JOURNAL

再生処理の現場

再生処理の現場 vol.20 筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん『病院内の垣根を超えて仕事をつなぐ、「オペレーションアシスタント」の経験を活かした意識改革』

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

再生処理の現場に立つ、さまざまな方の声を届ける「再生処理の現場」。vol.20の今回は、筑波メディカルセンター病院で働く中田加奈子さんにお話を伺いました。同病院発祥の「オペレーションアシスタント」の仕事をきっかけに再生処理の業務を経験された中田さんは、現在は専門課長として中央材料室と他の部門をつなぐ役割を務められています。日本の病院では唯一の事例である米ステリス社の洗浄器の導入経緯や、いままさに取り組まれているという中材内の意識改革について、中田さんにお話しいただきました。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

筑波メディカルセンター病院発「オペレーションアシスタント」の仕事

-中田さんが筑波メディカルセンター病院で働きはじめたきっかけを教えてください。

もともとは保育士として働いていたんですが、残業が多くかなり忙しい仕事だったので、理想と現実の差を感じてしまっていたんですね。そこで10年目の節目に転職を決意し、今度は介護の道に進もうと、入職後に資格を取得できる病院として選んだのが筑波メディカルセンター病院でした。

ただ、最初の3年間は介護の仕事をしていたんですが、その後小児科に異動になったことで、保育士として子どもたちに接していた時の視点と、医療現場における考え方の違いに、ジレンマを感じるようになっていました。徐々に別の仕事がしたいと思うようになり、その後の7年間は、当時あたらしい職種として病院内で立ち上げられた「オペレーションアシスタント」として働くことにしたんです。

筑波メディカルセンター病院

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

-オペレーションアシスタントとはどのような仕事なのでしょうか?

オペレーションアシスタントは、医師が用意する手順書に沿って手術に必要な器材を用意する「器械出し」をおもに担当する仕事です。もともとは看護師の仕事だったんですが、数年ごとに部署異動があるため、慣れてきた頃にまた別の看護師が一から学ばなくてはならない状況があり、先生の負担が大きかったんですね。そこで当時の心臓外科の先生の発案により、新しいチームとして立ち上げられたのがオペレーションアシスタントでした。最近は臨床工学技士がオペレーションアシスタントを務める病院が増えているようですが、当時は筑波メディカルセンター病院にしかないポジションだったため、見学に来られる方もいらっしゃいました。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

垣根を超えた業務改善に取り組むコミュニケーション

-再生処理の仕事に関わるようになったのはいつからでしたか?

手術後の器材の洗浄・滅菌はオペレーションアシスタントの担当だったので、再生処理の仕事を経験したのはその時がはじめてでしたね。ただ、いま振り返ると器械出しの方がメインだと考えられていて、中材の業務の質に関してはそこまで顧みられていなかったと思います。エンビデンスをしっかり取らなければならないという意識もなく、洗浄器と滅菌器に入れてさえいれば問題ないと考えられてしまっていました。

その後、いろいろと事情が重なり10年ほどでオペレーションアシスタントのチームは解散となり、私はオペ室に配属されてしばらく中材業務から離れてたんですが、 2023年から中材の専門課長を務めるようになり、あらためて再生処理の仕事に携わることになりました。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

-専門課長として関わるようになってから、再生処理との向き合い方はどのように変わりましたか?

現在、ガイドラインに沿って業務の見直しに取り組んでいる最中なんですが、専門課長になってから学会に参加させてもらうようになり、いろいろと勉強するなかで、再生処理の世界の奥深さを知りました。これまではジェットウォッシャーとオートクレーブさえあれば問題ないと考えてしまっていましたし、バリデーションを実施してはいたものの、「ただやってるだけ」の状態になっていたので、ちゃんとそれぞれの業務の意味を理解した上で取り組むための意識改革をいまは進めています。

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筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

-運用の面でも改善に取り組んだことを教えてください。

筑波メディカルセンター病院の中央材料室は、手術室で使用した器材の洗浄チームと、病棟で使用した器材の洗浄チームに分かれていました。どちらも同じ再生処理の業務ではあるものの、垣根を超えた人員配置ができていないという課題がありました。病棟の中材は、鑷子や鋼製小物といった基本的な器材だけを扱うため、ある程度業務に余裕があるんですが、オペ室で扱うラパロ鉗子といった複雑な器材の扱い方の知識がないことから、業務量の多いオペ室を手伝うことができない状況があったんです。

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この体制はおそらく何十年も前から続いているようでしたが、年々オペの件数が増えていく中で無理が生じ、遅番のシフトが終わる夜9時の段階で器材が残ってしまっている日もありました。現在は病棟洗浄チームスタッフに手術室業務の指導を実施し、オペ室の業務を担当してもらう人員配置をおこなっているので、徐々に仕事が回りはじめている感覚がありますね。

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ほかにも、整形外科の先生とお話しして、借用器材の運用方法を変更することができました。整形外科の借用器材には短期借用と長期借用の2種類があり、長期借用は病院で保管して、いつでも使えるように再生処理してあるんですが、その都度外部業者から届く短期借用の場合、きちんと洗浄されていないこともあるんですね。短期借用には先生の申し込みが必要なので、十分な再生処理の時間が確保できない場合が起こりうるため、スタンダードな治療に使用する器材に関しては長期借用に切り替えていただくことができました。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

看護師や医師の方々は、中央材料室の仕事の流れをご存じでないことも多いですし、再生処理が十分でないことがどれだけ危険なのか理解されていない場合もあると思います。私はオペレーションアシスタントの経験がある分、看護師や医師の方々とコミュニケーションが取りやすく、信頼関係を築くことができているので、普段の仕事の場面で伝えるべきことは伝えるようにしています。

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病院内の仕事をつなげる「サージテック」の存在

-現在筑波メディカルセンター病院ではステリス社の洗浄器「AMSCO® 7000 Series」を使用されていますが、どのような経緯で導入されたのでしょうか?

洗浄器に先立って、滅菌器の更新のタイミングでステリス社製の「V-PRO」を導入したんですが、その際にステリス社から直接購入していたので、洗浄器についても相談していたんです。その中で「AMSCO® 7000 Series」のことは気になってはいたものの、ちゃんと性能に確信を持てない限りは決められないなと思い、去年の12月に実際に使用されている沖縄の米軍病院に見学にうかがい、導入を決めました。

まだ使いはじめたばかりなのですが、洗浄から乾燥まで30分で完了するので、かなり効率よく病棟に滅菌物を供給できるようになっています。それに、棚に高さがあるので整形外科の借用器材のケースが入れやすく、他の洗浄スケジュールとの兼ね合いで後回しになりがちだった課題が解消されました。これからの活躍にも期待してます。

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ちなみに、見学の際に米軍病院のオペ室と中央材料室をご案内いただいたんですが、そこで「サージテック」という職種を知り、衝撃を受けたんですね。サージテックは、オペの準備から、器械出し、オペ室の片付け、掃除、再生処理までを担当する仕事で、私が経験したオペレーションアシスタントと同じ働き方をされていたんです。みなさんご自身の仕事に誇りを持って働いていらっしゃって、看護師さんは一切滅菌物に触れず、患者さんに集中できる体制が整えられていました。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

私自身、オペレーションアシスタントの仕事にはプロフェッショナルとしてのやりがいを感じていましたし、先生や患者さんの役に立てている実感がありました。再生処理の仕事は、いまはまだ多くの人が目指す職業として確立できていない状況があると思いますが、サージテックやオペレーションアシスタントといった肩書きを通して、やりがいのある仕事として注目される可能性があるかもしれないですね。

筑波メディカルセンター病院

-オペレーションアシスタントの経験があるからこそ、中材の業務に対して感じることはありますか?

オペレーションアシスタントは、すべての業務がつながっているのを実感できるポジションなので、だからこそ見えることはたくさんあると思います。自分たちで洗浄・滅菌した器材をオペ室で扱うため、切れにくいハサミがあったら差し替えたり、足りない器材があればすぐに購入申請を出したりなど、スムーズに仕事ができていた感覚がありましたね。日本の病院は外注業者さんにお願いすることが多いですし、分業化を進めてきたことで、病院内の仕事のつながりが感じられなくなってしまっている問題はあると思います。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

エビデンスを信じる意識改革

-最後に、中田さんが今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。

専門課長として配属されて以来、改善のためのプロジェクトチームをつくり、定期的に話し合いをしながら業務の見直しをおこなってきました。いまはまだ途中段階ですが、まずは理想とする完成形を目指して、スタッフが働きやすい環境を整えていきたいと思っています。

ここには長く働いている方もいるので、配属されたばかりの頃は、仕事のやり方を変えていくことに抵抗感を持たれてしまうのではと不安だったんですが、何度も話し合いを重ね、納得したうえで取り組んでくれたので、スタッフのみんなには感謝の気持ちでいっぱいです。中央材料室は忙しくて大変な仕事ですが、みんながやりがいを持って働いてくれていて、そんなスタッフの存在こそが宝だなと、日々の仕事を通じて感じています。

筑波メディカルセンター病院

現在私たちは、「根拠のある仕事をしよう」「仕事を標準化し、誰にでもできるようにしよう」というふたつの目標を掲げています。あと、これは持論なんですが、「エビデンスを信じる」ということも大事だと思います。誰かが言っていたから大丈夫ではなくて、自分の目と耳で確認すること。いまやっている作業にどんな意味があるのかを理解することで、だいぶスタッフの意識が変わってきたように感じますので、これからも改善に取り組んでいきたいと思います。

筑波メディカルセンター病院 中田加奈子さん

※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。