目次
1. PCD(プロセスチャレンジデバイス)とは
1-1. PCDは process challenge device の略
PCDの正式名称は、process challenge device です。頭文字をとって、PCDと略されることが一般的です。
1-2. 日本語では工程試験用具とも呼ばれる
日本語では「プロセスチャレンジデバイス」、または「工程試験用具」と呼ばれます。
1-3. 医療現場における滅菌保証のガイドライン2021におけるPCDの定義
『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』(以下ガイドライン2021)では、PCDは以下のように定義されています(p4)。
プロセスチャレンジデバイス(process challenge device:PCD)
洗浄、消毒および滅菌プロセスに対して予め定めた抵抗性を示すように設計された、それらのプロセスの性能を評価するために用いる用具。
「PCD」というと、滅菌プロセスの評価に使用するPCDを指すことが一般的です。本記事では、2~6章で滅菌プロセスのPCD、7章で洗浄プロセスを評価するPCDについて解説します。
1-4. PCDは意図的に抵抗性をつくり出すデバイス
医療器材の中には、その構造や材質から滅菌剤(高圧蒸気滅菌であれば飽和蒸気)が浸透しづらく、滅菌が困難なものが存在します。そのような器材の滅菌のしづらさ、つまり滅菌抵抗性を再現するのが、PCDの役割です。
では、なぜPCDを使用する必要があるのでしょうか?
2. PCDを使用する理由
2-1. PCDは日常の出荷判定用テストパックの1つ
PCDは、日常の出荷判定用テストパックとして使用します。「出荷判定」はその回の滅菌が適切に実施されたかを判定すること、「テストパック」はその判定に使用する試験用具を意味します。
ガイドライン2021(p18)では、日常の出荷判定用テストパックについて以下のように記載されています。
日常の出荷判定用テストパックの選定
日常の滅菌処理に使用する出荷可否判定用のテストパックは、以下の優先順位で選定する。
①マスター製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、②マスター製品に特性が似た製品や模擬製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、③市販のPCDにBIおよび/またはCIを設置したもの。
その取扱いのしやすさから、③市販のPCDを使用するのが一般的になってきています。
2-2. インジケータを器材内部に挿入する代わりに、PCDで器材の滅菌抵抗性を再現する
ラパロ鉗子や気腹チューブなどの内腔器材は、内部に蒸気が浸透しづらく、滅菌が困難な器材の代表例です。器材が滅菌できているかを確認するために、BIやCIなどのインジケータを使用しますが、インジケータはそれが置かれた場所の情報しか得ることができません。つまり、器材内部までの滅菌条件を確認するためには、本来はインジケータを器材内部に入れなくてはいけません。
しかし、物理的にインジケータを器材内部に挿入することは困難です。そのため、器材内部のように滅菌がしづらい環境を疑似的に再現するPCDが必要となるわけです。
2-3. ワーストケースの考えをもとにPCDの結果で払い出す
PCDは、日常の出荷判定に使用されます。つまり、PCD内部のインジケータが合格していれば、その回の滅菌は適切に行われたと判断をします。
PCDを出荷判定に使用する考え方の前提には、すべての器材の滅菌可否を確認することはできないという事実があります。滅菌したすべての器材を確認する時間もありませんし、そもそも包装材を開封してしまった時点で、その器材の無菌性は破綻してしまいます。
そこで、滅菌器の最も滅菌しづらい場所(コールドスポット)で、マスター製品(最も滅菌が困難な器材)よりも滅菌しづらいPCDに挿入したインジケータが合格していれば、全ての器材は滅菌できていると推定し払い出します。これが、PCDを出荷判定に使用するワーストケースの考え方です。
3. PCDの種類
3-1. PCDにはポーラス型とホローロード型がある
PCDは、その構造から大きく2種類に分類されます。ポーラス型とホローロード型です。
3-2. ポーラス型はリネンやタオルなどの多孔質素材を模したもの
ポーラス型は、積層構造で滅菌抵抗性をつくり出します。リネンやタオルなどの多孔質素材の滅菌抵抗性を模したPCDです。代表的なものとしては、米国規格AAMIのタオルパック原法や、その規格に準拠した市販のPCDが挙げられます。
3-3. ホローロード型は内腔構造を模したもの
一方のホローロード型は、内腔構造で滅菌抵抗性をつくり出します。ラパロ鉗子や気腹チューブなどの、内腔器材の滅菌抵抗性を模したPCDです。SALWAYのコンパクトPCDシリーズは、ホローロード型PCDの代表格です。コンパクトPCDは、内径が細く長いステインレスチューブの先にインジケータを設置することで、内腔器材よりも高い滅菌抵抗性を再現しています。
4. ガイドライン2021におけるPCDの記載
4-1. PCDにはマスター製品と同等以上の滅菌抵抗性が求められる
市販のPCDを日常の出荷判定に使用する場合、PCDにはマスター製品と同等以上の滅菌抵抗性が求められます。つまり、PCDはマスター製品と同じ、またはそれ以上に滅菌しづらいものでなくてはいけません。
ガイドライン2021(p18)では、PCDの滅菌抵抗性について以下のように記載されています。
日常の出荷判定用テストパックの選定
日常の滅菌処理に使用する出荷可否判定用のテストパックは、以下の優先順位で選定する。
①マスター製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、②マスター製品に特性が似た製品や模擬製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、③市販のPCDにBIおよび/またはCIを設置したもの。
②または③を使用する時には、これらが①と同等以上の滅菌抵抗性であることの確認が必要である。
言い換えれば、滅菌する器材よりも滅菌抵抗性が低いPCDは、日常の払い出しには使用できないということでもあります。
4-2. ポーラス型/ホローロード型の選択は事前に十分な検証が必要
ポーラス型/ホローロード型のどちらを選択するかに関しては、事前に十分な検証が必要です。ガイドライン2021(p19)では、市販のPCDの選択について以下のように記載されています。
③の市販のPCDには、ホローロード型(管腔器材を模したもの)やポーラス型(リネンやタオルなどの多孔質素材を模したもの)を含め多く存在する。これら市販のPCDが出荷可否判定に使用可能か、または装置の適格性確認用(例:蒸気滅菌器の蒸気浸透性試験)であるかについて、CSSDにおいてPCDメーカおよび滅菌器メーカなどへの確認を含め事前に十分な検証が必要である。
ここで検証すべきは「そのPCDがマスター製品と同等以上の滅菌抵抗性を有していること」です。この前提がないと、ワーストケースの考えをもとにしたPCDによる日常の出荷判定が成立しなくなってしまいます。
4-3. PCDにはBIおよび/またはCIを設置して使用する
PCDには、BIおよび/またはCIを設置して使用します。ガイドライン2021(p18)では、PCDに設置するインジケータについて、以下のように記載されています。
日常の出荷判定用テストパックの選定
日常の滅菌処理に使用する出荷可否判定用のテストパックは、以下の優先順位で選定する。
①マスター製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、②マスター製品に特性が似た製品や模擬製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、③市販のPCDにBIおよび/またはCIを設置したもの。
②または③を使用する時には、これらが①と同等以上の滅菌抵抗性であることの確認が必要である。
すなわち、日常出荷判定用PCDの中に入れるインジケータは3パターン存在し、そのいずれも認められた方法として捉えることができます。
・日常出荷判定用PCDの中にBIを入れたもの
・日常出荷判定用PCDの中にCIを入れたもの
・日常出荷判定用PCDの中にBIとCIを入れたもの
5. 適切なPCDとは
5-1. PCDの本質は滅菌不良が起きた時に確実に不合格を示すこと
PCDに求められるのは、簡単に合格することではありません。滅菌器や工程に何らかの不具合があり、滅菌不良の可能性がある時に確実に不合格を示すことです。
5-2. 適切なPCDの条件は「マスター製品の滅菌抵抗性≦PCDの滅菌抵抗性≦滅菌器の性能」
日常出荷判定用PCDには、マスター製品と同等以上の滅菌抵抗性を有し、かつ滅菌器の性能を上回らないことが求められます。つまり「マスター製品の滅菌抵抗性≦PCDの滅菌抵抗性≦滅菌器の性能」の条件を満たす必要があります。
以下の例であれば、PCD②(オレンジ)が適切なPCDとなります。
5-3. マスター製品よりも滅菌抵抗性が低いPCDでは、器材の滅菌を保証できない
マスター製品よりも滅菌抵抗性が低いPCD①では、PCDが合格したとしても、それよりも滅菌抵抗性の高いマスター製品も滅菌できているとは限りません。マスター製品が滅菌できていることを保証できない以上、器材を払い出すことはできません。
5-4. 滅菌器の性能を上回る滅菌抵抗性を持つPCDでは、毎回不合格を示してしまう
滅菌器の性能(赤点線)を上回る滅菌抵抗性を持つPCD③では、毎回不合格を示してしまい、器材を払い出すことができません。PCDはマスター製品と同等以上の滅菌抵抗性を有していなければなりませんが、厳しいものを使用すればいいという訳でもありません。
5-5. 「現行のPCDが合格しないから、簡単に合格するものに切り替える」は本末転倒
日常出荷判定用PCDがなんらかの原因で合格しなくなった時、簡単に合格するPCDに切り替えるのは、本末転倒です。PCDに求められるのはマスター製品と同等以上の滅菌抵抗性であり、簡単に合格を示すことではありません。上記の例であれば、PCD②からPCD①に切り替えてしまうと、マスター製品の滅菌保証が出来なくなってしまいます。
PCDの不合格が続く場合、滅菌器メーカーやPCDメーカーに問い合わせ、不合格の原因を解明しましょう。コンパクトPCDが不合格を示した原因の事例ついては、こちらの記事をご覧ください。
【アンケート結果】コンパクトPCDの使用状況や導入効果について
5-6. マスター製品とPCDの滅菌抵抗性の比較方法
マスター製品とPCDの滅菌抵抗性を比較する方法の1つとして、ドイツの工業規格であるDIN58921を参考にした検証方法があります。意図的に真空到達度を浅くすることで滅菌条件を悪くしていった時に、マスター製品とPCDのどちらが先に不合格を示すかを検証します。滅菌抵抗性の比較方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【第1種滅菌技師が解説】マスター製品と日常出荷判定用PCDの滅菌抵抗性を比較する方法
6. SALWAYのコンパクトPCDシリーズ
SALWAYでは、滅菌する器材や滅菌器の性能に合わせた様々なコンパクトPCDを提供しています。
6-1. 歯科用コンパクトPCD
歯科で使用されるハンドピースなどの内腔器材を想定したコンパクトPCDです。ハンドピースよりも滅菌抵抗性が高く設計されています。小型滅菌器に入れやすいよう、通常のPCDよりも薄い形状をしています。
6-2. 眼科用コンパクトPCD
眼科で使用されるフェイコ・ハンドピースなどの内腔器材を想定したコンパクトPCDです。手術を行う眼科クリニック等で使用されています。
6-3. コンパクトPCD(グリーン)
コンテナや不織布による一般的な包装物や、鋼製小物などの単純構造の器材を想定したコンパクトPCDです。単純な形状の器材のみを使用している医療機関に選ばれています。
6-4. コンパクトPCD
ラパロ鉗子や気腹チューブなど、複雑な内腔器材を想定したPCDです。EN ISO11140-6(EN867-5)に適合。欧州基準の再生処理を目指す、SALWAYの代表製品です。
こちらは、SALWAYが実施した検証試験の結果です。SALWAYのコンパクトPCD(ホローロード型)と米国規格AAMIのテストパック原法(ポーラス型)、そして気腹チューブやラパロ鉗子を模した内腔器材の滅菌抵抗性を比較しました。真空パルスの回数と真空引きの深さを調整し、意図的に滅菌条件を悪くした時に、各PCDや器材に挿入したインジケータが不合格を示すかを検証しました。
その結果、SALWAYのコンパクトPCDは、ラパロ鉗子や気腹チューブよりも滅菌抵抗性が高いことが確認されました。つまり、ラパロ鉗子や気腹チューブなどの内腔器材を滅菌しているのであれば、それよりも滅菌抵抗性の高いコンパクトPCDを、日常の出荷判定に使用する必要があるということです。
6-5. コンパクトPCD(レッド)※お取り寄せ品
EN ISO11140-6(EN867-5)の要求よりも、高い滅菌抵抗性を持つコンパクトPCDです。ご注文後の海外からのお取り寄せとなりますので、納期についてはお問合せ下さい。
6-6. コンパクトPCD(ブラウン)※お取り寄せ品
EN ISO11140-6(EN867-5)の要求よりも、大幅に高い滅菌抵抗性を持つコンパクトPCDです。こちらも、ご注文後の海外からのお取り寄せとなりますので、納期についてはお問合せ下さい。
6-7. コンパクトPCDの内部構造
コンパクトPCDシリーズは、チューブの長さや入口の位置を変えることで、それぞれのPCDの滅菌抵抗性を調整しています。コンパクトPCD(グリーン)よりも滅菌抵抗性が高いコンパクトPCD(オレンジ)は、蒸気が侵入するチューブの入口がグリーンよりも奥(写真上)に設置されていることがわかります。
6-8. 各PCDの滅菌抵抗性の比較
コンパクトPCDシリーズの、滅菌抵抗性の序列をまとめたものがこちらです。自院で滅菌している器材に合ったPCDを選択することが重要です。
7.洗浄プロセスのPCD
7-1. 洗浄プロセスに使用するPCDもある
一般的にPCDというと、滅菌工程を確認するものを指すことが多いですが、洗浄プロセスに使用するPCDもあります。ガイドライン2021(p4)のPCDの定義において、その旨が記載されています。
プロセスチャレンジデバイス(process challenge device:PCD)
洗浄、消毒および滅菌プロセスに対して予め定めた抵抗性を示すように設計された、それらのプロセスの性能を評価するために用いる用具。
7-2. バスケット等に設置したインジケータでは内腔器材の洗浄工程は評価できない
WDなどを使用した機械洗浄が正しく実施されたかを確認するために、洗浄工程インジケータを使用します。しかし、バスケットなど、器材の外に設置した洗浄工程インジケータでは、内腔器材の内部の洗浄工程を評価することはできません。
7-3. 内腔洗浄フローPCDで内腔器材の洗浄工程を評価する
チューブやラパロ鉗子などの内腔の洗浄工程を評価するためには、内腔構造を再現した内腔洗浄フローPCDなどを使用する必要があります。洗浄工程インジケータをフローPCD内に設置し、WDの洗浄ポートに接続するなどして、内腔器材の中の洗浄工程を評価します。
8. まとめ
いかがでしたでしょうか。
PCD(プロセスチャレンジデバイス)は、意図的に抵抗性をつくり出すデバイスです。日常の出荷判定に使用されるPCDには、マスター製品(最も滅菌が困難な器材)と同等以上の滅菌抵抗性が求められます。ラパロ鉗子や気腹チューブなどの内腔器材を滅菌している施設であれば、SALWAYのコンパクトPCD(オレンジ)のような、内腔器材と同等以上の滅菌抵抗性を持つPCDで日常の出荷判定をする必要があります。一般的にPCDというと、滅菌プロセスの評価に使用されるものを指しますが、洗浄プロセスを評価するPCDもあります。内腔器材の洗浄工程を評価するためには、内腔洗浄フローPCDなどを使用する必要があります。
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