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再生処理の知識

歯科診療における滅菌保証について。ハンドピース内部までの滅菌を確認する方法は?

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複雑な内部構造であることから、滅菌が難しいことで知られる歯科用ハンドピース。

 

2015年には、豪州で器材の不適切な再生処理による大規模な交差感染の可能性の報道がありました。日本でも、2019年に歯科における院内感染対策の現状が報道され、話題になりました。

 

器材の不十分な再生処理は、交差感染に繋がりかねません。

 

滅菌が難しいとされるハンドピース内部までの滅菌をどのように確認するのか?

 

この記事を読めば、内腔器材の滅菌保証の基本を押さえることができます。

1. ハンドピース内部の滅菌

1-1. ハンドピースは内腔(管腔)構造を有する器材

歯科診療においては、ミラーやピンセット、ハンドピースなど、様々な器材が使用されます。その中でもハンドピースは、圧縮空気や水を通す管が存在し、いわゆる「内腔構造」を有する器材として分類されます。

ハンドピースの内部構造

ハンドピースの内部構造

 

1-2. 内腔器材は蒸気が浸透しづらく滅菌が難しい

歯科で多用されるオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)では、高温の蒸気が器材に暴露し、凝縮を生じ高温の水となって器材を滅菌します。高圧蒸気滅菌では、滅菌器内の器材のあらゆる表面に飽和蒸気が達することが必要不可欠です。

滅菌器内に空気が残存していると、飽和水蒸気が到達せず、空気が残存した部分は乾熱状態となり、温度が上がっても滅菌不良の原因となることがあります。特に、ハンドピースなどの内腔構造を有する医療器材は、器材内部に含まれる空気を除去しにくいため蒸気が浸透しづらいと言われています。

内腔器材への蒸気浸透の仕組み

内腔器材への蒸気浸透の仕組み

 

1-3. 器材の不十分な再生処理は交差感染に繋がる

2015年豪州にて、器材の不適切な再生処理による大規模な交差感染の可能性があると報道されました。最大1万1000人がHIVや肝炎ウイルスに接触した恐れがあるとして、大きな話題になりました。

歯科治療で使用する器材の再生処理は、患者の安全に関わる極めてクリティカルな業務です。使用されるすべての器材は、次の患者にも安全に使用できるように、確実に再生処理される必要があります。

歯科受診した1万1000人にHIV感染の恐れ、豪シドニー

AFPBB News

 

1-4. 日本での院内感染対策もまだまだ進んでいるとは言えない

日本でも、2019年に歯科の院内感染対策の現状に関する報道がありました。52%の施設しか患者ごとにハンドピースを交換、滅菌していないという調査結果が公表され、大きな話題となりました。

その後、歯科における器材の再生処理の重要性が少しづつ認識されるようになってきていますが、まだ十分とは言えないのが現状です。

歯科治療、進まぬ院内感染対策「患者ごとに器具交換・滅菌」まだ半数

朝日新聞デジタル

 

2. クラスBオートクレーブとは?

2-1. 歯科で使用される小型オートクレーブには3種類ある

歯科で多用される小型オートクレーブに関する規格として、欧州規格であるEN13060があります。EN13060では、小型オートクレーブは以下のように規定されています。

クラス 蒸気滅菌工程 概要 滅菌対象物
クラスB
(Big Autoclave Cycle)
反復加圧・真空脱気 真空ポンプを備え、包装内や器材内部における空気除去、蒸気浸透が可能な滅菌器 あらゆるタイプの包材、管腔、非管腔、多孔、非多孔器材
クラスS
(Specific Cycle)
製造元の仕様による クラスBとクラスNとの中間の空気除去性能を備えた滅菌器 製造元の指定する器材(歯科ハンドピースに対応した機種もある)
クラスN
(Naked Cycle)
重力置換式 真空ポンプを備えず重力を利用して蒸気で空気を置換する滅菌器 包装していない非管腔、非多孔器材

 

2-2. ガイドライン(指針)ではクラスBオートクレーブの使用が強く推奨されている

使用したハンドピースの再生処理について、一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)には、p.14に以下のように記載されています。ハンドピースの滅菌については、可能であればクラスBオートクレーブで滅菌することが強く推められています。本指針において「強く推められる」は、「強い科学的根拠があり行うように強く勧められる場合」と定義されています。

【質問8】
 使用したハンドピースは、患者ごとにオートクレーブ滅菌する方がアルコールなど消毒薬を用いた清拭よりも、院内感染防止に有効ですか?

【回答】
 エアタービンハンドピースは、回転停止時にタービンヘッド内に陰圧が生じ、口腔内の唾液、血液、切削片などを含む汚染物資が内部に吸い込まれるサックバック現象が問題とされ、最近ではサックバック防止構造が各メーカーのハンドピースに備えられています。
 しかし、色素液を用いたサックバック現象の研究によれば、エアタービンハンドピースで色素の内部吸い込みが確認されており、患者に使用後、ハンドピースの外面はもとより内部の給気や給水のための細管内腔を滅菌しないハンドピースを次の患者に使用すれば交差感染を引き起こす可能性があります。低速回転の歯面研磨用ハンドピースでも同様の問題が明らかにされていますので、使用したハンドピースは患者ごとに交換し、オートクレーブ(可能ならばクラス B オートクレーブ滅菌)することが強く勧められます

 

クラスBオートクレーブ

クラスBオートクレーブの一例(MORITA

 

3. 化学的インジケータ(CI)とは?

3-1. 滅菌条件の達成を確認する

オートクレーブで滅菌した器材が本当に滅菌できたか確認する方法の一つとして、化学的インジケータがあります。化学的インジケータは、滅菌に必要な条件(134℃の飽和蒸気が3分間暴露するなど)が達成されると、変色する仕組みになっています。器材を包装する滅菌バッグなどに、一緒に挿入して使用します。

タイプ5CI変色見本

 

3-2. インジケータは置かれた場所の情報しか得ることができない

インジケータの使用に関して、注意しなければならないことがあります。それは、どんなインジケータであれ、それが置かれた場所の情報しか得ることができないということです。

例えば、ハンドピースと一緒に滅菌バッグに入れて滅菌したインジケータが変色した場合。これは、ハンドピースの横が、滅菌に必要な条件に達していたことを示しています。つまり、ハンドピースの横(外表)よりも滅菌しづらい内部の保証は、何もできていません。

ハンドピースとインジケータ

 

3-3. インジケータをハンドピース内部に挿入することはできない

ハンドピース内部までの滅菌を確認するためには、インジケータをハンドピースの中に挿入し、その結果を確認する必要があります。しかし、ハンドピースの内腔内径は非常に小さく、インジケータを入れることは物理的に不可能です。

インジケータをハンドピースに挿入することはできない

 

3-4. PCDを使用してハンドピース内部の滅菌しづらさを再現する

では、どのようにしてハンドピース内部の滅菌条件の達成を確認するのでしょうか?そこで、PCD(Process Challenge Device)というデバイスを使用します。

PCDは、意図的に蒸気浸透性を悪くする抵抗性を持ったデバイスです。ハンドピース内部よりも滅菌抵抗性が高い(滅菌しづらい)環境を再現し、その中にインジケータを挿入し、器材と一緒に滅菌します。PCD内に挿入されたインジケータが合格していれば、ハンドピース内部も滅菌できていると推定することで、内部の滅菌条件の達成を確認します。

PCDとは?

 

 

4. SALWAY 歯科用コンパクトPCD

4-1. 歯科用に開発された唯一のPCD

SALWAY 歯科用コンパクトPCDは、歯科器材の滅菌工程を想定して開発された唯一の歯科器材用PCDです。8,000回以上再使用可能なPCD本体に、化学的インジケータを挿入して、器材と一緒に滅菌しインジケータの結果を確認します。

インジケータのSV値は、134℃ 3分/121℃ 15分です。プリオンサイクル(滅菌条件 134℃ 18分)に対応した、専用のインジケータ(SV値 134℃ 18分)もあります。

歯科用コンパクトPCD

クラスBオートクレーブ

 

4-2. ハンドピースより滅菌抵抗性が高いことが検証されている(DIN58921)

コンパクトPCDの内部は、蒸気が浸透しづらいようにするために、特殊な内腔構造になっています。この構造が、ハンドピース内部よりも滅菌しづらい(蒸気が浸透しづらい)環境を創り出しています。

ドイツ工業規格DIN58921に基づく試験により、その性能が検証されています。DIN58921は、医療機器の滅菌抵抗性を測る方法の規格です。

DIN 58921
Test Method To Demonstrate The Suitability Of A Medical Device Simulator During Steam Sterilisation – Medical Device Simulator Testing

歯科用コンパクトPCDの内部構造

歯科用コンパクトPCDの内部構造

 

4-3. 器材内部の滅菌不良の可能性を見抜く

コンパクトPCDを使用する意味は、ハンドピースなどの内腔器材の内部まで滅菌できているかを確かめることです。

滅菌バッグに挿入した(ハンドピースの横に置いた)インジケータは合格したものの、コンパクトPCD内のインジケータは不合格を示すことがあります(赤枠内)。これは、器材の表面は滅菌条件を達成できているが、器材内部は滅菌不良の可能性があることを示しています。オートクレーブの性能が低下している時などに、このような変色不良が発生します。

より滅菌が難しい器材内部までの滅菌条件の達成を確認するためには、毎回PCDを使用し、その結果を確認することが重要です。

包装内CIとコンパクトPCD

 

4-4. 不合格の場合は、滅菌器に不具合が発生している可能性がある

コンパクトPCDが不合格の場合は、滅菌器に以下のような不具合が発生している可能性があります。

・滅菌器のドアパッキンの亀裂
・真空ポンプの性能低下
・電磁弁の劣化 など

このような不具合が発生している状態では、内腔器材の内部で滅菌不良を起こしている可能性があるため、滅菌器の点検や修理が必要です。滅菌器の不具合をいち早く検知するという意味においても、PCDを使用することは有用です。

 

4-5. 安全な器材 = 欧州基準の滅菌器 + 欧州基準の滅菌保証

これまでお話した通り、ハンドピースなどの滅菌が難しい器材を確実に滅菌し再使用するためには、内腔器材を滅菌することができるクラスBオートクレーブを使用するだけでは不十分です。

内腔器材の内部まで滅菌できているか、ハンドピース内部よりも滅菌が難しいPCDの結果を毎回確認することで、初めて安全な器材を提供する(払い出す)ことができます。

安全な器材を払い出すには?

 

 

いかがでしたでしょうか?

歯科用コンパクトPCDに関するお問合せや各種ご依頼(お見積り/サンプルなど)は、営業担当またはSALWAYのWebサイトのお問合せフォームよりご連絡下さい。

 

SALWAY 歯科用コンパクトPCD

 

 

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