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再生処理の知識

細いチューブと太いチューブ、どちらが滅菌しづらい?内腔器材の空気除去特性について、文献を基に解説します。

内径と長さと空気除去特性003

皆さんは、高圧蒸気滅菌で同じ長さのチューブを滅菌する時、径が細いものと太いものとではどちらが滅菌しづらいかを考えたことはありますか?

 

「細いチューブの方が滅菌しづらそう」「太いほうが滅菌しづらいと聞いたことがある」など、いろいろなご意見があるかと思います。

 

本記事では、内径や長さの異なるチューブを用いて検証した「高圧蒸気滅菌における内腔器材の空気除去の検証」という文献を読み解きながら、径が細いものと太いものとではどちらが滅菌しづらいかを解説します。

1. 「高圧蒸気滅菌における内腔器材の空気除去の検証」とは

1-1. 1998年にU.カイザー氏らにより発表

「高圧蒸気滅菌における内腔器材の空気除去の検証(Investigation of Air Removal from Hollow Devices in Steam Sterilization Processes)」は、U.カイザー氏とJ.ゴーマン氏により発表された文献で、1998年にCentral Service(発行元:mhp-verlag GmbH)に掲載されました。

Investigation of Air Removal from Hollow Devices in Steam Sterilization Process

1-2. 滅菌業務に関する国際的な専門誌に掲載

Central Serviceは、隔月で発行されている滅菌業務に関する国際的な専門誌です。日々の滅菌業務に携わる方にとって役に立つ、実践的かつ専門的な内容が掲載されています。Central Serviceは、世界各国の病院滅菌供給業務関係者団体による国際組織、WFHSS(World Federation for Hospital Sterilization Sciences、滅菌供給業務世界会議)のWebサイトでも紹介されています。

1-3. 内腔器材は空気除去が難しく、蒸気が浸透しづらい

高圧蒸気滅菌では、高温の蒸気が器材に暴露し、凝縮を生じ高温の水となって器材を滅菌します。滅菌器内の器材のあらゆる表面に、飽和蒸気が到達することが必要不可欠です。

滅菌器内に空気が残存していると、飽和蒸気が到達せず、空気が残存した部分は乾熱状態となり、温度が上がっても滅菌不良の原因となることがあります。特に、内腔構造を有する医療器材は、器材内部に含まれる空気の除去が難しく蒸気が浸透しづらいと言われています。

内腔器材への蒸気浸透の仕組み

1-4. チューブの内径や長さが空気除去に与える影響について検証

内腔器材と言っても、吸引嘴管や気腹チューブ、ラパロ鉗子のように様々な器材が存在し、チューブの内径や長さによって空気除去の難しさは変わります。

本文献では、高圧蒸気滅菌における内腔器材の空気除去について、同じ材質で内径や長さが異なるチューブを使用して検証しています。チューブの内径や長さが、空気除去にどのような影響を与えるのかを明らかにしています。

 

2. 検証概要

2-1. 使用した器具:内径と長さが異なる25本のデッドエンドチューブ

本検証では、内径と長さの異なるPTFE(テフロン)製のチューブとケミカルインジケータ(CI)を使用しています。チューブは、片側が閉じているデッドエンド構造です。内径・長さが異なる計25本のチューブを滅菌し、そのインジケータの変色結果を基に空気除去特性を明らかにしています。

No3andCI

2-2. 検証方法:真空引きの回数を1回から10回に段階的に変更

それぞれのチューブの空気除去特性を明らかにするために、真空引きの回数を1回から10回まで段階的に変えて滅菌し、インジケータの変色結果を検証しています。真空引きの回数が増えるほど、より多くの空気が除去がされ、チューブ内部へ蒸気が浸透しやすくなります。

2-3. 検証範囲:内径1㎜~5㎜、長さ0.5m~4.5mのチューブ

本検証では、内径1㎜~5㎜、長さ0.5m~4.5mのチューブの検証結果が報告されています。本文献で明らかにされた内腔器材の空気除去特性については、検証された範囲でしか適応されないことに留意する必要があります。例えば、内径6mmのチューブは本検証の範囲外であるため、本文献で述べられる特性が必ずしも当てはまるとは限りません。

 

3. 検証試験で分かったこと

3-1. インジケータの変色結果一覧

ケミカルインジケータの変色度合いを数値化し、0%は全く変色しない状態、100%は完全に変色した状態として記録しています。インジケータの変色結果は、下表のとおりです。

検証結果(内径軸)

3-2. 同じ内径であれば、チューブが長いほど空気除去・蒸気浸透が難しくなる

3-1.の表から、チューブの内径が同じであれば、長さが長くなるほどインジケータの変色が悪くなっていることがわかります。例えば、内径1mmのチューブで真空引き2回の場合。長さが0.5mから4.5mへ長くなるほど、インジケータの変色度合いが90%から20%へ小さくなっています。

つまり、同じ内径であれば、チューブが長いほど空気除去および蒸気浸透は難しくなるということです。

内径1mmの検証結果

3-3. 同じ長さであれば、チューブが太いほど空気除去・蒸気浸透が難しくなる

3-1.の表を、チューブの長さを軸に並び替えた結果がこちらです。

検証結果(長さ軸)
チューブの長さが同じであれば、内径が太くなるほどインジケータの変色が悪くなっていることがわかります。例えば、長さ0.5mのチューブで真空引き2回の場合。内径が1mmから5mmへ太くなるにつれて、インジケータの変色度合いが90%から20%へ小さくなっています。

つまり、同じ長さであれば、チューブが太いほど空気除去および蒸気浸透は難しくなるということです。

内径1mmの検証結果

 

3-4. HPR値は内腔器材の蒸気浸透の難しさを数値化したもの

本検証により、同じ内径であればチューブが長いほど、同じ長さであればチューブが太いほど蒸気浸透しづらいことがわかりました。このチューブの内径と長さの相関関係を基に、内腔器材の蒸気浸透性の難しさを数値化し、HPR値(Hollow-Device-Penetration-Resistance)と定義づけしています。

HPR値は、チューブの内径(mm)に長さ(m)を乗じて算出されます。例えば、内径2mm、長さ1.5mのチューブのHPR値は、2×1.5=3.0となります。

3-5. HPR値が大きいほど蒸気浸透は難しくなる

3-1の表を、HPR値の小さい順に並べたものが以下の表です。

検証結果(HPR値軸)②

HPR値が大きいほど、インジケータの変色度合いが小さいことがわかります。例えば、真空引き4回では、HPR値5までは完全に変色していますが、HPR値6から12は不完全な変色、13.5以降は全く変色していません。

つまり、HPR値が大きいほど、空気除去および蒸気浸透は難しくなるという事です。

3-6. 【参考】太いチューブが滅菌しづらい理由は、より多くの空気除去が必要だから

「同じ長さであれば、太いチューブの方が滅菌しづらい」と聞いて、意外に思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?ここでは、太いチューブが滅菌しづらい理由を簡単に解説します。

太いチューブが滅菌しづらい理由は、チューブの内面積に対する内容積の大きさにあります。例えば、長さ1mで内径が2mmと4mmのチューブを比較すると、内容積、内面積と、内面積:内容積の比は以下ようになります。

内容積と内面積

内容積は、チューブの滅菌に際して「除去しなければいけない空気の量」と考えることができます。つまり、チューブの内面積に対して内容積が大きいほど、除去しなければいけない空気が多いということになります。

内径2mmのチューブの場合、チューブの内面積を1とすると、除去しなければならない空気は0.05ですが、内径4mmの場合は0.1となります。よって、内径4mmのチューブの方がより多くの空気を除去しなければならず、より滅菌しづらいということになります。

 

4.まとめ

いかがでしたでしょうか?

「高圧蒸気滅菌における内腔器材の空気除去の検証」は、内径や長さの異なるチューブを用いて、内腔器材の空気除去特性を検証した文献です。同じ内径のチューブであれば長さが長いほど、同じ長さのチューブであれば内径が太いほど、空気除去および蒸気浸透が難しくなります。内腔器材の蒸気浸透の難しさを数値化したHPR値は、チューブの内径に長さを乗じて算出されます。HPR値が大きいほど、蒸気浸透は難しくなります。

内腔器材の空気除去や蒸気浸透、HPR値に関するお問合せや各種ご依頼は、営業担当またはSALWAYのWebサイトのお問合せフォームよりご連絡下さい。

参考文献: Investigation of Air Removal from Hollow Devices in Steam Sterilization Processes (U.Kaiser and J.Goman)

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