JOURNAL

再生処理の現場

再生処理の現場 vol.12 石原総合歯科医院 佐藤繭美さん 『コストではなく「投資」として取り組む、歯科医院の再生処理の改善』

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

再生処理の現場に立つ、さまざまな方の声を届ける「再生処理の現場」。vol.12の今回は、医療法人社団石原総合歯科医院の佐藤繭美さんにお話を伺いました。佐藤さんは同医院の副院長として感染管理に取り組む傍ら、「歯科診療所のためのエビデンスのあるハイパー感染管理 コストから投資への転換」といった著書の執筆やセミナーでの講演活動など、歯科業界における再生処理の質の向上のために、さまざまな発信活動に取り組まれています。本取材では、歯科衛生士としての佐藤さんのこれまでのキャリアをはじめ、歯科医院が改善に取り組む上で必要な考え方についてお話しいただきました。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

院長と二人三脚で再生処理の改善に取り組む

-佐藤さんが歯科業界を目指されたきっかけをお聞かせください。

高校生の頃に学校の求人で歯科助手の募集を見つけて、なんだかおもしろそうだなと思ったのがこの道に進んだきっかけでした。卒業後、就職した歯科医院で歯科助手として働いていたものの、一緒に仕事をしていた歯科衛生士さんがとても親切な方で、患者さんの処置をしたり、歯型をつくる石膏を注いだりする姿をみているうちに、憧れの気持ちを持つようになったんですよね。まだ入社して3ヶ月も経っていなかったのですが、歯科医院を退職して、歯科衛生士を目指す学校に通うことにしました。いま思えば行動力があったなと思います(笑)。

石原総合歯科医院

-石原総合歯科医院にはどのような経緯で入職されたのでしょうか?

石原総合歯科医院との出会いは、歯科衛生士の友人と一緒に、当院の新規開業時の求人について話を聞きに行ったのがきっかけでした。その頃は前の職場を退職したばかりだったので就職するつもりはなかったのですが、先生と友人の三人で話しているうちに、気づいたら入職しようと決めていました(笑)。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

ーそう思った決め手はなんだったのでしょうか?

先生が優しそうだなと感じたのと、私は当時主流だったラテックスグローブの「パウダーあり」が苦手で、先生に聞いたら「パウダーなしでもいいよ」と言ってくれたので、ここに決めようと(笑)。それからもう約18年間院長にお世話になっているので、結果的に相性がよかったんだと思います。

石原総合歯科医院

-佐藤さんが再生処理について真剣に学ぶようになったのはいつからですか?

ちゃんと学びはじめたのは当院に入職してからでした。もちろん、それまでも再生処理の業務自体はやっていたんですが、教わった方法に何の疑問も持たずに仕事をしていました。歯科医院では歯科衛生士もしくは歯科助手が臨床と兼務して再生処理の業務をおこなうので、それまでのやり方が習慣化してしまっているところは多いと思います。私もここに来てから勉強するようになり、それまでのやり方が十分ではなかったことを知りました。

石原総合歯科医院 石原宏一さん 佐藤繭美さん

-どのように理解を深めていったのでしょうか?

ある日先生が、日本・アジア口腔保健支援機構(以下、JAOS)が開催しているセミナーを見つけて、「参加してみたら?」と声をかけてくれて、実際に参加してみたところ、あまりに自分が再生処理について知らないことにびっくりしたんです。一般的に充分な洗浄と滅菌はできていたんですが、改善の余地が多くあることがわかり、このままじゃまずいなと。ちゃんとした滅菌物を患者さんに提供したいという思いから、自分の中のやる気にスイッチが入りました。それからいろいろと調べはじめ、日本医療機器学会にも参加するようになりましたし、滅菌技師の資格を取得したり、自分の学んだことを業務に反映したりしながら、徐々に改善に取り組んでいきました。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

-どういったところから改善されていったんですか?

まずはブラシや超音波洗浄器の使い方といった洗浄に関する改善や、当時主流だったクラスNの重力置換方式のオートクレーブに加えてプレバキューム方式のクラスBのオートクレーブを導入してもらうなど、必要十分なものを揃えていきました。そういった機械の購入に関しては、「これって必要だから買った方がいいんじゃない?」と、私が声を大にして言わなくても先生の方から言っていただくことが多く、先生との二人三脚で取り組んでいる感覚はありますね。滅菌保証のために必要な設備はちゃんと揃えたいという意識を共有できているので、協力者であると同時に指導者でもある、自分にとってありがたい存在です。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

石原総合歯科医院

再生処理の費用は患者さんに還元できる「投資」

-これまで仕事をされてきたなかで、歯科業界における再生処理の状況の変化を感じることはありましたか?

2003年に米国疾病管理予防センターが「歯科臨床における院内感染予防ガイドライン」を発表して以来、業界全体に変化はあったと思います。私も第一種歯科感染管理の資格を取得しましたが、近年こういった歯科領域の感染管理の資格検定が導入されたことなどをきっかけに、継続的に感染管理についての学びの場は増えている気がします。さらに今年からメディコムジャパン社が管轄する「歯科感染管理士」検定が発足され、より質の高い学びが得られるようになりました。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

その後、歯科におけるずさんな院内感染対策を報じた記事の影響もあり、クラスBやクラスSのオートクレーブがより普及するようになったのも感じますね。コロナ禍以降はさらに歯科業界の感染管理に対する認識が変わってきているので、徐々に状況はよくなってきていると思います。

石原総合歯科医院

以前、セミナーで講演させてもらったことがあったんですが、その際に受講者に事前アンケートをおこなったところ、再生処理に関心があると回答される方がとても多かったんですよね。実習やアルバイトなどに来る学生たちと話していても、ちゃんとした衛生管理をおこなっているかどうかが就職先を選ぶ基準になっている現状について聞くので、少しづつ身近なところでも変化してきていることを感じます。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

-佐藤さんは書籍「歯科診療所のためのエビデンスのあるハイパー感染管理 コストから投資への転換」を出版されていますが、どのような経緯で執筆されたのでしょうか?

以前、ハグクリエイションの柏井先生との共著で、感染管理についての書籍を書かせていただいたことがあったんですが、それを無事に終えた時に、出版社さんから「感染管理にかかわる連載をやってみませんか?」とお声がかかったんです。そこから「DHスタイル」という雑誌で連載をさせていただき、その後書籍化のお話をいただいて出版したのが本書でした。毎月締切が近づくたびにお尻に火がついていましたね(笑)。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

この本は、歯科医院で必要な感染管理の知識を網羅した本で、今後10年間臨床での手引きになるように、再生処理についてだけではなく、バランスよく感染管理の各分野についてまとめています。タイトルに「歯科診療所のための」とあるように、私たちのような中小規模の歯科医院に向けて書いてあるのも特徴で、あくまで私たちが実施している方法や設備について紹介することで、「絵に描いた餅」にならないように意識しました。

石原総合歯科医院

これは書籍の中で触れていることですが、お金のことについてきちんと考えることは歯科医院にとってとても大事だと思います。再生処理にはお金がかかります。それをコストと考えるか投資と考えるかによって、取り組み方が変わってくると思うんです。再生処理にきちんと投資すれば、患者さんにさまざまな面でメリットがありますし、その分当然利益も出てくるはずです。診療所の規模によってお金やマンパワーも変わってくるので、もし人件費が高いようならディスポーザブルの医療材料に切り替えるなど、そういった考え方についても紹介しています。いかに工夫しながらやっていくかがポイントで、どうすれば中小規模の歯科医院の水準を押し上げることができるかについて考えながら書いた本でした。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

規模が小さい歯科医院だからこそ改善できること

-院内で再生処理に関する指導はどのように実施されていますか?

勉強会を定期的に開いているので、必要なことはそういった場で周知するようにしています。院内の再生処理についてはもちろん、手指衛生や個人防護具の着脱といった基本的な知識から、業務に必要な感染管理についてお話ししています。こういった基本的な手技は日常業務で手を抜くことができないですし、改善が必要なことにはすぐに対応しなくてはいけません。徹底した業務のチェックが必要なので、できていないことがあればしっかりとその場で言うようにしています。

石原総合歯科医院

現在5名の歯科衛生士と1名の歯科助手が働いていて、スタッフからは「ここまで感染管理に厳しい歯科は他にないと思います」とか「前職では○○していましたたけど、それはやっぱりよくなかったですね」とコメントされることもあるんですが、みんなとても意識が高く、協力的なスタッフばかりでありがたいですね。再生処理の考え方にも共感してもらえて、やらなくてはいけないことが多かったとしてもちゃんとやってくれています。私より細かいことに気づくスタッフもいますし、歯科助手の方はもともと看護助手として病院で内視鏡の洗浄などを経験していた方なので、再生処理に関しては目を光らせてくれています。このように理念を共有できる仲間がいることは強みです。

石原総合歯科医院 石原宏一さん

-最後に、同じ規模の歯科医院で再生処理に取り組まれている方々に伝えたいことをお聞かせください。

再生処理に関わる方にお願いしたいのは、自ら知識を取り入れていってほしいということです。すべての歯科医院に当てはまるわけではないですが、伝統を受け継ぐかのように慣習で処理していることがあるなら、「常識を疑え」ではないけれど、一度立ち止まってその方法が正しいかどうかを検討して、どうしてその方法なのかを確認し、改善が必要だと分かったなら、できることに取り組んでほしい。これは自分のささやかな願いですね。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

歯科医院は規模が小さい分、医師と歯科衛生士、さらには患者さんとの距離が近いですよね。病院だったら中央材料室など専門の部署があるので、直接医師や患者さんと関わることはありませんが、私たちは先生と患者さんと臨床現場での距離が近く直接やり取りができるので、比較的変えていきやすい環境なのかなと思います。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

また、これは自分自身が身をもって体験したことでもあるのですが、最初に入職した歯科医院の水準が、その後の歯科衛生士としての人生に大きな影響を与えてしまうので、学生さんにはどんな場所で働くかをじっくり考えてほしいと伝えています。卒業後、臨床に出て1~2年目くらいまでは、歯科衛生士としての専門的なことや業務上必要なことをよくも悪くも吸収していく時期です。だから、どのような感染管理をしていて、どのような治療をおこなっていて、患者さんにどう対応しているのか、先生自身がちゃんと勉強しているのかなど、就職先を検討される際によく確認してほしいですね。

石原総合歯科医院

あと、セミナーの場でさまざまな方から質問をもらうなかで感じたのは、説明書を読んでもわからないことがあったときには、わからないままにしておかずにメーカーさんに聞いてみてほしいということです。電話一本で済むこともあると思いますし、メーカーさんの手助けはやっぱり心強いと思います。私は普段、使っている器材についてわからないことがあった場合は代理店の方に連絡して聞くようにしていますし、それでもわからないことがあったら、製造元や輸入元に問い合わせをしています。今後はもう少しメーカーさんとの距離を縮めていってほしいなと思いますね。やっぱり現場だけではわからないことはたくさんあって、正しく運用する上ではメーカーさんに詳しいことを聞く必要があると思います。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん

自分も再生処理を学びはじめた時は悩むことが多かったので、現場に携わる人の中には、多分悩んだり困ったりしている人はたくさんいると思うんです。だからこれからの自分の活動としては、臨床の傍ら再生処理の現場に携わる人たちに寄り添えるような啓蒙活動をやっていきたいなと考えています。

石原総合歯科医院 佐藤繭美さん