JOURNAL

再生処理の現場

再生処理の現場 vol.10  代官山アイクリニック 岡本亜美さん 『自由診療のクリニックで、医療の根底にある再生処理と向き合う』

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

再生処理の現場に立つ、さまざまな方の声を届ける「再生処理の現場」。vol.10の今回は、代官山アイクリニックの手術室室長を務める、岡本亜美さんにお話を伺いました。関西出身の岡本さんは、大阪の病院にてオペ室の看護師として再生処理に出会い、その後東京に渡ってからも洗浄・滅菌の実務に携わり続けています。現在勤務されている代官山アイクリニックでは、自由診療に必要な設備環境の提案を含め、同クリニックの院長とともに立ち上げにも携われました。本取材では、岡本さんの看護師としてのこれまでのキャリアと、ご自身の経験から考える、再生処理への向き合い方についてお話しいただきました。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

ICU勤務からオペ室の看護師に

-岡本さんが看護師を目指したきっかけを教えてください。

幼稚園の頃から、「将来は看護師になるもんや」と、なにも考えずに決まっていたような感覚でしたね。親が病気持ちだったので、週3回は透析のために病院に通い続けていたんです。実家はベビー服をつくる小さな会社をやっていたんですが、繁忙期はかなり忙しくて、父が腎臓を患ってしまったんですね。家と病院を往復するのが当たり前の日々だったので、自然と看護師になろうと思ったのかもしれないですね。

代官山アイクリニック

-高校を出てすぐに専門学校に通われたのでしょうか?

そうですね。通っていたのが助産学校で、卒業後は助産師になりたいと思っていたんですけど、そのためには通常3年で卒業のところ、もう1年学校に通う必要があって。なかなか実習が大変だったので、もう早く働きたいなと、卒業後すぐに500床程度の規模の大阪の総合病院で働きはじめました。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-最初はどのようなお仕事を担当されていたんですか?

最初はICUでの勤務でした。1年半ほど続けていたんですが、「私ってこういう仕事をするために看護師になったんだっけ?」と考えるようになったんですね。ICUは、人工呼吸器につながれているような重症の患者さんばかりなので、会話をすることもなくて。一度環境を変えたいなと、師長さんに相談したところ、人手が足りていなかったオペ室に異動にすることになりました。

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-再生処理について知ったのはその頃でしょうか?

そうですね。その病院では、中央材料室の業務を外部委託していたんですが、スタッフさんと仲良くなったのがきっかけで、再生処理について知るようになりました。ICUにいた頃は、滅菌の「め」の字も知らない状態だったので、中央材料室で洗いものをしているのを横目で見ながら、「なにしてんやろな」ぐらいしか思っていなかったんです。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-普段の業務から見える位置に中央材料室があったんですか?

そうそう、すぐ横にあったんです。最近はオペ室の地下に中央材料室を配置して、縦のラインでつなぐ病院が多いですが、目に入る場所に中央材料室があったので、結果的に再生処理について知ることができたのはよかったですね。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-再生処理について知った時、最初はどのように感じましたか?

「この仕事、資格持ってなくてもやれるんや」っていうのが最初の認識でしたね。だって、かなり大変な仕事じゃないですか?勉強しなくちゃいけないことばかりなのに、必須の資格がないんだっていう驚きはありましたね。

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-そこでは、看護師のみなさんも再生処理の一部に携わっていたのでしょうか?

そうですね。外部のスタッフは日勤帯だけの勤務だったので、夜勤の際には、手術が終わったあと自分たちで洗浄して、滅菌器にかけないといけなかった。日によってひとりでその業務をやらなくてはならない時もあるので、きちんと勉強する必要がありました。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-どのように勉強されたのでしょうか?

当時仲良くなった中材のスタッフの方から、「こういうのがあるんやけど、行かへん?」って誘われて、学会に行くようになりました。ちょうど、専門学校時代に感染管理について教えていた先生が登壇されていたので、じゃあ行ってみようかなと。ほかにも、大阪で滅菌の勉強会があったので、そういった場に参加することもありましたね。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

再生処理の全スタッフが退職。中央材料室の立て直しに奔走

-その後、東京に移って転職されたとのことですが、そこでのお仕事はいかがでしたか?

同じく手術室に勤務することになり、滅菌室はベテランの方々が担当していたので、当初は再生処理に関わることはほぼなかったですね。ただ、ある日ベテランのスタッフのみなさんが退職してしまう事件があったんです。定年退職される方がひとりいて、それに続いて他の方も辞めてしまったんですね。それまで再生処理の外部委託をしていなかった病院なので、病棟や外来で使用する医療器材の洗浄・滅菌を担当できる人が誰もいなくなってしまったんです。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

そんな中、ある日師長さんに再生処理のやり方を知っているかどうか聞かれたんですよ。分かる分からへんかと言えば、まあ分かるけど……といった感じでお答えしたんですけど、まあ仕方なく、やりますよと(笑)。で、その仕事を受けるにはもう1回勉強し直さないといけないと思い、第二種滅菌技士の資格を取ったんです。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-転職されてからどのくらいの時期にその事件があったんですか?

2年も経ってなかったと思いますね。もう、えー!ってびっくりでしたよ。本当にやばいと思った(笑)。いくらなんでも私一人ですべての業務はできないので、私自身もオペ室と兼務しながら、院内のスタッフ2名に担当してもらうことになりました。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-まずはどのようなことから取り組んでいったんですか?

それまで病棟や課ごとに備品や器材を買っていたので、院内の器材に統一感がなかったんですね。ピンセットやペアンの長さも病棟によってばらばらの状態で。通常は、中央材料室から払い出されるものは、修理やメンテナンスも含めて中央管理されるものなんですが、同じペアンでもどの病棟に返せばいいかわからない状況だった。

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-それだと、それぞれの行き先をすべて看護師さんが覚える必要がありますね。

そうそう。これは困るなと思って、まずは器材の統一からはじめました。どういう器材が必要なのかを各病棟から洗い出してもらい、1個ずつ写真を撮って、院内にある器材のセットを冊子にまとめたんです。それを、新しく来たスタッフに覚えてもらいました。さらに、統一のために新しく器材を買ったり、師長会ではたらきかけてもらったりして、徐々に進めていきましたが、すべて変えるのには何年もかかりました。マニュアルも1から私がつくっていき、オペ室との兼務が2年ほど続いたので、かなり大変でしたね。その後、滅菌技士の方を雇うことができて、ようやく肩の荷が降りた感じでした。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-医師の方とはどのようにコミュニケーションをとっていましたか?

後輩のスタッフが医師から無理難題を言われた時に、私が代わりに「そんなの無理やろ」と医師に言いにいっていましたね。私、たぶん怖かったと思うので、医師の人からも挨拶されてました(笑)。再生処理の知識がない医師からの無理な要望を阻止できるかどうかは、実際に洗浄・滅菌を担当する看護師に知識があるかどうかにかかっていると思います。

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自由診療の医師が再生処理の必要性を理解すること

-その後、代官山アイクリニックに転職されたきっかけはなんでしたか?

院長がもともと同じ病院で働いていて、ここを立ち上げる際に、再生処理ができる看護師として引き抜かれたんです。その際、開業にあたって最低限必要な機材や設備を伝えて、それが揃うのであればやってもいいよって伝えたんですよ。逆に、設備環境が揃わないんだったら、やったらあかんって。そうしたら「用意するよ」とのことだったので、じゃあ一緒に立ち上げようかと。結果、この規模のクリニックだとなかなか入れられないような機械も揃っているので、そこはうちの強みだと思いますね。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-自由診療だからこそ、安全を担保する必要がありますね。

やっぱりそこがなにより大事。ここではICLの自由診療しかやっていないので、なにかトラブルが起きたり、それこそ感染が起こったりしたら事業として命取りなので、立ち上げの時点から考える必要がありました。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

ー医師の方が、その認識を持った上で設備投資をする必要がありますね。

そうですね。基本的に医師は、オペ室で「これちょうだい」と言えば勝手に器材が出てくるような立場やん?その器材がどのように洗われて、滅菌されているのかなんて、考える必要もない。ここの院長先生の場合、たぶん以前から再生処理の仕事を見ていたのかもしれないですね。ここまで理解力のある人はかなり珍しいと思います。

なにかトラブルがあった際も、すぐにバリデーションを取りたいと言えば「いいよ」と言ってもらえるので、その辺もすごくありがたいです。予算や金額を考えなくてもいいですし、滅菌がうまくいかなかったらすべてがだめになることを理解してくれています。

代官山アイクリニック

-同じように自由診療をされているクリニックの方と、再生処理についてお話しされることはありますか?

いや、なかなかないですね。学会に来ているのは大きい病院の看護師や、歯科医院に勤めている方が多いと思うので、多分そういった場があること自体知らない方がほとんどなんじゃないかなと。私も、ICUにいる頃はなにも知らなかったですし、手術室の仕事に携わらない限り、わからなかったこともたくさんあったと思います。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

しっかり再生処理に取り組んでいるクリニックがまだ多くないと思いますし、再生処理の実施状況に関わらず患者さんは来るから、焦りもないんじゃないかなと。患者さんは先生の腕でクリニックを選んでいると思うので。でも、患者さんはそういった状況をまったく知らないわけでしょう?自由診療は莫大なお金を払うわけなので、きちんと再生処理の環境を整えるのは基本の「き」であって、あたりまえことやと考えています。患者さん自身も、その手術で使われているメスが本当に大丈夫なのか、考えてみてほしいですね。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

再生処理があってはじめて「医療」になる

-この仕事を通してやりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?

やりがいは、やっぱり安全な器材を患者さんに提供できることかな。それがあってようやく「医療」になると思うんですよ。医者の腕と、滅菌された器材と、手術室の看護師と、患者さん自身の存在がいて、そのどれかひとつでも欠けたらあかんくて、すべてが円になっていることが一番大事なので。

代官山アイクリニック 岡本亜美さん

-最後に、同じように再生処理の現場に立つ方へメッセージをお願いします。

私が看護師だからかもしれへんけど、患者さんがなにより大事だと思うんです。だからこそ、再生処理は普通のことであり、やってしかるべきやと思う。自分たちの仕事は評価されてないとか、卑下するんじゃなくて、資格を持っていない方だったとしても、わたしたちの仕事は患者さんのためになっているから、しっかりやらなアカンと思ってほしい。滅菌物が原因で患者さんが感染したとしたら、病院全体が大変なことになるし、いくら資格がなかったとしても、それに携わったみんなの責任になる。すべて回り回って自分のもとに返ってくるので、医療の根底にあるのが再生処理だということを、常に思っていてほしいですね。