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再生処理の知識

【検証試験】高圧蒸気滅菌(オートクレーブ)の蒸気浸透性について。内腔器材の内部まで蒸気を浸透させるには?

蒸気が浸透しづらく、滅菌が難しいといわれるラパロ鉗子や気腹チューブなどの内腔器材。

 

高圧蒸気滅菌の滅菌剤である飽和蒸気を、内腔器材の内部まで十分に浸透させるには、どうすれば良いのでしょうか?

 

今回は「10本テスト」と呼ばれる蒸気浸透性試験の結果を通じて、高圧蒸気滅菌器の蒸気浸透力を向上させる方法を考察します。

 

1. 蒸気浸透性試験とは?

1-1. ダヴィンチのインストゥルメントやラパロ鉗子は、蒸気が浸透しづらく滅菌が難しい

高圧蒸気滅菌では、高温の蒸気が器材に暴露し、凝縮を生じ高温の水となって滅菌します。滅菌器内に空気が残存していると、飽和蒸気が到達せず、空気が残存した部分は乾熱状態となり、温度が上がっても滅菌不良の原因となることがあります。特に、ダヴィンチのインストゥルメントやラパロ鉗子、気腹チューブなどの内腔構造を有する医療器材は、器材内部に含まれる空気を除去しにくいため蒸気が浸透しづらいと言われています。

ダヴィンチと気腹チューブ

 

1-2.  内腔器材を滅菌するためには、十分な空気除去・蒸気浸透が不可欠

高圧蒸気滅菌で器材を滅菌するためには、134℃であれば3分間、121℃であれば15分間、飽和蒸気が器材のあらゆる面に暴露しなくてはなりません。飽和蒸気を器材に暴露させるためには、空気を除去し蒸気を浸透させる必要があります。空気が除去しづらい内腔器材の内部まで滅菌するには、空気除去と蒸気浸透を反復する必要があります。

内腔器材への蒸気浸透の仕組み

内腔器材への蒸気浸透の仕組み

 

1-3. 滅菌器の蒸気浸透性試験の欧州規格 EN867-5 Hollow A

高圧蒸気滅菌器の蒸気浸透性を測る試験として、欧州規格EN867-5 Hollow Aという規格があります。

これは、内径2mm ×長さ1.5mのチューブの終端にインジケータが設置された、管腔型PCD(Process Challenge Device)です。たとえ長いチューブであっても、終端のFree capsule volumeが大きければインジケータは簡単に反応してしまうため、この値も厳密に規定されています。空気が除去しにくいデッドエンドのチューブの先にあるインジケータの合否を確認し、その滅菌器が内腔器材を滅菌するために必要な蒸気浸透力を有しているかを試験します。

元々EN867-5は、小型滅菌器の性能試験器具として欧州規格EN13060に規定されていました。その後2008年に、大型滅菌器の性能試験器具として欧州規格EN285に追加されています。

つまり、欧州の大型滅菌器には、このEN867-5 Hollow A試験の合格が求められるということです。

EN867-5 Hollow A

EN867-5 Hollow A

 

2. 検証試験の全体像

2-1. 蒸気浸透試験器具「10本テスト」を使用

今回の検証試験では、蒸気浸透への抵抗性の異なる10本のテストチューブを用いたテスト器材、通称「10本テスト」を使用しました。

10本テスト

10本テスト

 

10本テストでは、HPR値が異なる10本のチューブを滅菌し、どのレベルのチューブまで蒸気を浸透させることができるかを試験します。

HPR値とは、Hollow-Device-Penetration-Resistance(管腔器材の蒸気浸透抵抗値)の略で、チューブの長さ(m)を内径(mm)を乗じた値(㎜²/1000)のことです。HPR値が大きいほど、蒸気浸透が難しく、滅菌が困難であることがわかっています*¹。

欧州の大型滅菌器に要求される蒸気浸透性は、長さ1.5m × 内径2mmのチューブ(HPR値=3)であり、10本テストのNo.③がこれに適合します。つまり、10本テストのNo.③が合格するかで、欧州の大型滅菌器に要求されるレベルの蒸気浸透性を有しているかを判断することができます。

No. PCDの寸法(長さm × 内径mm × チューブの厚みmm) HPR値
0.75 × 2 × 0.5 1.5
1.0 × 2 × 0.5 2
1.5 × 2 × 0.5(EN867-5 Hollow A 適合) 3
1.5 × 3 × 0.5 4.5
1.0 × 5 × 0.5 5
1.5 × 4 × 0.5 6
3.0 × 3 × 0.5 9
2.0 × 5 × 0.5 10
3.0 × 4 × 0.5 12
3.0 × 5 × 0.5 15

 

*¹ Investigation of Air Removal from Hollow Devices in Steam Sterilization Process (U.Kaiser and J.Goman)

 

2-2. タイプ5CIと同じ挙動を示すケミカルインジケータを用いて蒸気浸透を確認する

10本テストには、ケミカルインジケータ(CI)を使用します。このインジケータは、滅菌工程のすべての重要プロセス変数(飽和蒸気・温度・時間)に反応し、幅広い温度帯においてBI(指標菌)の死滅との相関を示します。

10本テスト

 

インジケータは変色前が黄色で、滅菌に必要な条件が達成されると黒色へ変色します。インジケータのSV値は、134℃ 3分/121℃ 15分です。今回の検証試験は、134℃で実施しました。

インジケータのカラーチャート

10本テスト カラーチャート

 

2-3. 試験条件

今回の検証試験の目的は、内腔器材への蒸気浸透性を向上させるにはどうしたらいいのか?を考察することです。そのために、3パターンの滅菌条件の設定変更をおこない、どの方法が有効なのかを検証しました。

 2-3-1. ①真空パルスの回数を増やす

真空パルスの回数を増やしたときに、蒸気浸透力がどのように変化するのかを検証します。滅菌温度や滅菌時間を変えずに、真空パルスを3回から4回に増やしました。

試験条件①

  before after
真空パルス 3回 4回
滅菌温度 135℃ 135℃
滅菌時間 8分 8分

 

 2-3-2. ②真空引きを深くする

真空引きの深さを深くしたとき、蒸気浸透力がどのように変化するのかを検証します。滅菌温度や時間、真空パルス回数を変えずに、真空引きの圧力を-85kPaから-90kPaに変更しました。

試験条件②

  before after
真空引き -85kPa -90kPa
真空パルス 3回 3回
滅菌温度 135℃ 135℃
滅菌時間 8分 8分

 

 2-3-3. ③蒸気浸透が不十分なまま滅菌時間を長くする

蒸気浸透性が悪い状態でも、滅菌時間を長くすることで内腔器材へ蒸気が浸透するかを検証します。真空パルスの回数を意図的に1回に設定し、滅菌時間を8分から14分に延ばしました。

試験条件③

  before after
真空パルス 1回 1回
滅菌温度 135℃ 135℃
滅菌時間 8分 14分

 

3. 試験結果

3-1. ①真空パルスの回数を増やすと、蒸気浸透力が改善する可能性がある

真空パルスを3回から4回に増やした時の、10本テストの結果です。

真空パルス3回では、No.⑦~⑩が変色不良を起こしており、十分に蒸気が浸透していません(赤枠)。一方で、真空パルスを4回に増やすと、No.⑩まですべてのインジケータが変色しました。

つまり、真空パルスの回数を増やすことで内腔器材への蒸気浸透力が改善する可能性があるということです。

真空パルス回数を増やした場合のインジケータの変色結果

真空パルスの回数を増やした場合

 

3-2. ②真空引きを深くすることで、蒸気浸透力が改善する可能性がある

続いて、真空引きの深さを-85kPaから-90kPaに変更した時の結果です。

-85kPaでは、No.④から一部変色不良が起こり始めています。真空引きの深さを-90kPaに変更すると、No.⑤にわずかに変色不良が見られたものの、全体的にインジケータの変色度合いが強くなっていることが読み取れます。

真空引きを深くすることで、蒸気浸透力が向上する可能性が示唆されました。

真空引きを深くした場合のインジケータ変色結果

真空引きを深くした場合

 

3-3. ③蒸気浸透が不十分なまま滅菌時間を長くしても、滅菌不良の可能性がある

最後に、蒸気浸透性が悪い状態で、滅菌時間を長くしたときの結果です。

今回の滅菌条件は真空パルス1回なので、滅菌時間が8分の場合でもすべてのレベルにおいてインジケータは変色不良を示しています。

滅菌時間を8分から14分にすることで、No.①のインジケータは変色するようになりました。しかし、欧州の大型滅菌器に要求されるNo.③においては、滅菌時間を長くしてもインジケータは変色不良を示したままです。

つまり、蒸気浸透性が悪いままでは、滅菌時間を長くしたとしても、内腔器材の内部では滅菌不良が起こる可能性があるということです。

 

蒸気浸透が不十分なまま滅菌時間を長くした場合のインジケータの変色結果

真空パルス1回で滅菌時間を延ばした場合

 

4. まとめ

今回の蒸気浸透性試験の結果のまとめです。

内腔器材への蒸気浸透が不十分であるときは、真空パルスの回数を増やしたり、真空引きを深くすることで、蒸気浸透力を改善できる可能性があることがわかりました。

一方で、蒸気浸透力が不十分な状態で滅菌時間だけを長くしたとしても、内腔器材の内部までは滅菌できず滅菌不良となる可能性があります。

 

 

いかがでしたでしょうか?

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