
「再生処理はニッチな世界だけれど、一生懸命な人がいる」
ー伊東さんが医療の道に進んだきっかけについて教えてください。
あまり高尚な理由じゃなくて申し訳ないんですが、僕は就職氷河期が終わりに入る頃の世代なので、資格があれば就職に有利なのかもしれないと思ったのが最初のきっかけでした。当時、医療現場に人が足りないことをニュースで頻繁に目にしていましたし、看護師として働いている親戚もいたので、そんな道もあるのかもしれないなと。高校3年生の時に「看護師になります」と急に親に伝えた時には、かなり驚かれましたね(笑)。

ー現在のように再生処理の仕事にのめり込むようになったきっかけはありましたか?
最初に就職した市民病院では手術室と中材を兼任しており、再生処理の仕事に関わるようになったのはその時が最初だったんですが、病院の先輩が再生処理の勉強会によく連れて行ってくれていて、いま思えばその経験が根っこにあるかもしれないですね。勉強会で聞いた先生の講演がおもしろくて、「再生処理はニッチな世界だけれど、こんなに一生懸命な人がいるんだな」と感じたのをよく覚えています。とはいえ当時はまだ新人だったので、実際の業務の中で再生処理の質を上げるためにはどうするべきなのかまでは考えられず、まずは与えられた仕事をこなしていくような感じでした。

その後、医療の最先端を学ぶため、地方の大学病院に転職したんですが、そこでは委託企業の方が中材の業務を担当していました。ただ、同世代の男性スタッフが多かったので、遊びに行くような感覚で、頻繁に中材に顔を出していたんです。中材の業務は前職で一通り学んでいたので、他の看護師よりも再生処理の話が通じる分、おもしろがってもらえていたんじゃないかなと思います。冗談半分で「そっちに転職しようかな」と話していたくらい(笑)、再生処理にはずっと興味があったのですが、真剣に取り組むようになったのは一宮西病院に転職してからでしたね。


教育を通じて一枚岩となる中材をつくる
ー現在は一宮西病院にて中央材料室の専任をされていますが、現在の仕事を担当されるまでの経緯を教えてください。
転職してから最初の4年ほどは、手術室の看護師と中材の仕事を兼任していました。一宮西病院は、現在も手術件数が伸び続けており、当時から器材不足が課題になっていたんですが、器材の保管場所が中央化されておらず、病院内で点在してしまっている問題があったんです。定位置に戻せていないことで器材を見つけるまでに時間がかかっていましたし、手術用の器材をピックアップする看護師が、必須器材だけではなく、スタンバイ用の器材を裁量で選んでしまっていたため、他の看護師が器材を探すことができない状況が発生していました。診療科ごとに特殊性の高い器材はあるものの、器材は病院全体の資産ですし、汎用的に使えるものもあるので、まずは倉庫を中央化し、必須器材とスタンバイ器材を整理していきました。 その後、病棟に異動することになり、3年間ほど現場の看護師として仕事をしていたんですが、手術室時代の看護師が23年4月に師長に昇格し、僕に中材の管理を任せたいと言ってくれたことで、中材の専従として働くことになりました。

ー専従になってからはどのようなことに取り組んでいったのでしょうか?
一宮西病院では、2022年から資産管理のためにトレーサビリティシステムが導入されていたものの、僕が専従になった当時は、中材内で器材を読み込むだけで、手術室に活用されていなかったんです。本来トレーサビリティは患者さんの情報と器材を紐付けることができるシステムなんですが、病院内でそのメリットが浸透しておらず、記録も紙ベースで保管していたため、結局看護師が足を使って器材を集めているような状況でした。こんなにいいシステムを活用できていないのであれば、いくら器材が足りないことを訴えても買ってもらえないだろうな……と思い、どうすればうまくトレーサビリティシステムを使いこなせるのか、メーカーさんに相談しながら共同で検討を進めていきました。

その傍ら、症例ごとに使われた器材の種類と量を毎日記録し、どれだけ器材が足りていないのかを事務の方に伝えるようにしていたんですが、その方が理事長に僕の存在を話していたみたいで、ある日理事長から「委託している中央材料室の業務を内製化してくれ」という指示をいただいたんです。それまで一宮西病院では委託企業のスタッフが再生処理の業務を担当していたんですが、ちょうど新棟の建設の話も動きはじめており、コストを見直す中で内製化を検討されていたみたいなんですね。そこまで中材に詳しい看護師が院内にいるのであれば、内製化を実現できるのではないかという期待が理事長にあったようです。

ー当時、内製化することに対して伊東さんはどのように感じていたんですか?
実は最初はあまり乗り気ではなくて、そのままプロに任せた方がいいんじゃないかなと思っていました。業務自体は問題なく回っていましたし、果たして自分に責任を負い切れるのだろうかという不安もありました。 ただ、毎年手術件数が増え続ける中、日々疲れ切っているスタッフの顔を見ているうちに、何かできないだろうかと思ったんですね。中材の責任者になり、この状況を変えることができる立場になったからには、僕がここのスタッフたちを助けなくてはならないと。委託のままでは改革を進めることができないので、中材の構造はもちろん、病院の内状を知ってくれている委託企業のスタッフにも参加してもらいながら、一枚岩となる中材をつくるための体制を整えていきました。


同時に、滅菌業界に限らず、医療業界の教育が課題になっている中、中材独自の教育制度をつくることができれば、外部に向けて発信できるのではないかという考えもありました。看護師の教育過程には、業務レベルごとに階層を分ける「看護師ラダー」と呼ばれる仕組みがあるんですが、 24年の指導方針改定の際に看護助手用のラダーが導入されており、その考え方を中材に取り入れることができれば、再生処理のスタッフ向けのラダーをつくれるのではないかと考えています。ラダーごとにスタッフの時給やインセンティブに反映することができれば、スタッフのモチベーションにもつながると思うので、なんとかして2年ほどでその仕組みをつくれないかなと現在取り組んでいるところです。

ー内製化が実現してから、まずはどのような教育からはじめたのでしょうか?
以前からスタッフの話を聞いていると、「私たちは再生処理のことはなにも知らないです」とよく言われていたんですね。洗浄と滅菌のエビデンスを知らないので、私たちは与えられた仕事をしているだけだと。そう感じてしまっているのはもったいないなと思い、自分の仕事にどのような意味があるのかを学んでもらうために、25年度はさまざまなメーカの方々に足を運んでいただき、レクチャーを受ける機会を設けることができました。いまは再生処理に興味を持って取り組んでくれていると思いますし、なによりスタッフの表情がだいぶ柔らかくなったように感じています。適度に僕に悪態をつけるようになったのもよかったなと(笑)。

また、必須資格がなく、はじめる上での敷居がそこまで高くない中材の仕事の教育体制を整えることは、医療現場が逼迫しているというニュースが多い現状に対して僕が果たすことができる役割のひとつだと思っています。今後もしキャリアアップのために転職を目指すスタッフがいたとしても、別の病院や委託業者でも活かすことできる教育ができればと思っていますし、再生処理の仕事でそういったキャリアパスが描けるようになれば、中材の価値がより世の中に広がっていくんじゃないかなと感じています。

再生処理を通じて地域の医療の安全を守る
ー現在伊東さんは、メーカーを巻き込みながら他の医療施設がバリデーションを検討できるようになるためのプロジェクトを推進されています。どのような思いではじめられたのでしょうか?
僕はたまたま再生処理の質の検討に時間を割ける立場にいるので、その機会をここだけに留めるのではなく、いろんな病院に還元できればと思っているんです。本来バリデーションとは、業務のシステム化によってどれくらい効率化できるのか、そしてそのための費用がどれくらいかかるのかを可視化し、エビデンスを取ることだと思うので、手術室と兼任で中材業務をされている中小規模の看護師の方々が、この病院でバリデーションの検討や練習をできるようになるといいのではないかと考えています。そのために現在、洗浄器と試薬品のメーカー、さらに洗浄インジケーターを扱っているSALWAYさんの3社で、なにかできないだろうかと検討しているところです。

地域の看護師の方々の話を聞いていると、中材の重要性がわかっていなかった以前の自分のことを思い出すんですね。中材の運用が揺らいでしまうと、病院は危機的な状況に陥ってしまいますし、それは地域住民の安全が脅かされるきっかけになってしまいます。病院の使命は患者さんの命を救うことで、そのやり方はいろいろあると思いますし、医師として病気を治すことと、再生処理の仕事は、本来同じ目的なのではないかと感じています。親や子どもなどの家族はもちろん、友人たちも暮らしているこの地域になにができるのかを考えた時に、この病院で好き勝手やらせてもらっている自分にとっては、中材の仕事を通して地域貢献をしていくことが使命なのではないかと考えたんです。それは結果的に一宮西病院の理念である「街と人が明るく健康でいられますように」の実現につながっていくはずです。


ーそのようにメーカーや病院内の方々を巻き込んでいくために意識していることや努力していることはありますか?
メーカーさんに相談する際には、かならず「断っていただいても構いません」と最初に伝えるようにしています。相手の立場はこちらからは計り知れないですし、僕がやりたいことがメーカーさんのメリットになるかはわからないので、もしそうなのであればやりましょうとお話しした上で、具体的な相談をするようにしています。 病院内での交渉の際には、病院の理念の実現のために中材としてどのような貢献したいと思っているのか伝えた上で、「どう思いますか?」と投げかけることを繰り返してきました。こちらの気持ちをただで投げっぱなしにするのではなく、問いかけるようにすることで、かならず返事を考えてもらえるので。それに、感情的に訴えかけるのではなく、数字を示すことも大事だと思います。感覚値だけではなく、手術件数に対してどれだけ器材が足りないのかを示すことが、結果的に相手の目線に立つことになるのではないかと。

そういえば以前、「日々どんな努力をしているんですか?」と聞かれたことがあったんですが、「逆に努力ってなんですか?」と聞いた気がしますね(笑)。多分しんどい時期もたくさんあったと思うんですが、今はそれが楽しさに昇華できるようになったので、同じ気持ちをスタッフも味わえる土壌をつくるために、これからも対話を重ねていきたいと思います。

人口減少時代に向けた中材のDXへの期待
ー最後に、今後伊東さんが取り組んでいきたいことをお聞かせください。
2040年になると日本は3人に1人は高齢者になると言われていて、医療の重要性はさらに上がっていくなか、中材の人材を増やしている場合ではなくなってしまうと思うんです。その時、オートメーション化やDXを進めることで、いまのスタッフの人数で中材を回すことができるシステムを確立できるのではないかと考えています。ロボットを導入すれば使用済み器材の自動搬送が実現しますし、オートクレーブによる火傷のリスクもなくなり、コンテナを搬出する際のエレベーターの渋滞も解消されます。中材には60歳過ぎのスタッフも働いているので、「伊東さん、楽になったわ」と言ってもらえるのがいまの僕の目標です(笑)。

また、緊急時に必要な器材を地域の歯科医院の方々に運ぶために、ドローンが使えるようになればおもしろいと思いますね。車で30分ほどかかる5kmほどの距離でも、ドローンであれば10分ほどで届けることができるようになりますし、オートメーション化が進めば、他の医療施設の器材もこの病院で管理できるようになるのではないかと思います。もちろん、権利の問題や、そもそも病院がそういった経営ができるのかなど、ハードルはまだまだあると思いますが、おもしろがって手を挙げてくれる方がもし増えれば、実現するのではないかと考えています。
※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。







