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再生処理の知識

【眼科診療における滅菌】ハンドピース内部までの滅菌を確認する方法は?プリオン対策まで解説します。

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眼科手術に不可欠な「ハンドピース」。

 

ハンドピースは、鉗子やピンセットなどと違い、複雑な内腔構造があるため、滅菌が難しいことをご存じですか?

器材の不十分な再生処理は、交差感染に繋がる可能性があります。

 

ハンドピース内部まで滅菌されているかをどのように確認するか?

プリオン対策はどのように行えばよいか?

 

この記事を読めば、眼科診療に必要な内腔器材の滅菌保証の基本を押さえることができます。

目次

1. ハンドピース内部の滅菌は難しい

1-1. ハンドピースは内腔構造を有する器材

眼科診療においては様々な器材が使用されますが、その中でもフェイコ・ハンドピースは滅菌が困難です。ハンドピースは、吸引や灌流液を供給する管が存在し、いわゆる「内腔構造」を有する器材として分類されます。

1-2. 内腔器材は蒸気が浸透しづらく滅菌が難しい

眼科で多用されるオートクレーブ(高圧蒸気滅菌)では、高温の蒸気が器材に暴露し、凝縮を生じ高温の水となって器材を滅菌します。高圧蒸気滅菌では、滅菌器内の器材のあらゆる表面に飽和蒸気が達することが必要不可欠です。

滅菌器内に空気が残存していると、飽和水蒸気が到達せず、空気が残存した部分は乾熱状態となり、温度が上がっても滅菌不良の原因となることがあります。特に、ハンドピースなどの内腔構造を有する医療器材は、器材内部に含まれる空気を除去しにくいため蒸気が浸透しづらいと言われています。

内腔器材への蒸気浸透の仕組み

1-3. 器材の不十分な再生処理は交差感染に繋がる

眼科治療で使用する器材の再生処理は、患者の安全に関わる極めてクリティカルな業務です。使用されるすべての器材は、次の患者にも安全に使用できるように、確実に再生処理される必要があります。

 

2. 眼科手術におけるプリオン感染のハイリスク手技

2-1. プリオン病は神経機能を障害する致死性の疾患

プリオン病は、正常なプリオン蛋白が感染性を有する異常プリオン蛋白に変化し、主に中枢神経系に蓄積して神経機能を障害する致死性の疾患です。現時点では、根本的な治療法は見つかっていません。

2-2. 網膜硝子体手術や眼窩手術などがハイリスク手術に該当

プリオン病感染予防ガイドライン(2020 年版)(以下ガイドライン)においても、眼科手術機器を介した二次感染の可能性を否定することはできないと記載されています。

具体的な二次感染のハイリスク手技については、ガイドライン(p18)に以下のように記載されています。網膜硝子体手術や眼窩手術などが該当します。

診療科 手技
脳神経外科 ・硬膜切開あるいは穿刺を行う手術
・下垂体あるいは松果体に触れる手技を含む手術
・脳神経節および周囲の組織に触れる手技を含む手術
・髄液が漏出する手技を行う手術
・脳生検術を受ける患者
整形外科 ・硬膜切開あるいは穿刺を行う手術
・脊髄後根神経節および周囲の組織に触れる手技を含む手術
・髄液が漏出する手技を行う手術
眼科 ・視神経あるいは網膜に触れる手技を含む手術
・眼球または眼窩内容に触れる手技を含む手術
・眼球摘出術や義眼台充填術
・角膜移植術
耳鼻科 ・嗅神経周辺の粘膜に及ぶ手術 

2-3. 病原微生物に用いられる一般的な滅菌・消毒法ではプリオンを不活化できない

プリオンはその構造も伝達(感染)方法も、通常の病原微生物とは異なります。そして、その不活性化はとても困難です。ウイルスや細菌などの病原微生物とは異なった滅菌・消毒法で、不活性化させる必要があります。

(ガイドライン p9)
プリオン病の病原因子であるプリオンは、CQ1-2の回答に示されているように、通常のウイルスや細菌などの病原体とは異なる、蛋白性の感染粒子である。したがって、通常のウイルスや細菌などの病原微生物に用いられる一般的な滅菌・消毒法で不活性化させる事ができない

2-4. ハイリスク手技に使用した器材はプリオンサイクルで滅菌する

プリオンハイリスク手技に該当する再生処理の方法は、大きく3パターンあります。

ハイリスク手技に使用した器材の分類

眼科クリニックで使用されるクラスBオートクレーブには、プリオンサイクル(134℃ 18分)が設定されていることが一般的です。ハイリスク手技に使用した器材は、このプリオンサイクルで滅菌する必要があります。

2-5. プリオンサイクルに対応した専用のインジケータがある

プリオンサイクルは、細菌やウイルスといった病原微生物を想定した一般的な滅菌より、時間が長く設定されています。

プリオンサイクルの滅菌確認は、専用のインジケータを使用して滅菌条件の達成を確認する必要があります。一般的な滅菌向けのインジケータを使用すると、実際には十分滅菌されていないのに、合格してしまう可能性があります。

 

プリオン病について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

プリオン病とは?ガイドラインを基にハイリスク器材の適切な再生処理(洗浄・滅菌)について解説します。

 

3. ハンドピース内部までの滅菌を確認する方法

3-1. 化学的インジケータで滅菌条件の達成を確認する

オートクレーブで滅菌した器材が本当に滅菌できたか確認する方法の一つとして、化学的インジケータ(CI)があります。化学的インジケータは、滅菌に必要な条件(134℃の飽和蒸気が3分間暴露するなど)が達成されると、変色する仕組みになっています。

type5ciの変色見本

化学的インジケータには、様々な規格と種類があり、用途に合わせて適したインジケータを使用します。一般的にもっともよく見られるのは、器材を包装する滅菌バッグの中に一緒に挿入して使用する包装内部用インジケータです。

3-2. インジケータは「置かれた場所」の情報しか得ることができない

インジケータの使用にあたって、注意しなければならないことがあります。それは、どんなインジケータであれ、「それが置かれた場所」の情報しか得られないということです。

例えば、ハンドピースと一緒に滅菌バッグに入れたインジケータが、滅菌工程終了後に変色した場合、これは「ハンドピースの『横』が滅菌に必要な条件に達していた」ことを示しています。つまり、ハンドピースの横(外表)よりも滅菌しづらい内部の滅菌保証はできていません。

3-3. インジケータをハンドピース内部に挿入することはできない

ハンドピース内部までの滅菌を確認するためには、インジケータをハンドピースの中に挿入し、その結果を確認する必要があります。しかし、ハンドピースの内腔内径は非常に小さく、インジケータを入れることは物理的に不可能です。

3-4. 専用デバイス「PCD」でハンドピース内部の滅菌しづらさを再現する

では、どのようにしてハンドピース内部の滅菌条件の達成を確認するのでしょうか?そこで、PCD(Process Challenge Device)という専用のデバイスを使用します。

PCDは、意図的に蒸気浸透性を悪くする抵抗性を持ったデバイスです。ハンドピース内部よりも滅菌抵抗性が高い(滅菌しづらい)環境を再現し、その中にインジケータを挿入して器材と一緒に滅菌します。PCD内に挿入されたインジケータが合格していれば、ハンドピース内部も滅菌できていると推定することで、内部の滅菌条件の達成を確認します。

PCDとは(眼科)

PCDについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

PCD(プロセスチャレンジデバイス)とは?PCDの基本やその必要性、適切なPCDの選択について解説します。

 

4. SALWAY 眼科用コンパクトPCD

4-1. 眼科用に開発された唯一のPCD

SALWAY 眼科用コンパクトPCDは、フェイコ・ハンドピースなどの内腔器材の滅菌工程を想定して開発された唯一の眼科器材用PCDです。8,000回以上再使用可能なPCD本体に、化学的インジケータ(CI)を挿入して、器材と一緒に滅菌しインジケータの結果を確認します。

インジケータのSV値は、134℃ 3分/121℃ 15分です。

4-2. ハンドピースよりも滅菌抵抗性が高いことが検証されている(DIN58921)

コンパクトPCDの内部は、蒸気が浸透しづらいようにするために、特殊な内腔構造になっています。この構造が、ハンドピース内部よりも滅菌しづらい(蒸気が浸透しづらい)環境を創り出しています。

ドイツ工業規格DIN58921に基づく試験により、その性能が検証されています。DIN58921は、医療機器の滅菌抵抗性を測る方法の規格です。

DIN 58921
Test Method To Demonstrate The Suitability Of A Medical Device Simulator During Steam Sterilisation – Medical Device Simulator Testing

眼科用コンパクトPCDの内部構造

4-3. 眼科用コンパクトPCDは歯科用よりも滅菌抵抗性が高い

SALWAYでは、滅菌する器材や滅菌器の性能に合わせた様々なコンパクトPCDを提供しています。眼科用コンパクトPCDは、歯科用のものよりも滅菌抵抗性が高く(滅菌しづらく)設計されています。これは、眼科で使用されるハンドピースが、歯科で使用されるものよりも滅菌が難しい構造になっているためです。

コンパクトPCDの滅菌抵抗性の比較

4-4. 器材内部の滅菌不良の可能性を見抜く

コンパクトPCDを使用する意味は、ハンドピースなどの内腔器材の内部まで滅菌できているかを確かめることです。

滅菌バッグに挿入した(ハンドピースの横に置いた)インジケータは合格したものの、コンパクトPCD内のインジケータは不合格を示すことがあります(右下の赤枠内)。これは、器材の表面は滅菌条件を達成できているが、器材内部は滅菌不良の可能性があることを示しています。オートクレーブの性能が低下している時などに、このような変色不良が発生します。

より滅菌が難しい器材内部までの滅菌条件の達成を確認するためには、毎回PCDを使用し、その結果を確認することが重要です。

type5 vs PCD(眼科用コンパクトPCD)

4-5. 不合格の場合は、滅菌器に不具合が発生している可能性がある

コンパクトPCDが不合格の場合は、滅菌器に以下のような不具合が発生している可能性があります。

・滅菌器のドアパッキンの亀裂
・真空ポンプの性能低下
・電磁弁の劣化 など

このような不具合が発生している状態では、内腔器材の内部で滅菌不良を起こしている可能性があるため、滅菌器の点検や修理が必要です。滅菌器の不具合をいち早く検知するという意味においても、PCDを使用することは有用です。

4-6. プリオンサイクル用のインジケータ

SALWAYでは、プリオンサイクル(滅菌条件 134℃ 18分)に対応した、専用のインジケータ(SV値 134℃ 18分)もご用意しています。プリオン蛋白の不活化には、134℃18分の滅菌条件の達成が必要であり、それをモニタリングするには専用のインジケータを使用する必要があります。

prion-cycle-indicator

 

5. まとめ

眼科診療で使用されるハンドピースは、内腔構造を有する器材であり、滅菌が困難です。滅菌条件を確認するためには、化学的インジケータ(CI)などを使用しますが、インジケータは置かれた場所の情報しか得ることができず、ハンドピース内部に挿入することはできません。ハンドピース内部の滅菌条件の達成を確認するためには、ハンドピース内部の滅菌抵抗性を再現したPCD(process challenge device)を使用する必要があります。

網膜硝子体手術や眼窩手術などは、プリオン病二次感染のハイリスク手技とされています。プリオン蛋白は、通常の病原微生物とは異なり不活性化が困難であるため、ハイリスク手技に使用された器材はプリオンサイクルで滅菌する必要があります。プリオンサイクルは通常の滅菌工程とは異なるため、専用のインジケータ(SV値:134℃ 18分)を使用してモニタリングする必要があります。

 

いかがでしたでしょうか?

眼科用コンパクトPCDに関するお問合せや各種ご依頼(お見積り/サンプルなど)は、営業担当またはSALWAYのWebサイトのお問合せフォームよりご連絡下さい。

SALWAY 眼科用コンパクトPCD

 

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