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再生処理の知識

【画像あり】滅菌インジケータとは?CIやBIの種類や使い方、PCDの選び方などの基本を解説します。

type5ci

医療器材の滅菌業務に関わる方であれば、必ず耳にする「滅菌インジケータ」。

 

「滅菌インジケータとは?」
「化学的インジケータと生物学的インジケータの違いは?」
「ガイドラインに記載されているPCDとは?」

 

そんな疑問にお答えいたします。

 

本記事を読めば、滅菌インジケータの種類や使い方などの基本をおさえることができます。

 

 

目次

1. 滅菌インジケータとは

1-1. インジケータとは「状態を知るための指標」という意味

そもそもインジケータ(indicator)という言葉は、「(~を)示す」という意味のindicateに由来しています。滅菌インジケータは、「滅菌」を「示すもの」「指標」のことを指し、滅菌が適切になされていることを確認するとても重要な手段です。

 

1-2. 滅菌インジケータを用いて滅菌工程が達成されたかをモニタリングする

滅菌インジケータは、滅菌物の無菌性を証明するものではありません。つまり、滅菌した器材そのものに菌がいないかを確認している訳ではありません。

原則としては、滅菌物が適切に滅菌されていることを検証(バリデーション)した工程が前提にあり、その工程が達成されていることを確認(=モニタリング)するための手段であると言えます。

 

1-3. 滅菌インジケータには物理的、化学的、生物学的の3種類がある

滅菌インジケータと言われるものは、物理的インジケータ、化学的インジケータ、生物学的インジケータの3種類あります。

それぞれについて、次章以降で詳しく解説していきます。

 

2. 物理的インジケータとは

2-1. 物理的インジケータとは滅菌器の計器類で、温度や圧力などを確認する方法

物理的インジケータとは、滅菌器に付属している計器類で滅菌工程における温度、時間、圧力などを測定し、記録を残す方法のことです。温度や時間の他、真空到達度やパルス回数がいつも通り適切であること等を波形や数値により確認し、滅菌器が設定通り正しく稼働していることを確認します。

物理的インジケーター

 

2-2. 滅菌器の状態をリアルタイムでモニタリングする

物理的インジケータは、滅菌器の計器類で温度や圧力などを確認する方法なので、まさに滅菌工程が行われている最中に、リアルタイムでモニタリングすることが可能です。

また、空気排除や蒸気浸透、圧力変化などが普段通り適切であったかどうかを、滅菌終了直後に確認することもできます。

 

3. 化学的インジケータ(CI)とは

3-1. 化学的インジケータとは滅菌工程のモニタリングに用いられる指標のこと

化学的インジケータ(Chemical Indicator: CI)とは、温度や時間など滅菌方法ごとに定められた滅菌条件が達成されたことを示す指標であり、滅菌工程のモニタリングの手段として広く用いられています。

 

3-2. 化学的インジケータは特定の条件に達すると変色する

化学的インジケータは、設定された温度や滅菌剤濃度(SV値)において、経時的・段階的に変色します。

例えば、この高圧蒸気滅菌用の化学的インジケータのSV値は「135℃ 3分」です。

このインジケータが置かれた場所において、135℃の蒸気が3分以上当たっていれば、インジケータは黒く変色します(真ん中)。逆に黒く変色しなかった場合は、温度または時間、またはその両方が規定のSV値に到達していなかったことを示します(右)。

タイプ5CI変色見本

 

3-3. 化学的インジケータには6つのタイプ(旧称:クラス)がある

国際規格 ISO11140-1において、化学的インジケータは以下の6つのタイプに分類されています。

従来は「クラス」という言葉が使用されていましたが、2014年の改訂で「タイプ」という表現に変更されました。尚、タイプ1~6の数字の大小に、序列的な意味はありません。

タイプ / 名称 説明
タイプ1
プロセス・インジケータ
滅菌工程を通過したか否かを区別する目的のインジケータ
タイプ2
特定の試験のためのインジケータ
空気除去・蒸気浸透の確認など、特定の試験用のインジケータ
タイプ3
シングルバリアブル・インジケータ
滅菌工程の重要プロセス変数の1つに反応するインジケータ
タイプ4
マルチバリアブル・インジケータ
滅菌工程の重要プロセス変数の2つ以上に反応するインジケータ
タイプ5
インテグレーティング・インジケータ
滅菌工程の重要プロセス変数の全てに反応するインジケータ
反応の規定値は指標菌(BI)の死滅と相関(同等 or それ以上)
タイプ6
エミュレーティング・インジケータ
滅菌工程の重要プロセス変数の全てに反応するインジケータ
特定の工程(温度・時間)のみで使用する

 

4. タイプ1(プロセス・インジケータ)

4-1. 滅菌工程を通過したかをモニタリングする

タイプ1のインジケータは、滅菌工程を通過したか否かをモニタリングするために使用されるものです。タイプ1のインジケータは、滅菌条件に曝されると比較的短時間で変色を起こすので、滅菌工程通過の確認にのみ使用します。工程管理用インジケータともいわれています。

代表的なタイプ1インジケータの例です。このようなテープを滅菌ラップで包む際に使用することで、その滅菌物が滅菌前のものなのか、滅菌後のものなのかを外側から判断することができます。

タイプ1インジケータの変色事例

Canon

 

4-2. 滅菌テープや滅菌バッグに付いている

タイプ1のインジケータは以下の写真のように、滅菌コンテナの誤開封防止シールや滅菌テープ、滅菌バッグにも使用されています。未滅菌の器材が誤って使用されないように、視認性の良いものが一般的です。

誤開封防止シール

誤開封防止シール

 

滅菌テープ

滅菌テープ

 

滅菌バッグ(日油技研

滅菌バッグ

 

5. タイプ2(特定の試験のためのインジケータ)

bowie-dick-test

5-1. 特定の試験において条件の達成をモニタリングする

国際規格 ISO11140-1において、タイプ2のインジケータは ”indicators for use in specific tests”と定義されており、蒸気浸透や空気除去など特定の試験に用いられます。その代表的なものが、ボウィー・ディックテストです。

 

5-2. ボウィー・ディックテスト(BDテスト)

ボウィー・ディックテストとは、高圧蒸気滅菌器の空気除去及び蒸気浸透を確認する試験で、毎朝の始業時に、暖機運転後に実施します。

滅菌器や蒸気配管内に空気が残留していると、滅菌器内は飽和蒸気雰囲気とならず、所定の温度(134℃など)まで到達せずに滅菌不良の原因となります。

その日の滅菌器がきちんと稼働するかを確認する、とても重要な手順です。医療現場における滅菌保証のガイドライン2021においても、毎日必ず実施することが推奨されています。

14.5 日常のモニタリング(ボウィー・ディックテスト)
(勧告)
14.5.1 真空式蒸気滅菌器に対して、必ず毎日の運転開始時におこない、合格することを確認する
14.5.2 真空式蒸気滅菌器に対して、滅菌器の移転、修理、故障、滅菌不良の際には3回連続おこない、合格することを確認する
14.5.3 ボウィー・ディックテスト試験は暖機運転後に実施する

リユースタイプやディスポタイプなど、様々な製品が市販されています。

ボウィー・ディックテストとは

 

5-3. ボウィー・ディックテストには欧州規格と米国規格がある

国際規格ISO11140において、ボウィー・ディックテストは欧州規格と米国規格の2つが存在します。

ボウィー・ディックテストの原形である標準テストパックのサイズは、欧州規格、米国規格いずれもほぼ同じですが、重量は欧州規格が7kg、米国規格が4kgと定められています。

つまり、欧州規格の方が米国規格に比べて密度が高く条件が厳しいため、より高い検知力があるといえます。

米国規格(左)と欧州規格(右)のボウィー・ディックテスト

米国規格と欧州規格のボウィー・ディックテスト

5-4. ボウィー・ディックテストの検知力の比較検証

ボウィー・ディックテストの検知力を検証する方法として、真空引き(空気除去)をわざと甘くして、滅菌条件を悪くする方法があります。空気除去が甘かった際に、ボウィー・ディックテストがきちんと不合格を示すかを確認する試験です。

SALWAYのボウィー・ディックテストは、欧州規格に適合しており検知力が高いため、真空パルスを2回にした際にきちんと不合格を示したことが確認されています。

SALWAY ボウィー・ディックテスト

ボウィー・ディックテストの検知力の比較検証の例

ボウィー・ディックテストの比較検証

 

6. タイプ3(シングルバリアブル・インジケータ

6-1. 重要プロセス変数の1つに反応する

タイプ3のインジケータは別名シングルバリアブル・インジケータといい、重要プロセス変数の1つに反応します。

各滅菌方法と、それぞれの重要プロセス変数は以下の通りです。

滅菌方法 重要プロセス変数
高圧蒸気滅菌 温度、時間、飽和蒸気
EOG滅菌 温度、時間、ガス濃度、相対温度
過酸化水素ガス滅菌 温度、時間、ガス濃度
低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌 温度、時間、ガス濃度

 

6-2. ほとんど市場に存在しないインジケータ

タイプ3のインジケータは現在ほとんど市場に存在しません。なぜなら、重要プロセス変数の1つに反応すればよいインジケータでは、滅菌工程のモニタリングの手段としては不十分だからです。

例えば、高圧蒸気滅菌における重要プロセス変数は、温度、時間、飽和蒸気ですが、タイプ3のインジケータはいずれか1つに反応すれば良いので、他の2つの重要プロセス変数については全くわからないということになってしまいます。

単一の滅菌条件にしか反応しないタイプ3は、医療機関における滅菌保証には適していません。

 

7. タイプ4(マルチバリアブル・インジケータ

type4ci_h2o2

 

7-1. 滅菌の重要プロセス変数の2つ以上に反応する

タイプ4のインジケータは、滅菌の重要プロセス変数の2つ以上に反応します。

例えば、高圧蒸気滅菌用のタイプ4であれば、温度と時間のみに反応する製品は乾熱状態でも合格する場合があります。そのため、どの重要プロセス変数に反応する製品であるかを確認することが大切です。

タイプ5やタイプ6のインジケータに比べ、規定値(SV: Stated Value)の許容範囲が広いため、製品の品質の差が大きいといえます。

 

7-2. 包装内インジケータの1つ

タイプ4~タイプ6のインジケータは、滅菌バッグ、ラップ包装、滅菌コンテナなど、包装内の滅菌条件が達成されたことを確認するするために使用されるので、「包装内インジケータ」と呼ばれる場合があります。

滅菌バッグと包装内インジケータ

 

8. タイプ5(インテグレーティング・インジケータ)

type5ci

 

8-1. 滅菌の重要プロセス変数の全てに反応する

タイプ5のインジケータは、滅菌の重要プロセス変数の全てに反応します。また、タイプ4のインジケータに比べ規定値の許容範囲が狭く、より精度の高い滅菌のモニタリングが可能です。

 

8-2. 指標菌(BI)の死滅と相関を示す

タイプ5のインジケータは、国際規格ISO11140-1において、指標菌(BI)の死滅と相関することが要求されており、BIの死滅よりも厳しい判定となるように設計されています。

これは、タイプ5のインジケータが合格している時は、必ず指標菌(BI)は合格するという事を意味しています。

下の図を見ると、タイプ5の合格範囲である滅菌時間2.25分以上の場合、指標菌(BI)は必ず合格していることがわかります。

SALWAY 高圧蒸気滅菌用タイプ5CI

タイプ5CIとBIの死滅の相関

 

9. タイプ6(エミュレーティング・インジケータ)

type6CI

 

9-1. 滅菌の重要プロセス変数の全てに反応する

タイプ6のインジケータは、タイプ5のインジケータと同様、滅菌の重要プロセス変数の全てに反応します。また、規定値の許容範囲が最も狭いため、検知の精度が高いことが特徴です。

 

9-2. 特定の工程のみで用いられる

タイプ6のインジケータは、特定の工程(例えば、プリオンサイクルにおける134℃18分など)のみで使用するものです。タイプ6インジケータのSV値は適用される特定の条件をもとに設計されており、指標菌(BI)との相関は要求されていません。

 

10. 生物学的インジケータ(BI)とは

BIとインキュベータ

10-1. 生物学的インジケータとは指標菌の死滅で滅菌のモニタリングを行う方法

生物学的インジケータ(Biological Indicator:BI)とは、指標菌の死滅で滅菌のモニタリングを行う方法です。器材と一緒に滅菌した指標菌が死滅していれば、実際の菌も死滅していると推定する考え方です。滅菌後に、菌の培養を行い結果を判定します。

10-2. 滅菌方法に合ったインジケータを選択する

高圧蒸気滅菌やEOG滅菌など、各滅菌法に対して抵抗性を有する(=死滅しづらい)細菌芽胞を指標菌として使用します。滅菌方法により指標菌は異なりますので、滅菌方法に合った適切なインジケータを選択することが重要です。

滅菌法 指標菌
高圧蒸気滅菌 Geobacillus stearothermophilus ATCC 7953
EOG滅菌 Bacillus atrophaeus ATCC 9372
過酸化水素ガス滅菌 Geobacillus stearothermophilus ATCC 7953
低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌 Geobacillus stearothermophilus ATCC 7953

10-3. 生物学的インジケータの種類

 

10-3-1. 培地一体型

ガラスアンプルに入った培地と、芽胞菌が塗布された紙片等とが一体となっているタイプです。

ガラスアンプルを割って培養すれば判定結果を得られるので、無菌環境で操作する必要がなく使い勝手が良いため、多くの医療機関で採用されています。

培地一体型BI

 

10-3-2. ストリップ型

芽胞菌を塗布した紙片等を、グラシン紙包装したタイプです。

培養する際には、芽胞紙片をあらかじめ準備した培養液に無菌的に移し替える操作が必要となり、設備や無菌操作技法が必要となります。

製造業等、産業分野で広く採用されています。

ストリップ型BI

 

10-3-3. サスペンション型

所定の濃度の芽胞菌をガラス瓶に入れた懸濁液タイプです。被滅菌物に、直接植菌することができます。

ストリップ型と同様に設備や無菌操作技法が必要となるため、医療機関ではなく、製造業等や産業分野で広く採用されています。

サスペンジョン型BI

 

11. PCD(Process Challenge Device)とは

11-1. PCDとは、意図的に蒸気浸透性を悪くするデバイス

PCD(Process Challenge Device:工程試験用具)とは、意図的に蒸気浸透性を悪くする抵抗性をもったデバイスのことで、滅菌工程の有効性を評価するために用いられます。

医療現場においては、器材の進歩とともに、構造がより複雑化しています。器材の滅菌抵抗性に応じた、適切な負荷を有するPCDを選択する必要があります。

PCDの内部構造

コンパクトPCDの内部構造

 

11-2. 器材の中にインジケータを入れることはできない

ラパロ鉗子など内腔を有する器材は当然、外側よりも内側の方が滅菌しづらいですが、器材の中にCIやBIといった滅菌インジケータを入れることは、物理的に現実的ではありません。

また、滅菌インジケータは、その置かれた場所の温度や時間といった情報しか検知することができません。よって、器材の滅菌抵抗性に応じた負荷を滅菌インジケータに与えることにより、滅菌インジケータを器材の中に入れなくても、器材内部の環境を再現し、滅菌の有効性を検証することが可能です。

PCDとは

11-3. ワーストケースという考え方

滅菌器で滅菌した全ての器材の滅菌可否を、確認することは現実的ではありません。すべての器材を確認するのは膨大な作業になりますし、そもそも滅菌バックなどを開封してしまった瞬間に、無菌性は破綻してしまいます。

そこで、滅菌する器材の中で一番滅菌しづらい器材よりも滅菌しづらいPCDが、滅菌器内の最も滅菌しづらい場所(コールドスポット)で合格していれば、他の器材も滅菌できていると判断します。ワーストケースという考え方です。

ワーストケースという考え方

 

11-4. 器材よりも滅菌抵抗性の高いPCDを選ぶ

「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」P18において、日常の出荷判定用テストパック(PCD)の選定に関し、以下のように記載されています。

日常の滅菌処理に使用する出荷可否判定用のテストパックは、以下の優先順位で選定する。①マスター製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、②マスター製品に特性が似た製品や模擬製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、③市販のPCDにBIおよび/またはCIを設置したもの。②または③を使用する時には、これらが①と同等以上の滅菌抵抗性であることの確認が必要である。

器材よりも滅菌抵抗性の低いPCDの中の滅菌インジケータが合格していても、マスター製品が滅菌できているとは言えません。器材よりも滅菌抵抗性の高いPCDの中の滅菌インジケータが合格して初めて、マスター製品が滅菌できていると言えるということを意味しています。

つまり、出荷判定に使用するPCDが滅菌する器材よりも滅菌抵抗性が高くなければ、先ほどのワーストケースの考え方は破綻してしまうということです。

 

11-5. ポーラス型、ホローロード型がある

市販されているPCDには、積層構造で滅菌抵抗性を持たせるポーラス型と、内腔構造で滅菌抵抗性を持たせるホローロード型があります。

「医療現場における滅菌保証のガイドライン2021」P19において、市販のPCDとしてポーラス型やホローロード型があり、それらを日常の出荷可否判定に使用する場合は、いずれも事前に十分な検証を行う必要があると述べられています。

ポーラス型とホローロード型

 

11-6. 管腔器材(内腔器材)の滅菌保証にはホローロード型PCDを使用する

ラパロ鉗子などの内腔器材は、滅菌が難しいと言われています。これは高圧蒸気滅菌において、滅菌剤である蒸気を浸透させるために空気を抜く必要があるのですが、内腔構造の器材は空気を抜くのが難しいためです。

内腔器材への蒸気浸透

 

ラパロ鉗子などの内腔器材の中まで滅菌できているかを確認するには、器材の中よりも滅菌しづらい(滅菌抵抗性の高い)PCDを使用する必要があります。

SALWAYのホローロード型のコンパクトPCDは、ラパロ鉗子や気腹チューブよりも滅菌抵抗性が高いことが確認されています。

SALWAY コンパクトPCD

管腔器材の滅菌保証にはホローロード型を選択する

 

12. まとめ

滅菌インジケータには様々な種類がありますが、用途や性能を十分理解し、適切な方法を選択することで、より安全かつ安心な器材の払い出しが実現可能です。この記事が皆様の理解の一助となれば幸いです。

 

滅菌インジケータ(CI、BI、PCD)に関するお問合せや各種ご依頼(お見積りやサンプルなど)は、営業担当またはSALWAY Webサイトのお問合せフォームよりご連絡下さい。

 

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