1. BIとは
1-1. BIを使用する目的は、指標菌の死滅をもとに器材の滅菌を間接的に確認すること
滅菌の達成を確認するためには、本来器材を全品検査して菌が生存しないことを確認する必要があります。
しかし、そのように検査した器材はもはや無菌性が維持されているとはいえず、その後使用することはできなくなるため現実的とはいえません。
そこで器材とは別に、BIと呼ばれる実際の菌(指標菌)を用意して滅菌をし、その後培養して菌が生存しないことを確認することで、器材の滅菌条件の達成を間接的に確認しています。
様々なBI(GKE社製)
1-2. 器材の滅菌確認(出荷判定)にはBI および/または CI を使用する
器材の滅菌の確認(出荷判定)の方法について、『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』では、以下のように記載されています。
日常の滅菌処理に使用する出荷可否判定用のテストパックは、以下の優先順位で選定する。①マスター製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、②マスター製品に特性が似た製品や模擬製品にBIおよび/またはCIを設置したもの、③市販のPCDにBIおよび/またはCIを設置したもの。②または③を使用する時には、これらが①と同等以上の滅菌抵抗性であることの確認が必要である。
ガイドライン2021では上記のような記載に留まっており、日常の出荷判定用テストパックにBIとCIのどちらを使用したらいいのかは明記されていません。日常の出荷判定について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
(記事)【検証試験】日常の出荷判定用テストパックの選定について。市販PCDの選び方は?BIとCIどちらを使うべき?
1-3. 指標菌には、各滅菌剤に最も耐性のある芽胞菌が採用される
BIに使用される実際の菌(指標菌)には、各滅菌剤に対して最も耐性のある「芽胞菌」が採用されます。
芽胞菌とは、休眠状態の菌のことです。増殖することができる栄養状態と比較して、耐熱性・耐薬品性が極めて高くなります。芽胞菌は培養液に触れて生育に適した環境になると、発芽して栄養状態となったのち、増殖し始めます。
滅菌剤に対して最も耐性のある指標菌が滅菌できたのであれば、他の菌も死滅しただろうと考えます。これが最も耐性のある菌を指標菌に採用して滅菌確認する理由です。
1-4. 芽胞菌は滅菌によるダメージを受けても、12時間以上かけて再生することがある
芽胞菌は滅菌剤に対して耐性があるだけでなく、滅菌剤でダメージを受けたあとの修復力も高いことが知られています。
例えば、滅菌されたあとに芽胞菌が生き残っていた場合、芽胞菌は大抵ダメージを受けています。ダメージを受けた芽胞菌はすぐに増殖せず、時間をかけて自己修復をしてから増殖を始めます。
自己修復をしてから増殖しはじめるまでの時間は、約12時間を超えることがあるとされています。*
*参考文献:1.Understanding Biological Indicator Grow-Out Times
2.Understanding Biological Indicator Grow-Out Times—Part II
1-5. 高圧蒸気滅菌・LTSF滅菌・過酸化水素ガス滅菌用の指標菌は「ジオバチルス・ステアロサーモフィラス」
高圧蒸気滅菌・LTSF滅菌・過酸化水素ガス滅菌に一番耐性のある芽胞菌は「ジオバチルス・ステアロサーモフィラス」です。
ジオバチルス・ステアロサーモフィラスは人体に無害であるとされています。国際規格にも、医療現場でこれらの滅菌法に使用するBIの指標菌として「ジオバチルス・ステアロサーモフィラス」を使用することが明記されています。
なお、各滅菌方法で指標菌は統一されていますが、各滅菌方法に対して、培養液や菌が塗布されているものの材質が異なるため注意が必要です。例えば、高圧蒸気滅菌用のBIには紙が使用されていますが、紙はガスを吸着してしまうため、過酸化水素ガス滅菌に使用することはできません。
高圧蒸気滅菌用BI
1-6. EOG滅菌用の指標菌は「バチルス・アトロフェウス」
EOG滅菌に耐性のある芽胞菌は「バチルス・アトロフェウス」です。
こちらも国際規格において、医療現場でEOG滅菌に使用するBIの指標菌として「バチルス・アトロフェウス」を使用することが明記されています。バチルス・アトロフェウスもまた、人体に無害であるとされています。
EOG滅菌用BI
2. 医療現場で使用されるBI
2-1. 医療現場ではその簡易性から培地一体型BI (SCBI) を使用することが多い
BIは、その形態により懸濁液型、ストリップ型、培地一体型に分類されます。
懸濁液型とストリップ型は、無菌操作が必要なBIです。例えばストリップ型BIの場合、滅菌後にストリップ型BIの紙片を滅菌バッグから取出し、培養液に入れる必要がありますが、この操作は他の菌が混入しないように無菌操作を行わなければなりません。この無菌操作には、クリーンベンチと呼ばれる専用の作業台を用意するなど、環境を整える必要があります。
2-2. 培地一体型BI (SCBI) は無菌操作が不要
培地一体型BIは文字通り、指標菌がいる培地と培養液が一体となったBIです。BIの容器の中で無菌操作ができるように設計されています。培地一体型BIは、SCBI (Self Contained Biological Indicator) とも呼ばれます。
培地一体型BIのプラスチック容器の中には、指標菌が塗布された紙片と、培養液の入ったガラスアンプルが入っています。
上の図の左側は、使用前の培地一体型BIを示したものです。この状態では指標菌は培養液に触れないため、芽胞の状態を維持します。
クラッシャーなどを使って外側の容器を潰すと、内側のガラスアンプルが割れ、指標菌が培養液に触れるようになります。この構造のおかげで、無菌操作やそのための設備を必要とせず、無菌的に指標菌と培養液を混ぜ合わせることができます。培養液と混ぜ合わせたあとは、何らかの方法で菌の増殖を判定します。
このように培地一体型BIは無菌操作を必要とせず、簡易的に判定をすることができるため、医療現場で重宝されています。
3. 判定時間によるBIの分類
3-1. BIの判定時間は1週間かかるものから、数十分で済むものなど様々なものが存在
BIは滅菌後に培養液の中に入れて規定の温度で培養する必要があります。
元々、1週間以上かけて培養をする必要がありましたが、技術の進歩に伴い、より短い判定時間のBIが市場に出回るようになりました。
最初は7日間から24時間まで判定時間を短縮したBIが一般的でしたが、さらに開発が進み、24時間から3時間、さらには数十分まで判定時間が短縮されたBIが販売されるようになりました。
3-2. 判定時間により、菌の生存を「確認」するタイプと「予測」するタイプに分類できる
現在市販されているBIは、その判定方法により指標菌の生存を「確認」するものと、菌の生存を「予測」するものに分けることができます。
次項より、これら2種類のBIの違いを解説していきます。
4. 菌の生存を「確認」するBI
4-1. 菌の生存を「確認」するBIは7日間判定と、24時間判定の2種類が存在する
菌の生存を「確認」するBIは、7日間判定と24時間判定の2種類が存在します。
7日間判定は指標菌が形成するコロニーを目視で確認する方法で、一般的な培地(黄土色)を使用します。この方法は、懸濁液型BIやストリップ型BIなどの判定に使用されます。
一方、24時間判定のBIは、指標菌の増殖に伴って産生される酸を検出する方法で、培地の中に含まれるpH指示薬(紫色や緑色)によって検出します。この方法は、SCBIの判定に使用されます。
どちらのBIも菌の増殖を「確認」することで、菌の生存を「確認」することができます。
4-2. 7日間判定BIは、指標菌の増殖に伴って形成される「コロニー」を目視で確認する
培養液中の菌を、規定の温度で培養し続けると、菌は増殖してコロニーと呼ばれる塊を形成します。そのコロニーを目視で確認する方法が、原始的なBIの判定方法でした。
滅菌された後、指標菌のコロニーが目に見えるようになるまでおよそ1週間程度かかると言われているため、BIの生存を目視で判定するためには最低でも7日間を要します。
点々とコロニーが目視できる培地
4-3. 24時間判定BIは、指標菌の増殖に伴って産生される「酸」を検出する
指標菌は、培養液中の砂糖を分解すると同時に「酸」を産生します。したがって、指標菌が増殖すればするほど、培地の酸性度(pH)が低くなっていきます。
24時間判定BIの培養液の中には、酸性度が低くなると色が変化するpH指示薬が入っているため、培養液の変色をもって菌の生存を確認することができます。
この判定方法は、ISO11138-8(ヘルスケア製品の滅菌-生物学的インジケータ-第8部:生物学的インジケータに関するインキュベーション短縮期間のバリデーション方法)という国際規格でも定められています。
4-4. 菌の生存を「確認」するためには、1日程度の長い時間を要する
芽胞菌はそのまま増殖はせず、発芽して栄養状態となってから増殖をします。無傷の芽胞菌は、発芽するのに時間はかからず、すぐに栄養状態となって増殖しはじめます。
一方、滅菌によりダメージを受けた芽胞菌は、芽胞が修復した後に発芽します。修復にかかる時間は12時間以上かかることもあるため、通常よりも菌が増殖しはじめるのに時間を要します。
したがって、菌の生存を「確認」するためには少なくとも12時間以上の長い時間を要することになります。
5. 菌の生存を「予測」するBI
5-1. 菌の生存を「予測」する短時間判定BIは、3時間判定や、数十分のものが存在する
菌の生存を「予測」するBIは、3時間判定や数十分のものが存在します。
3時間判定や数十分判定のBIは、指標菌の表面に存在するたんぱく質を検出する方法で菌の生存を判定します。一般的な培地に人工の砂糖が添加されてるのが特徴です。
たんぱく質の機能を確認することで、指標菌の生存を「予測」しています。
5-2. 短時間判定BIは、指標菌の表面に存在する「たんぱく質」を検出する
指標菌の表面には、たんぱく質(酵素)が存在しています。それらの酵素の中には、砂糖を分解する働きをもつものが存在します。
培養液の中に分解すると光る(蛍光を発する)人工の砂糖を入れておけば、指標菌の表面に存在する酵素が活性を持っている状態のときだけ、培養液が蛍光を発するようになります。この蛍光は目視で確認できない程度のものであるため、専用の培養器が必要になります。
この蛍光が検出される=酵素が活性を持っている、ということになり、その結果をもってBIが生存していることを予測することができます。
指標菌の表面のたんぱく質が正常であれば、短時間判定BIは陽性を示し、たんぱく質が失活(変形)していれば、短時間判定BIは陰性を示します。
以上が、判定時間の短いBI(短時間判定BI)の仕組みです。
5-3. 菌の表面に存在するたんぱく質と菌の生存は必ずしも一致しないため、菌の生存を「予測」するに留まる
菌の表面に存在するたんぱく質が異常であることと、菌が死滅していることは必ずしも一致するとは限りません。
前述の通り、滅菌後にダメージを受けた芽胞菌は、変形したたんぱく質の修復に12時間以上を要します。
例えば、滅菌後にダメージを受けた指標菌の表面の酵素が変形してしまった場合、短時間判定BIの判定結果は陰性を示します。もしその菌が修復に時間を要しているだけで生存していた場合、12時間以上たった後にBIの判定結果は陽性を示してしまいます。このような判定結果を「偽陰性」と言います。
以上のように、指標菌の表面に存在するたんぱく質が異常であることと、菌が死滅していることが必ずしも一致するとは限らないため、短時間判定BIは菌の生存を「予測」するに留まります。
5-4.「予測」の信頼性は米国認証機関FDAで97%以上とされている
菌の生存を予測する判定方法は、米国の認証機関であるFDA(Food and Drug Administration)でのみ認証がとれている方法です。
FDAでは、7日間判定のBIの判定結果と比較して、予測する判定方法の信頼性は97%以上で良い*と定められています。
*Biological-Indicator-(BI)-Premarket-Notification-[510(k)]-Submissions—Guidance-for-Industry-and-FDA-Staff
つまり、100本のBIを短時間で判定したら、3本は偽陰性を示し、誤った判定をしてしまう可能性があることを十分に理解したうえで、短時間判定BIを使用する必要があります。
6. まとめ
いかがでしたでしょうか?
BIは、指標菌の死滅をもとに器材の滅菌を間接的に確認するインジケータです。指標菌には、各滅菌剤に最も耐性のある芽胞菌が採用されます。高圧蒸気滅菌、LTSF滅菌、過酸化水素ガス滅菌にはジオバチルス・ステアロサーモフィラス、EOG滅菌にはバチルス・アトロフェウスが採用されています。
BIはその形態により、懸濁液型、ストリップ型、培地一体型(SCBI)に分類されます。医療現場においては、無菌操作が不要であるSCBIが採用されることが一般的です。また、BIはその判定方法により、菌の生存を「確認」するものと「予測」するものに分類されます。
菌の生存を「確認」するBIには、7日間判定と24時間判定の2種類が存在します。7日間判定のBIは指標菌の増殖に伴って形成されるコロニーを目視で確認、24時間判定のBIは酸を検出します。
菌の生存を「予測」する短時間判定BIは、3時間判定や数十分判定のものがあります。短時間判定BIは、指標菌の表面に存在するたんぱく質を検出しますが、たんぱく質は指標菌の死滅とは必ずしも一致するとは限りません。また、短時間判定BIの信頼性は、米国認証機関FDAにより97%以上とされています。
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