再生処理の現場の方々のお困りごとに寄り添う
-中村さんのこれまでのご経歴を教えてください。
三浦工業(以下、ミウラ)に入社してから今年で4年目を迎えました。学生時代は医療とは関連のない文系の学部に所属しており、新卒で入社したメーカーで歯科医院向けに洗浄器・滅菌器や内視鏡消毒器の営業を担当していました。そこで6年半ほど経験を積んでから、ご縁があってミウラへ転職することになり、現在にいたります。
-現在の仕事内容についてお聞かせください。
現在は比較的新しい部署のメディカル機器推進課に所属しています。学会や研究会に参加したり、お客様を訪問しながら、医療現場の方がどのようなことで現在お困りなのかということを社内にフィードバックする様な、マーケティング関連の業務をおこなっています。もちろん洗浄・滅菌に関しては弊社の製品をご紹介することもありますし、施設の新入職員の方向けに、洗浄・滅菌の基本的な知識を身につけていただくための勉強会をおこなうこともあります。
-今年の「機器と感染カンファレンス」にて発表されていた「滅菌保証のための施設評価ツールに基づく洗浄・滅菌のバリデーションを実施してみて」の背景にはどのような思いがあったのでしょうか?
2022年に、日本医療機器学会による「滅菌保証のための施設評価ツール」が発表されましたが、施設によっては書かれている内容を実施することが難しい場合もあるので、メーカーの立場からどのようなサポートが可能なのか、施設の方々にご協力いただきながら検討した内容を発表しました。
施設評価ツールは、現場の方々が自ら再生処理の水準を評価するためのものとして策定されましたが、現状では、施設が評価に必要な計測機器を持っていない場合が多々あります。場合によっては数十万円の機器を用意する必要があり、評価ツールが推奨している1年に一度の測定のためにそこまでの予算を確保できない施設もあるので、メーカーとしてはそういった方々が適切な評価を実施するためのサポートをおこなっています。
-どういったタイミングでそういったサポートは提供されることが多いのでしょうか?
ミウラでは、基本的に洗浄器・滅菌器のアフターサービスとして毎年メンテナンスにうかがっており、その際には機械の中を開けて状態を確認しているので、洗浄・滅菌のバリデーションと施設評価ツールの実施をあわせて提案することが多いですね。これは他のメーカーも同様だと思いますが、施設評価ツールが発表されてからは、施設の方々からご相談をいただくことが増えてきました。
-どういった内容の相談が多いですか?
バリデーションの実施方法や、日々の運用に関する改善方法についてのご相談が多いですね。とはいえ、そういったご相談をいただく病院の方々は普段から標準よりも高い水準の取り組みを実践されています。また、一方で我々には本当に困っている施設の方々の実状がまだ見えていないところがあり、これからは施設評価ツールをきっかけに、こちらから施設の方々に対して「一緒にやりませんか?」とお声がけをしていく必要があると思っています。
お客様の課題を解決するものづくり
-現在メーカーとして課題に感じていることはありますか?
プロダクトアウト寄りの製品開発となっていると感じることが多いので、これからはよりお客様の声を反映したものづくりに取り組んでいく必要があると思います。たとえば、ミウラが販売している減圧沸騰式洗浄器は、2024年のモデルチェンジの際に洗浄力が向上しているのですが、洗浄力については前モデルからすでに評価をいただいています。もちろん、洗浄力が優れていることに越したことはないのですが、ミウラのファンをもっと増やしていくためには、現場の方々がより使いやすい、ユーザーフレンドリーな製品開発に挑戦していく必要があるのではないかと思います。
また、2023年にWFHSS(滅菌供給業務世界会議)に参加させていただいたのですが、海外のメーカーは、洗浄・滅菌の性能の高さだけではなく、省電力や節水などをアピールポイントとしている製品が多いことに驚きました。もちろん、そういったポイントは時短やコスト削減にもつながりますし、SDGsや脱炭素といった社会課題の解決にも貢献できるので、メーカーとしては今後積極的に取り入れていきたいことだと思っています。
-再生処理の業界全体について感じている課題についてはいかがでしょうか?
現行の医療制度において、滅菌供給部門は診療報酬がなく、利益を生みづらい部門のため、診療部門と比べると予算の確保が難しいというお話を聞くことがあります。ですが、滅菌供給は医療の品質保証のリスクなどを抱える非常にプレッシャーがかかる部門なので、確実な業務遂行の環境を整えるためにも、院内にもっと部門の声が届きやすくなれば良いなと考えています。
私達のようなメーカーや受託企業の立場にとって、滅菌技士(師)の資格は適切なサービス提供のひとつの目安・指標になっていると思うので、今後は滅菌技士(師)の資格が、院内に声を届けるためのツールとしてもっと活用されていくのが理想だと感じます。これからさらに実務に携われている資格認定者が増えていくと心強いですし、院内の改善の提案に説得力を持たせる有効な資格だと認められ、滅菌供給部門がもっと影響力のある存在になれば良いなと思います。
メーカーの枠を超えたワークショップへの期待
-中村さん自身は、どのような時にこの仕事のやりがいを感じていますか?
弊社はガイドラインの策定にも関わっているため、学会や研究会が実施される際に、再生処理についての正しい知識を普及するためのワークショップの企画を私が担当することもあります。ワークショップでは、現場に携わる方々とコミュニケーションを重ねながら、ガイドラインが定める水準を達成する上で、その施設にとってのベストな方法を見つけるために、メーカーとしてなにができるのかを一緒に考えるための場となっています。
今年の医療機器学会の際には、2日間で80名ほどの参加者を対象として、施設評価ツールの内容に関するワークショップを実施したのですが、これまで実施方法がわからなかったという参加者の方々から感謝の声をいただき、やってよかったなと感じました。そういった場面ではこの仕事のやりがいを感じますね。
今回のワークショップは、他社メーカー等たくさんの方にもご協力いただき、みなさんのお力添えのおかげで盛況のうちに実施することができました。他社メーカーの営業や学術担当の方にもご協力いただけたことで、この業界をより良くするためにどうすればいいのか、お互いフラットにコミュニケーションできる場になったのではないかと思います。ご協力いただいたみなさんは、私よりも遥かに経験豊富な先輩方なので、こちらがわからないことを親切に教えていただき、ガイドラインの内容を現場の方々に伝えていくための課題意識を共有することができました。
再生処理の業界は私よりも上の世代の方が圧倒的に多く、まだガイドラインすらなかった時代から再生処理の水準を高めるために尽力されてきた先輩方がいたからこそ今があると思います。今後私たちの世代が担うべき役割は、現場の方々の声に耳を傾けながら、ガイドラインの内容を伝えていくと同時に、現場の実状を今後のガイドラインに反映していくためにどうすればいいのかを考えていくことだと思っています。
-最後に、中村さんが今後取り組んでいきたいことをお聞かせください。
私自身勉強中の身ですし、決して偉そうなこと言える立場ではないのですが、再生処理の現場で困っている方々からの相談には、できる限りお答えしていきたいと考えています。
まだまだ現場のみなさんがどのようなことに困っているのか十分に把握できているわけではないので、再生処理の業界をより良くしていくために、意見交換の機会を増やしていきたいですね。弊社のお客様に限らず、さまざまな現場の方からの相談を受けたいと思っているので、学会や研究会でブース出展している際でも構いませんのでぜひお気軽にお声がけいただけたらと思います。
※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。