騒音性難聴とは大きな音で内耳が傷つく難聴
騒音性難聴とは、大きな音に長期間または繰り返しさらされることによって、内耳の機能が損なわれて起こる感音難聴です。
耳から入った音は、内耳にある「蝸牛(かぎゅう)」で電気信号に変換され、聴神経を通じて脳へ伝わります。蝸牛には、音の振動を捉える有毛細胞があります。大きな音を聞き続けると、この有毛細胞などが徐々に傷つき、音を感じ取る力が低下します。
厚生労働省は、職場での騒音性難聴を防ぐため、2023年4月に「騒音障害防止のためのガイドライン」を改訂しました。騒音性難聴は治療が難しい一方、騒音への曝露を減らすことで、発症や進行を予防できる可能性があります。
騒音性難聴と音響外傷の違い
大きな音によって起こる難聴には、慢性的な騒音性難聴のほかに「音響外傷」があります。
騒音性難聴は、工場の機械音や大音量の音楽などに長期間さらされ、聴力が徐々に低下する病気です。一方、音響外傷は、爆発音や銃声、ライブ会場のスピーカーなど、非常に大きな音を一度または短時間聞いたことで急に発症します。
音響外傷では、大きな音を聞いた直後から、耳鳴り、耳が詰まった感じ、聞こえにくさなどが現れます。早期の治療によって回復する場合があるため、急に症状が現れたときは、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診しましょう。
騒音性難聴の主な原因
騒音性難聴のリスクには、音の大きさだけでなく、その音を聞く時間や期間も関係します。
大きな音ほど、短い時間でも耳を傷つける可能性があります。一度に聞く音がそれほど大きくなくても、長時間・長期間にわたって聞き続ければ、耳への負担が積み重なります。
工場や建設現場などの職業性騒音
騒音性難聴の代表的な原因が、仕事中に長期間さらされる騒音です。
具体的には、次のような作業環境が挙げられます。
- 金属加工やプレス作業
- 工場内での機械操作
- 建設・解体作業
- トンネル工事
- 林業や木材加工
- 発電機や重機を扱う作業
毎日同じ騒音を聞いていると、次第に音に慣れたように感じることがあります。しかし、音を不快に感じなくなっても、耳への負担がなくなったわけではありません。
イヤホン・ヘッドホンの大音量・長時間使用
イヤホンやヘッドホンで大きな音を長時間聞くことも、騒音性難聴の原因になります。このような難聴は「イヤホン難聴」や「ヘッドホン難聴」と呼ばれることもあります。
特に電車内や街中などの騒がしい場所では、周囲の音に負けないよう、無意識に音量を上げがちです。その状態で長時間使用すると、耳への負担が大きくなります。
ノイズキャンセリング機能を使えば、周囲の騒音を抑え、再生音量を下げやすくなります。ただし、ノイズキャンセリング機能を使っていても、大音量・長時間の使用は避けてください。
ライブやスポーツ観戦などで聞く大音量
ライブ、コンサート、クラブ、スポーツ観戦などでも、大きな音にさらされることがあります。
特にスピーカーの近くは音圧が高く、短時間でも耳に障害が生じる可能性があります。花火、爆竹、銃声、爆発音などの衝撃音にも注意が必要です。
このような強大音を聞いた直後に症状が現れた場合は、慢性の騒音性難聴ではなく、急性の音響外傷が疑われます。
騒音性難聴の初期症状
騒音性難聴は、初期には日常会話で使う音域よりも高い音域から聴力が低下する傾向があります。そのため、ある程度進行するまで本人が気づかないことがあります。
高い音から聞こえにくくなる
騒音性難聴では、初期に4,000Hz付近の聴力が低下する「4,000Hz dip」または「c5 dip」と呼ばれる聴力像がみられることがあります。
ただし、聴力検査でこの形が確認されただけで、騒音性難聴と確定するわけではありません。診断では、騒音にさらされた環境や期間、ほかの病気の可能性なども確認されます。
初期には日常会話を大きな不自由なく聞き取れる場合もあり、本人が聴力低下に気づきにくい点に注意が必要です。
声は聞こえても言葉を聞き分けにくくなる
騒音性難聴では、「音がまったく聞こえない」というより、「声は聞こえるのに、何を言っているのかわからない」と感じることがあります。
たとえば、次のような変化がみられます。
- 騒がしい場所では会話を聞き取りにくい
- 複数人の会話についていきにくい
- 聞き間違いや聞き返しが増えた
- 電話の声を聞き取りにくい
- 離れた場所からの呼びかけに気づかない
高音域の聴力が低下すると、言葉に含まれる子音などを聞き分けにくくなるためです。
耳鳴りや耳が詰まった感じが現れる
騒音にさらされたあとに、キーン、ピー、ジーといった耳鳴りが現れることがあります。耳が塞がったように感じる「耳閉感」を伴う場合もあります。
静かな場所に移動して耳を休ませると、症状が軽くなることもあります。しかし、耳鳴りや耳閉感を繰り返す場合は、耳が大きな音の影響を受けている可能性があります。
一時的な症状だと決めつけず、イヤホンの使用や騒音への曝露をいったん中止しましょう。
騒音性難聴が進行したときの症状
騒音への曝露が続くと、聴力低下が日常会話に使う音域まで広がり、生活への影響が現れます。
代表的な変化は次のとおりです。
- テレビの音量が以前より大きくなった
- 家族や同僚から聞き返しが増えたと指摘された
- 離れた場所からの呼びかけに気づかない
- 騒がしい場所で会話を聞き取れない
- 電話の声がわかりにくい
- 耳鳴りが長く続く
一般的な職業性の騒音性難聴は、両耳に起こる傾向があります。ただし、左右で音へのさらされ方が異なれば、聴力低下の程度に差が出ることもあります。
片耳だけの難聴や耳鳴りには、騒音以外の病気が隠れている可能性もあります。騒音が原因だと自己判断せず、耳鼻咽喉科で検査を受けることが大切です。
騒音性難聴は治る?耳鳴りが治ったら問題ない?
騒音性難聴や耳鳴りが回復するかどうかは、耳の障害が慢性的なものか、急性のものかによって異なります。
慢性的な騒音性難聴は元に戻りにくい
長期間の騒音によって内耳が傷つき、慢性的な騒音性難聴になった場合、低下した聴力を元の状態に戻す治療法は、現在のところ確立されていません。
ただし、「治らないなら受診しても意味がない」ということではありません。
聴力の状態や原因を調べたうえで騒音への曝露を減らせば、さらなる進行を防げる可能性があります。日常生活に支障が出ている場合は、補聴器などで聞こえを補う方法も検討できます。
耳鳴りが治っても聴力が回復したとは限らない
大きな音を聞いたあとに生じた耳鳴りは、静かな場所で耳を休ませると軽くなることがあります。また、時間の経過や治療によって、耳鳴りが気にならなくなる場合もあります。
しかし、「耳鳴りが治った=聴力も元に戻った」とは限りません。耳鳴りが消えても、自覚しにくい音域で聴力が低下している可能性があります。
耳鳴りを繰り返す場合や、聞こえにくさを伴う場合は、症状が治まっていても耳鼻咽喉科で聴力を確認してもらいましょう。
急性音響外傷は早期治療で回復する場合がある
ライブや爆発音などのあとに突然症状が現れた場合は、慢性的な騒音性難聴ではなく、急性音響外傷の可能性があります。
急性音響外傷は、難聴の程度が軽く、早期に治療を開始できた場合には回復することがあります。大きな音を聞いたあとに急な難聴、耳鳴り、耳閉感が生じたら、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してください。
治療法は症状や検査結果によって異なります。市販薬などで自己対処せず、医師の診断を受けることが重要です。
騒音性難聴を予防するための5つの対策
騒音性難聴は、発症してから聴力を取り戻すことが難しい病気です。騒音をできるだけ減らし、耳に届く音の大きさと曝露時間を抑えましょう。
①騒音の発生源を改善する
職場では、耳栓だけに頼るのではなく、まず騒音の発生源や作業環境を改善することが基本です。
具体的には、次のような対策があります。
- 騒音の少ない機械や作業方法に変更する
- 機械を点検し、不要な振動や騒音を減らす
- 音源を防音カバーで囲う
- 防音壁や吸音材を設置する
- 騒音作業を別室や離れた場所で行う
職場の騒音対策は、作業者個人だけでは十分に進められません。事業者や管理者を含め、職場全体で取り組む必要があります。
②音源から距離を取り、曝露時間を短くする
音源から離れるほど、耳に届く音は一般に小さくなります。
ライブやイベントではスピーカーの近くを避け、途中で静かな場所へ移動して耳を休ませましょう。仕事では、騒音のある場所での作業時間を短くする、休憩を設ける、作業者を交代するといった対策があります。
③耳栓やイヤーマフを正しく使用する
騒音を十分に減らせない場合は、耳栓やイヤーマフなどの聴覚保護具を使用します。
耳栓は、耳に合っていなかったり、正しく装着できていなかったりすると、期待する遮音効果が得られません。一方、必要以上に遮音すると、警告音や周囲の声が聞こえにくくなる場合があります。
騒音の大きさや作業内容に合った製品を選び、正しい装着方法を確認しましょう。非常に大きな騒音環境では、耳栓とイヤーマフを併用する場合もあります。
④イヤホンの音量と使用時間を見直す
イヤホンやヘッドホンを使用するときは、次の点を意識してください。
- 音量を必要以上に上げない
- 長時間連続して使用しない
- 定期的に外して耳を休ませる
- 騒がしい場所ではノイズキャンセリング機能を活用する
- 耳鳴りや耳閉感を感じたら使用を中止する
「最大音量の何%までなら必ず安全」と一律には判断できません。機器や音源によって実際の音量が異なるため、設定上の数値だけで判断せず、使用時間も短くすることが重要です。
⑤定期的に聴力検査を受ける
騒音性難聴は、本人が気づかないうちに進行することがあります。騒音のある職場で働いている人は、対象となる健康診断を受け、過去の検査結果と比較しましょう。
聴力低下を早期に発見できれば、作業環境や聴覚保護具を見直し、さらなる進行を防ぐ対策につなげられます。
早めに耳鼻咽喉科を受診したい症状
次のような症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
- 突然、片耳または両耳が聞こえにくくなった
- 大きな音を聞いたあとに耳鳴りや耳閉感が現れた
- 耳鳴りや聞こえにくさが続いている
- 片耳だけに症状がある
- めまい、吐き気、耳の痛みなどを伴う
- 会話や電話に支障が出ている
- 職場の聴力検査で異常を指摘された
急な難聴は、音響外傷だけでなく、突発性難聴などでも起こります。治療開始までの時間が経過に影響する病気もあるため、「そのうち治るだろう」と様子を見続けないことが大切です。
まとめ
騒音性難聴は、大きな音に長期間または繰り返しさらされ、内耳が傷つくことで起こる難聴です。初期には高い音から聞こえにくくなるため、自覚しにくいことがあります。
慢性的な騒音性難聴によって失われた聴力を元に戻すことは難しく、予防と進行防止が重要です。騒音を小さくする、音源から距離を取る、曝露時間を短くする、耳栓やイヤーマフを適切に使用するといった対策を組み合わせましょう。
耳鳴りが治まっても、聴力への影響が残っている可能性があります。急な耳鳴りや聞こえにくさ、繰り返す症状がある場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診してください。
参考出典
- 厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドライン」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「『難聴』のリスクを生む、危険な音量とは」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「音響外傷」
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「耳鳴り」
- 日本聴覚医学会『音響曝露と難聴の発症機序および予防と治療:難聴対策委員会報告』
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※本記事は一般的な情報の提供を目的としており、個別の診断や治療に代わるものではありません。聞こえにくさや耳鳴りなどの症状がある場合は、耳鼻咽喉科へご相談ください。