JOURNAL

再生処理の現場

再生処理の現場 vol.23 大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん『受託企業から病院材料部へ。滅菌物の安全を保障するための「あたりまえ」の見直し』

再生処理の現場に立つ、さまざまな方の声を届ける「再生処理の現場」。vol.23の今回は、大阪大学医学部附属病院で働く大出めぐみさんにお話を伺いました。大出さんはもともと再生処理の受託企業であるワタキューセイモア株式会社のスタッフとして大阪大学に配属されており、その後同病院の材料部に転籍された経緯があります。本記事では、大出さんが再生処理の仕事に関心を持ったきっかけから、転籍にいたる経緯、再生処理の質の向上のために受託企業と病院の両者に必要な視点についてお話しいただきました。

大阪大学医学部附属病院

黙々と器材に向き合う、再生処理のおもしろさ

-大出さんが医療業界に進もうと思ったきっかけは何でしたか?

もともと医療系の仕事に興味があり、最初は看護師になりたいと思っていたんですが、家庭の事情で高校卒業後すぐに就職しなければならず、まずは看護助手として働きはじめました。最初はとてもやりがいを感じていたものの、より自分なりに専門的に打ち込める仕事がしたいと思うようになり、たまたまアルバイト情報誌で見つけた受託企業の求人に応募したことが、再生処理の仕事との最初の出会いです。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

-その求人には再生処理についてどのように書かれていたのでしょうか?

「手術で使った器具を洗浄消毒する仕事です」と書かれていましたね。当時は再生処理のことはまったく知らず、ピンセットひとつとってもまさか病院内で洗浄・滅菌されているものだとは思いもしなかったので、「あれって自前で洗浄していたんだ!」という驚きもありました。同時に、以前から看護師の方々が器材を準備されているのを見るのが好きで、医療機器をたくさん見られるチャンスかもしれないと興味を持ったんです。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

-実際に仕事をはじめてみていかがでしたか?

ずっと器材に向き合いながら黙々と打ち込むことができ、こんなにおもしろい仕事があるんだなと感じましたね。一方で、専門的な資格がないまま仕事をしていることへの不安も大きかったです。当初は洗浄・滅菌に関する知識はまったくなかったですし、似たような器材がたくさんある中で、それらがどのように使われるものなのか、詳しく聞ける先輩もいなくて。なので、メンテナンスや保守のために病院に来られたメーカーやディーラーの方に個人的に質問をして、自分なりに勉強したことをノートにまとめながら、徐々に仕事に還元していきました。

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その後、小さな施設から大きめの病院までさまざまな配属先を経験し、10年ほど経った頃に、同じく再生処理の受託会社であるワタキューセイモアに転職しました。ワタキューセイモアは学術的な研究にも力を入れており、定期的な学会発表もおこなっているため、それまで遠い存在だと感じていた発表者の方とのつながりを持つことができ、より積極的に学会や研究会に参加するようになりました。
いろんなメーカーさんのサンプルを見ながらその場で意見交換をすることができ、あらためて再生処理の奥深さとおもしろさを感じましたね。私は興味を持ったらすぐに行動してしまうタイプなので、おもしろそうだなと感じたプログラムにすすんで参加するようになり、いろんなメーカーとの横のつながりが増えていきました。

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「あたりまえ」が間違っているかもしれない危険性

-さまざまな医療機関を経験されてきた中で、特に印象的だった出来事はありましたか?

実は以前、大きめの病院に配属された際に責任者をさせてもらっていたことがあったんですが、この仕事にもっと真剣に取り組まないといけないと思うきっかけとなった出来事がありました。ある日、整形外科の執刀医の先生に突然オペ室に呼ばれて、まだ麻酔がかかっている状態の患者さんがいらっしゃる横で、叱責されたことがあったんです。手術のために器材を展開したところ、部品の中に血液が残ってしまっていたようで、「これからオペをしないといけないのに、どうしてくれるんだ」と。その後、患者さんを覚醒させて器材の準備ができるまで待っていただき、その日のうちに再度オペに臨んでいただくことになったんですが、その時はもう、頭が真っ白になってしまって。患者さんには余計な負担をかけてしまいましたし、これだけの責任が伴う仕事なんだなと痛感した出来事でした。

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大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

-それはどういった原因で起きてしまった事故なのでしょうか?

洗浄不良だった部品は、本来なら再生処理してはいけないディスポーザブルの製品だったんです。のちのち調べてみると、病院内の再生処理の対象器材リストに含まれてしまっており、受託企業である私たちは、そのリストに則って作業をしてしまっていたことが原因だとわかりました。普段あたりまえに運用している手順が、実は間違っている可能性があるという、そのリスクをひしひしと感じましたね。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

-その後、運用の改善のためにどのようなことを実施されましたか?

まずは病院内にある添付文書をできるだけ集めて、なにが禁忌でなにが推奨なのかを記録していきました。さらに、ディスポーザブル製品を再生処理するリスクを病院に伝えたり、セミディスポーザブル製品の使用回数の管理方法を見直したり、定例会のような場で病院に提案していったんです。
これは日本の現状であり、課題だと思うんですが、再生処理の最終責任は医療機関にあるものの、あくまで改善の主体となって取り組まなくてはならないのは受託企業なので、現場のスタッフがより良い運用について提案していかないと、再生処理の質は上がらないんですね。受託企業の中には、病院から言われた通りの業務をこなしていれば問題ないと考えてしまっている雰囲気はまだありますし、再生処理におけるリスクについて医療機関があまり理解されてないことが多い中で、受託企業がそういった運用をしてしまうのはとても危険なことだと思います。

大阪大学医学部附属病院

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運用を見直す立場になって気づくこと

-一方で、これまでのご経験の中で、再生処理の仕事のやりがいを感じた場面はありましたか?

以前、別の配属先に異動する際に、施設の方にこれまでの仕事ぶりを褒めていただいたことがあったんです。お世話になった方々に挨拶に伺った時に、これまでありがとうと。それまで衝突していた厳しい師長さんからも、「よくやったと思う」と、自分の働きを認めてもらえて。その時には、頑張った甲斐があったなと感じましたね。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

また、ワタキューセイモアに入社する前の会社にいた頃に、体調を崩して 1ヶ月半ほど入院をしていた時があったんですが、そこでたまたま病院の休憩スペースで黙々と筋トレをしてる男性の患者さんとお話しする機会があったんです。話を聞いていると、当時私が勤務していた病院で整形外科系のオペを受けられた患者さんだったみたいで、再生処理の仕事について話したら、「そういった仕事のおかげで、こうして健康な身体に戻ることができたんですね。ありがとう」と、感謝を伝えていただいたんですね。なかなかそういった言葉を患者さんから直接いただけることはないので、すごくうれしかったんです。再生処理の仕事の意義を身をもって実感できる出来事でした。復帰してからは、スタッフのみんなにその話をして、もっと自分の仕事に自信を持って欲しいと伝えることができました。

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-その後、ワタキューセイモアから大阪大学の材料部に転籍された経緯をお聞かせください。

これまでさまざまな現場を経験してきましたが、受託企業としてやれることに限界を感じてしまい、いっそのこときっぱり諦めて、他の仕事をしようかなと思ったことがあったんです。転職活動もせず、辞めることだけを伝えて会社に承諾をもらっていたんですが、現在の上司である齋藤さんに報告したところ、「この仕事が嫌になって辞めるのでなければ、俺は納得できない」と言われたんですね。齋藤さんは普段からいろんな質問に答えてくださってましたし、私に対してよく勉強をしているスタッフだという印象を抱かれていたみたいで。 その時、たしかに私は再生処理の仕事が好きだなと、あらためて思い返してみて感じたんです。ちょうど同じ頃、材料部が職員を募集をしていることを知り、採用試験を受けてみようと決心したんですが、それは受託企業のスタッフから病院の職員になることで、これまでとは違う視点で現場に向き合えるのではないかと考えたからでした。その後、無事に試験に合格し、はれて大阪大学の正職員として働くことになりました。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

-病院の職員になってから、働き方や仕事の取り組み方にどのような変化がありましたか?

現在は洗浄・滅菌業務に入ることは基本的にはないので、主に装置が通常通り動いているかどうかを確認する、保守・点検の仕事を担当しています。材料部の管轄である3階のフロアと地下の内視鏡センターをラウンドしながら、装置の運転記録などを確認したり、1日の業務の中で何かエラーが発生した時には、スタッフからの報告内容を確認して、メーカーさんと連携しながら修理のための手続きを進めたり。受託企業のスタッフとして働いていた頃は、なにより問題なく運用することがメインの仕事だったんですが、病院の職員になってからは、そもそもその運用の仕方は正しいのだろうかと、突き詰めて考えて仕事をするようなりました。これまでマニュアルや手順書を作ったことがなく、本来はそういった視点で仕事をするべきだったのに、どうしてできてなかったんだろうと、入職したばかりの頃はショックでしたね。現在はわからないことを文献にあたりながら、さまざまな規格やリスク評価を通して手順を見直すようにしています。

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受託企業が変われば、日本の再生処理は変わる

-受託企業の経験があるからこそ、スタッフの方々と接する際に意識していることはありますか?

現在、受託企業との窓口を私が担当していて、直近まで同じ業務をしていたからこそ、現場のスタッフの立場で考えられているのはあると思いますね。大阪大学はこれまで私が配属されていたどの施設よりも、受託企業の方々との対等な関係性ができていると思いますし、定期的に関係部署の方々との話し合いの場を設けているため、普段から密接にコミュニケーションができています。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

私自身、普段スタッフの方々と接する際には、世間話をしながら「最近この装置の調子はどうですか?」といったことを聞くようにしています。些細なことから改善のきっかけが見つかることが多いですし、スタッフの方々がこちらの業務に気を遣って報告のタイミングが遅くなってしまうこともあると思うので。 私自身、受託企業の頃にそういった報告の仕方を教育されていなかったですし、いざ自分が報告を受ける立場になると、伝え方を工夫することの大切さを感じる場面が多々あります。なにかエラーやトラブルが起きた時に、ただ事実だけを報告しても経緯がわからないので、5W1Hを意識した伝え方について学ぶことができるカリキュラムや、受託企業のスタッフが積極的に報告できるような仕組みがあると、医療機関と受託企業がより密に連携を取れるようになっていくんじゃないかなと思います。

大阪大学医学部附属病院

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

-最後に、大出さんが今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。

直近の目標としては、来年無事にISOの更新できるように 、監査に向けての準備を進めていきたいと思います。医療機器を製造するメーカーは、ISO13485の認証を受け、製品の品質保証をしています。医療現場で医療機器の再生処理(いわゆる製造)している我々も、同じ水準の品質保証があたりまえのこととして求められていくでしょう。認証を受けているとはいえ、まだ不十分なところはありますし、課題も山積みなので、いまの状態を担保しつつ、監査に向けてもう一度管理の仕組みを見直しながら、より良くしていくための取り組みを継続していきたいですね。ISOの取得に真剣に取り組んでる施設は、まだ日本には数えるほどしかないですが、滅菌物の安全を検証しないといけないのはどの施設でも同じですし、ISOの取得を目指さなくても、自分たちの仕事に向き合うことはとても大事だと思います。

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また、病院と受託企業の間で起こる問題のほとんどが、お互いのことを知らなすぎることが原因で起こってしまっています。私のように、受託企業から病院に転職した経験のある人はまだ少ないと思いますし、どちらの立場も実体験を通してわかるので、現在悩んでいる医療機関や受託業者の方々の参考になるようなことを発信していきたいですね。小さな病院から大きな病院まで、再生処理業務の大きな部分を担っているのは受託企業なので、受託企業が変われば日本の再生処理全体が変わるはずです。変化にはどうしてもエネルギーが必要なので、そのためのパワーを分けられるようなことを今後できればと思っています。

大阪大学医学部附属病院 大出めぐみさん

※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。