目次
1. 歯科領域における再生処理の課題
1-1. 歯科においても、不潔な器材の使用は大規模な交差感染を引き起こす可能性がある
ハンドピースなどの複雑な構造を持つ器材の内部は、洗浄や滅菌がしづらいとされています。器材の不十分な再生処理により、オーストラリアのシドニーで歯科受診をした最大1万1000人がHIVや肝炎ウイルスに接触した恐れがあったという報告がありました。このように、器材を不潔なまま使用してしまうことにより、大規模な交差感染を引き起こす可能性があります。
1-2. 使用済みハンドピースを適切に滅菌処理している施設は未だに少ない
日本国内の再生処理の状況は、2019年に朝日新聞から報道されています。その内容は、患者ごとに器材を交換している施設が52%しかないという内容でした。その他の内訳を見てみると、感染症とわかった場合に交換・滅菌を行う17%、状況に応じ交換・滅菌を行う16%、消毒薬で拭き取る14%と、歯科領域ではまだまだ感染対策が進んでいるとは言えない状況です。
1-3. ガイドラインではWD・超音波洗浄器・クラスBオートクレーブの使用が推奨されている
一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版)では、洗浄にはウォッシャーディスインフェクター(以下WD)が、ハンドピースの滅菌にはクラスB滅菌器の使用が推奨されています。このような背景より、近年、WDやクラスB滅菌器を導入する施設が増えてきています。
1-4. 洗浄器や滅菌器を「使う」だけでなく、その効果を「確認」することが重要
WDやクラスB滅菌器を導入する施設が増えていることは非常に良いことですが、導入するだけで止まってしまっている施設は少なくありません。WDやクラスB滅菌器を導入するだけでなく、その効果を「確認する」ことで初めて、器材の滅菌(SAL≦ 10-6の達成)を保証できます。
次項では、SAL≦10-6の達成に必要なことを確認していきます。
2. SAL≦10⁻⁶の達成には、滅菌だけでなく洗浄も重要
2-1. 再生処理の目指すところはSAL≦ 10⁻⁶の達成を保証すること
再生処理の目指すところは、微生物の存在確率を百万分の一(10-6)以下であることを保証することです。これは無菌性保証水準と呼ばれ、Sterility Assurance Level (SAL)≦10-6 と表現されます。
2-2. 再生処理を正しく行うためには、プロセスの一つ一つを確認する必要がある
再生処理プロセスは滅菌だけではなく、洗浄→組立→包装→滅菌→供給→使用→回収→洗浄…と循環します。したがって、滅菌工程だけでなく、プロセス全体を確認する必要があります。また再生処理プロセスのうち、菌を減らす工程は滅菌だけでなく、「洗浄」もその1つです。「洗浄無くして滅菌なし」という言葉も存在します。
2-3. 滅菌時間は菌数の推移に基づいて設計されている
ISO/TS 17665-2では、各滅菌温度に対する保持時間の記載があります(表9-3)。例えば、121℃の蒸気が15分間暴露すれば、105(10万)個の菌を滅菌(SAL ≦10-6)できることを示しています。
2-4. 適切な洗浄により初発菌数を減らすことでSAL≦10⁻⁶が達成できる
滅菌工程に入る前に適切な洗浄を行えば、初発菌数が105個を下回り、滅菌工程時にSAL≦10-6を余裕持って達成することができます(青線)。しかし、滅菌工程に入る前に洗浄が不十分であると、初発菌数が105個以上となってしまい、121℃15分の滅菌工程では滅菌不良が起こる可能性が残ってしまいます(赤線)。だからこそ、滅菌工程のみでなく、洗浄工程も適切に行われたかを確認する必要があるわけです。
次項より、日常的な洗浄工程の確認方法を解説していきます。
3. 日常的な洗浄工程の確認の重要性と方法
3-1. 「洗浄器に入れれば安心」というわけではない
WDのような機械を使用していれば、毎回確実に洗浄できるのでしょうか。答えはNoです。それは、機械では検知できないエラーが存在するからです。
3-2. 洗浄器は洗剤が入っていなくても、検知しないことがある
下記に洗浄工程インジケータという、疑似汚染物を塗布したものを使用して洗浄効果を検証した事例を紹介します。
ある施設で、紫色の洗浄工程インジケータの汚れが落ちるプログラムを使用し、洗浄工程を確認していました。すると、X月15日に突然、機械はエラーを示しませんでしたが、インジケータの色落ちが悪くなるという現象が起こりました。
そこで機械の点検を依頼したところ、その原因は「洗剤供給チューブの詰まり」であることが判明しました。すなわち、インジケータを使用していなければ、洗剤が入っていなかったことに気づけなかったことになります。これは、機械では見逃してしまうエラーが存在することを示します。日常的にインジケータを用いて洗浄工程を確認しなければ、洗浄不良を見逃す可能性があります。
3-3. 日常的に確認する方法のうち、間接判定法(インジケータ)が始めやすい
日常的に洗浄工程を確認する方法は、大きく「直接判定法」と「間接判定法」の2種類があります。
直接判定法は、器材に付着している残留蛋白質量を評価する方法を指します。直接判定法は器材の汚れが落ちていることを直接確認できますが、①蛋白質の抽出に時間を要することや、②判定に使用した器材の再洗浄が必要なこと、③比較的コストがかかることなどが、日常的に洗浄工程を確認するための障壁となります。
一方の間接判定法は、疑似汚染物を使用し、その汚れが落ちることを確認して器材の洗浄プログラムが達成していることを確認するインジケータです。間接判定法は、即時判定ができることや、比較的安価である点を考慮すると、日常的に洗浄工程を確認する方法として望ましいといえます。しかし、間接判定法は導入しやすい反面、その選択方法を間違えてしまうと機械のエラーを見逃してしまう可能性があるので注意が必要です。
次項より、WDと超音波洗浄器の間接判定法に使用するインジケータの選び方を解説していきます。
4. WDに使用するインジケータの選び方
4-1. インジケータの目的は、WDが見逃してしまうエラーを検知すること
WDの洗浄力に関連する要素は、水流・温度・時間・洗剤の4つです。4つの要素に関連するエラーの中には、WDでは検知できないエラーも存在します。そういったエラーを検知するのが、洗浄工程インジケータ(cleaning process indicator:CPI)を使用する目的です。
4-2. WDの洗浄力に最も近い抵抗性のインジケータを「選択」する
4-1.で解説した、WDが検知できないエラーを見逃さないためには、自施設で使用しているWDの洗浄力に最も近いインジケータを選ぶ必要があります。もし、WD①が黄色の抵抗性のインジケータを使用した場合、大幅に洗浄力が低下しなければ(黄色矢印)不具合を検知することができません。しかし、WD①に赤色の抵抗性のインジケータを使用すれば、わずかな不具合(赤矢印)を検知することができるようになります。
施設によって使用している洗浄器や洗剤などの組み合わせは異なるため、それぞれの施設にあったインジケータを選択する必要があります。そこでSALWAYの洗浄工程インジケータは、5種類の抵抗性のインジケータを提供しています。洗浄工程インジケータについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【選定試験】洗浄工程インジケータの特長や選び方、使い方をご紹介します。
4-3. 同じWDでも、洗剤やプログラムによって最適なインジケータは異なる
ここで、異なる洗剤を使用した場合の洗浄工程インジケータの色落ちの結果をご紹介します。
弱アルカリ酵素洗剤、アルカリ洗剤の2種類を使用し、洗剤以外の条件は変えずに比較しました。結果、弱アルカリ酵素洗剤は黄のみ、アルカリ洗剤は黄、緑、青、紫まで色落ちしました。つまり、洗剤が異なれば最適なインジケータも異なる場合があるということです。
5. 超音波洗浄器に使用するインジケータの選び方
5-1. 超音波洗浄器の洗浄力は、超音波・洗剤・温度・時間の4つで構成される
超音波洗浄器の洗浄力に関連する要素は、超音波・洗剤・温度・時間の4つです。これらの要素が欠けていないことを、日常的に確認する必要があります。
5-2. 既存の超音波洗浄評価の課題は、超音波と時間以外の要素を確認できないこと
4つの要素の1つである超音波を評価する方法として、アルミ箔を使用した方法や、瓶の中にビーズが入ったインジケータを使用する方法があります。これらは超音波の当たった時間やキャビテーションエネルギーによって結果が変わるため、簡便な評価方法として推奨されています。しかし、これらの評価方法は前述した洗浄力の4つの要素のうち、2つにしか反応しないということが課題として挙げられます。
SALWAYの超音波洗浄工程インジケータは、既存の方法では確認できなかった洗剤などの条件にも反応するインジケータです。超音波洗浄工程インジケータについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【選定試験】超音波洗浄工程インジケータの選び方をご紹介します。
5-3. 超音波洗浄器の洗浄力に最も近い抵抗性のインジケータを「選択」する
超音波洗浄においても、洗浄器の本来の洗浄力に近い抵抗性を持つインジケータを「選択」する必要があります。その結果、僅かな不具合も見逃さず、適切な洗浄評価を行うことができるようになります。
5-4. 不具合の原因を特定しやすいインジケータが望ましい
ここで、超音波や洗剤の要素が欠けた時に、インジケータが不合格を示すかを検証した結果を共有します。
超音波あり/洗剤ありの合格試験(①)では、黄、緑、青まで完全に色落ちし、赤が50%程度色落ちをする結果となりました。超音波なし/洗剤ありの不合格試験(②)では、黄、緑が完全に色落ち、青が50%程度の色落ち、赤は全く落ちないという結果になりました。超音波あり/洗剤なしの不合格試験(③)では、黄が50%程度色落ち、緑、青、赤は全く落ちない結果を示しました。
青と赤が合格試験と不合格試験の結果に差異が出たため、洗浄工程インジケータとして適していると言えます。そのうち、青のみが不合格試験の内容によって汚れのおちかたに差が出たため、洗浄後の色の落ち方によって不具合内容が予測できると期待できます。
したがってこちらの検証結果では、青のインジケータが日常のモニタリングとして最適であると言えます。
6.日常的な滅菌工程の確認方法
続いて、ハンドピースの滅菌確認方法について解説します。
6-1. 構造上、ハンドピースの中にインジケータを入れることはできない
器材の滅菌確認をするために、CIやBIを使用している施設がほとんどだと思いますが、CIやBIなどのインジケータは置かれた場所が滅菌条件に達しているかの情報しか与えません。ハンドピースのような内腔のある器材は、当然外側よりも内側のほうが滅菌しづらいため、インジケータを内部に設置しなければなりません。しかし、ハンドピースの内腔はとても細く複雑な構造であるため、インジケータを内部に設置することはできません。
6-2. ハンドピース用に設計されたPCDを使用して、器材内部の滅菌条件の達成を確認する
ハンドピース用に設計されたSALWAYの歯科用コンパクトPCDを使用することで、器材内部の滅菌条件の達成を確認することができます。コンパクトPCDは、ハンドピースの内腔構造を模したチューブの一番奥にCIを設置できる設計であり、歯科用のハンドピースの内部よりも滅菌がしづらい環境です。そのため、コンパクトPCDのインジケータが合格であれば、ハンドピース内部も滅菌条件が達成されていると推定することができます。
7. 結びに
いかがでしたでしょうか。
安全な器材を提供するためには、洗浄器や滅菌器を「使用」するだけでなく、その効果を「確認」することが必要です。この記事を読んで洗浄や滅菌の確認方法に不安を感じた方は、まずはSALWAYの再生処理アドバイザーへご相談ください。それが、確実な滅菌保証への第一歩となります。
SALWAY 洗浄工程インジケータ/超音波洗浄工程インジケータ