JOURNAL

再生処理の現場

再生処理の現場 vol.24 大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん『中央材料室として日本初の国際規格の認証取得を達成。大阪大学医学部附属病院材料部が「ISO13485」認証を取得するまでの道のり』

大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん

再生処理の現場に立つ、さまざまな方の声を届ける「再生処理の現場」。vol.24の今回は、大阪大学医学部附属病院で働く齋藤篤さんにお話を伺いました。齋藤さんは、2023年に同大学の材料部が日本ではじめて国際規格「ISO13485」の認証を取得するまでのプロセスを推進した中心人物であり、材料部の副部長として、材料部の品質マネジメントに日々取り組まれています。本記事では、ISO13485の認証の取得を目指した経緯、具体的な改善内容、取得までの試行錯誤の過程についてお話しいただきました。

大阪大学医学部附属病院

企業にとっての「あたりまえ」への挑戦

-齋藤さんがはじめてISO13485について知ったきっかけを教えてください。

大阪大学では、材料部の部長である高階先生がガイドラインの編纂に関わっているため、普段からガイドラインの執筆者の方々が集まる機会があり、僕も参加させてもらっているんですが、ISO13485について知ったのは、入職して2、3年が経った頃にみなさんの会話の中で聞いたのが最初だったと思います。当時はQMSについて何も知らなかったものの、企業にとってあたりまえの規格なのに、病院が取得するのは難しいとされていることに、なんだか悔しいなと感じたんですね。先生が退官されるまでの間に、病院の材料部も国際規格の認証を取得できるということを証明したいという気持ちを抱いたんです。

大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん

もともと僕は、滅菌業務の受託企業のスタッフとして阪大の材料部で仕事をしていたんですが、高階先生が材料部の管理を担当されるようになってから、劇的に現場が変わったのを感じていました。何か現場でトラブルが起きた時にも、現実に即した改善策をその場で考えてくださって、とてもロジカルで筋の通った判断をされます。

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その後、実際に国際規格の取得を目指したい旨を先生に話した際には、二つ返事で「やろう」とおっしゃっていただきました。同じくISO13485に類する国際規格を取得している臨床検査部の技師長にも相談してみたところ、ぜひ取るべきだと後押しいただき、実際に動き始めることができました。

大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん

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-取得を目指す上で、まずはどのようなことから始められたのでしょうか?

材料部内のワークフローをすべて見える化することから始めました。手術器材の場合、材料部へのルートは決まっているのでシンプルなんですが、阪大は相当な数の病棟や外来があるため、当時は材料部に運ばれてくる器材のインプットの種類がかなり細分化されてしまっていました。もちろん、新たに購入した器材の再生処理を依頼されたり、修理やメンテナンスに対応したりと、やむを得ない場合もあるんですが、院内各所からの要望にその都度応えるあまり、ワークフローが40〜50種類にまで増えていたんです。まずはそれらをすべて洗い出し、統合できるものはないか検討した上で手順書を作成する過程に、かなりの時間を使いました。

大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん

ワークフローの見える化が完了してからは、ISO13485に書かれている内容を、どうすれば再生処理の業務にあてはめることができるのかを解釈する必要がありました。ISO13485は基本的にメーカー向けの規格であり、製品開発における設計や製造時の品質管理のために設けられたものなので、病院の材料部が取得を目指すには、考え方そのものをシフトする必要があります。

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医療器材の「再生工場」としての品質マネジメント

-その際に、どういったところがポイントになるのでしょうか?

材料部における滅菌供給部門とは医療器材の「再生工場」であり、院内のラインに則って滅菌物をリリースしていく、という考え方をするのがいいのではいかと思います。その上で、再生処理のすべてのプロセスでバリデーションをとることが求められるため、各工程におけるリスクを評価する必要があります。もちろん、施設ごとに仕組みが異なるため、自分たちなりの正解を決めていくしかありません。

誤解が生じやすいのは、ISO13485は品質マネジメントシステムにおける規格であり、業務マネジメントではないということです。業務マネジメントは、病院が業務を継続する上で普段から実施されているものであり、ISO13485の取得には、滅菌物の品質を落とさないためのマネジメントが必要になります。

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例えば、阪大の材料部では、洗浄後に組み立てた器材を収納する滅菌コンテナに、手術の種類ごとにナンバーが割り振られています。01、02、03…と末尾のナンバーが異なるコンテナの中に器材を収納していくんですが、毎日繰り返し作業をしていると、器材のセットを入れ間違えてしまうことが起こり得るんですね。材料部としては、それはリコールの対象になってしまうので、そういった作業ミスを減らすために、コンテナの二次元コードを読み込んでから器材を入れるようにオペレーションを変更し、入れ間違いのリスクを軽減する必要がありました。QMSにおいてはこういった改善の積み重ねがとても重要で、失敗の確率を減らしていくために、どのようなオペレーションが必要なのかを考えることが、品質の保証につながっていきます。

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-その後、実際に監査を受けて取得に至るまでにはどのようなプロセスがあったのでしょうか?

院内全体のワークフローの見直しは、コロナ禍に入る2019年ごろから始めていたんですが、取得のために具体的に動き始めたのが2021年で、病院長への予算申請が通った2022年に一度目の監査を実施しました。ところが、その年は残念ながら不合格だったんです。朝9時から夕方5時までインタビューを受け続けていたんですが、指摘された内容のすべてが頷けるものばかりで、僕はQMSのQの字もわかっていなかったんだな…と痛感しました。

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監査の中でもっとも難しく感じたのが、包装のバリデーションをどのように解釈すべきなのかという指摘でした。ISOでは各オペレーションのパフォーマンスを評価する項目があり、滅菌物の有効期間を決める上で、包装の完全性を保証する必要があったんですが、コンテナや滅菌バッグ、ヒートシーラーが完全に包装されているかどうかは、あくまで目視でのチェックに頼っていたんですね。それらが完全に包装されていると言い切れる根拠は何かと監査官の方から指摘されてしまい、確かにおっしゃる通りだなと……。

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それからの3ヶ月間、当時の品質管理マニュアルをすべて書き直してから、是正措置計画を提出し、その翌年の2023年に一次、二次審査を受け、ようやく認証を取得することができました。包装のバリデーションに関しては、包装に関するISO規格を学習した上でガイドライン執筆者に問い合わせ、包装における据付時適格性評価(IQ)や運転時適格性評価(OQ)を定義し、ようやく性能適格性評価(PQ)に漕ぎ着けることができました。本当に長い道のりだったので、どっと疲れてしまいましたが(笑)、取得が決まった時にはもちろん嬉しかったですね。

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患者の命に直結する仕事としてのリスク軽減

-2022年に予算申請が通ったことで監査を受けることができたとのことでしたが、予算獲得のためにどのような工夫をされましたか?

僕らはISO取得専門のコンサルなど入れず、自分たちだけで推進していたので、その分の予算を抑えることができました。さらに、洗剤や消耗品の種類を見直し、材料費と運営費の中からなんとか削減できるところを見つけ出したことで、年間の予算内で費用を捻出することができました。予算を増やしてほしいとただ希望を出すだけではなかなか難しいと思いますが、工夫すれば削れるところはあるはずです。

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また、他の病院からもなかなか材料部に予算がつかないという話はよく耳にしますが、僕らの仕事は患者さんの命につながっていますし、再生処理の仕事をないがしろにしたら手術も診療もできないので、対等な立場から発信していくことも必要だと思います。それに、待っていても予算は回ってくるものではないので、僕は普段から管理課に頻繁に足を運び、担当の方と仲良くするようにしているんです。顔を合わせる回数が増えてくると、なんか断りにくいな……となるのが人情というものなので(笑)。

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-齋藤さんがそこまで再生処理の仕事やQMSの重要性を感じるようになったきっかけはありますか?

普段僕らの仕事では患者さんと接することはほぼないんですが、ごく稀に患者さんに影響するようなリコールが発生してしまうことがあります。本来はあってはならないことで、そういった経験があるたびに現場に緊張感が走りますし、自分たちの仕事は患者さんの命に直結していることを痛感します。僕らはあたりまえのことをあたりまえに続けていく必要があり、1回の失敗でたちまち信用を失ってしまうので、できる限りリスクを減らしていかないといけない。QMSの本質はリスクマネジメントなので、CSSDには必要だと思います。

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大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん

-今後、日本の再生処理の質を上げるためにはどのようなことが必要だと思いますか?

これだけ人材不足が叫ばれている中、すべての医療施設に材料部をつくること自体、必ずしも正しいことだとは思っていなくて、場合によっては外部に委託することで質を担保していく必要があるのではないかと思います。僕は普段、近隣の病院から再生処理について相談に乗ることもあるんですが、材料部を一人で管理しなくてはならない病院はたくさんありますし、なんとかしたいと考えている人にとって悩みが尽きない仕事なんですね。その人が頑張らないと材料部の業務自体が回らないような状況なのであれば、むしろ外部に委託した方がいい場合もあるのではないかと感じています。

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-最後に、齋藤さんが今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。

ISO13485に関しては、毎年再審査があるので、今年3月にもう一度審査に臨む必要があります。あとは、ISOについてはじめて知った時もそうでしたが、企業にとってはあたりまえのことなのに、病院で実現できないのは仕方がないとされている事実を知ると、「ほんまにそうか?」とつい自分で検証したくなってしまうんですね。特に僕は機械で測定するのが好きなので、普段から滅菌物の温度を測定したり、LTSF滅菌器を使用した滅菌物の残留ホルムアルデヒドを調べたり、ロボットアームを分解してみたり、オペレーションに反映できることがないか、いろんなことを検証するようにしています。

現在は、滅菌前にどれだけ菌が存在しているのかを調べる、バイオバーデン試験に取り組んでいて、これも企業ではあたりまえに実施されている一方で、病院内での実施は難しいとされているものです。実際に試験が実現したら学会でも発表するつもりなので、今後もこういった検証に取り組んでいきたいと思っています。

大阪大学医学部附属病院 齋藤篤さん

 

※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。