFE 99.9999%
VFE 99.998%

 

 

まとめ

人工鼻には、呼気の熱と水分を利用して吸気を加温・加湿するHMEと、フィルター機能を加えたHMEFがあります。

選定時は、「加湿性能が高い」「BFE・VFEが高い」といった一つの数字だけを見るのではなく、一回換気量、死腔量、加湿性能、流量抵抗、フィルター機能を患者の状態と合わせて確認します。

交換頻度なども、製品ごとに異なります。一般論だけで決めず、使用する製品の添付文書を確認してください。

使用開始後も、分泌物、抵抗、換気状態などに変化がないかを観察し、現在の加湿方法がその患者に適しているかを継続して評価することが重要です。

 

参考出典

 

関連製品

人工鼻エディス

コンパクトなスリムデザインながら安定した加湿性能を実現した人工鼻です。新生児・小児・成人・ラージボリュームまで豊富なサイズを揃えています。

販売名:AirLife麻酔回路セット(Edith)
区分:管理医療機器
承認番号:307AFBZX00070000
製造販売業者:株式会社名優
製品ページ:https://meilleur.co.jp/product/hme/

 

人工鼻フィルタ HMEF

軽量でコンパクトな人工鼻フィルタです。高いフィルタリング性能と流量抵抗の低さが特長の疎水性静電フィルタを採用しています。分泌物や結露を確認しやすいクリアなハウジングです。

販売名:AirLife麻酔回路セット(人工鼻フィルタ)
区分:管理医療機器
承認番号:307AFBZX00070000
製造販売業者:株式会社名優
製品ページ:https://meilleur.co.jp/product/hmef/

よくある質問

人工鼻は何と読みますか?

「じんこうばな」と読みます。英語ではHeat and Moisture Exchangerと呼ばれ、HMEと略されます。

人工鼻と人工鼻フィルタ(HMEF)は同じものですか?

同じではありません。HMEは主に加温・加湿を行い、HMEFはそれにフィルター機能を加えた製品です。

人工鼻は何時間ごとに交換しますか?

人工鼻の交換頻度は製品によって異なりますが、24時間以内の交換を推奨しているものが多いです。使用する製品の添付文書に定められた交換上限を確認し、汚染や分泌物付着、抵抗上昇などがあれば予定より早い交換を検討します。

人工鼻の死腔量はなぜ確認する必要がありますか?

人工鼻の内部容積が器械的死腔として追加されるためです。特に一回換気量が小さい場合は相対的な影響が大きくなるため、一回換気量の適用範囲と合わせて確認します。