JOURNAL

再生処理の現場

再生処理の現場 vol.15 鴻池メディカル 金井大樹さん 『「SAL≦10⁻⁶」達成のためのアプローチを見つけるサポートをしていきたい』

鴻池メディカル 金井大樹さん

再生処理の現場に立つ、さまざまな方の声を届ける「再生処理の現場」。vol.15の今回は、鴻池メディカル株式会社の金井大樹さんにお話を伺いました。同社の取り組みについては、本シリーズのvol.11(後編)でもお話を伺いましたが、本取材では、全国の病院・クリニックから再生処理業務を受託する同社の病院事業の活動に加え、金井さんが現在担当されている物流事業についても詳しくお聞きしながら、両事業を経験されているからこそ感じる再生処理業界の課題についてお話しいただきました。

鴻池メディカル 金井大樹さん

再生処理は「ものづくり」であり、サービス業、研究職でもある

-金井さんが再生処理の業界に入るきっかけはなんでしたか?

もともとは別の会社で施工管理の仕事をしていたのですが、鴻池メディカルの前身となる企業から、CTやMRIを病院内に設置する新規ビジネスに誘われたことをきっかけに当社に転職することになりました。結果的にビジネスの話自体は実現しなかったのですが、入社後に業務課へ配属となり、しばらくは病院内の中央材料室や内視鏡室、オペ室、検査課など、さまざまな仕事を経験しました。

鴻池メディカル

鴻池メディカル

-再生処理の仕事について知ったのは、実際に現場に就いてからでしたか?

実は以前、私の父が同じ業界で働いていたんですよ。とはいえ、当時は父がどんな仕事をしているかまったく知らなくて、医師でも看護師でもなく、病院の職員でもないのに、医療に関わる仕事ってなんだろうと思っていました。再生処理の仕事について具体的に知ったのは、実際に入社してからでしたね。

鴻池メディカル 金井大樹さん

-実際に再生処理の業務に携わるようになり、この仕事についてどのような印象を持ちましたか?

ひたすら細かい作業を繰り返す仕事なので、どこか「ものづくり」に近い感覚だなというのが第一印象でした。しばらく経験を積んでからは、病院の方とコミュニケーションをとりながら仕事を進めていくため、サービス業のような面もありますし、無菌性保証水準である「SAL≦10⁻⁶」を達成するために、どのようなプロセスが適切なのかを考えていく点では、研究職のようだなとも感じます。

鴻池メディカル

「期待を超えなければ、仕事ではない」

-今回、鴻池メディカルさんの東京物流営業所にてお話をお聞きしていますが、ここではどのような業務がおこなわれているのでしょうか?

現在私は物流事業部の事業部長として、メーカーやディーラーを対象にしたビジネスを担当しています。大小合わせて70社ほどのクライアントとやりとりをさせていただいており、この倉庫内には各クライアントの医療器材が一時保管されているため、オーダーが入り次第、各地に発送するのが主な業務です。

鴻池メディカル 金井大樹さん

さらに、病院から回収した器材に関しては、メーカーの代わりにこの場所でメンテナンスをさせていただいています。各メーカーが定める品質水準を満たすために、専門のトレーニングを受けたスタッフがメンテナンスを担当し、外観検査はもちろん、可動性のチェックや、専用のデバイスを使用したトルク値の確認など、医療器材ごとに異なる検査方法を実施しています。ものすごい速さで正確に器材を分解・組立ができるスタッフもいますね。

鴻池メディカル

-鴻池メディカルさんは、数多くの病院の再生処理業務を受託されていますが、施設ごとに設備の種類や性能が異なるなかで無菌性保証水準を達成するために、どのような姿勢で業務に取り組んでいますか?

我々は受託会社なので、基本的には病院の指示の通りに仕事を進めていくのですが、施設ごとに洗浄器や滅菌器のメーカーや型番、製造年などはまちまちですし、滅菌器の扉一つにしても自動式もあれば手動式もあります。とはいえ、無菌性保証水準の達成という、目指すべき答えはどの施設も同じなので、「本当にこのままでいいのだろうか」と常に自問しながら、改善策を提案する必要があると思っています。KONOIKEグループには「期待を超えなければ、仕事ではない」という私たちの約束(ブランドプロミス)があるため、病院からの期待を超える仕事ができるように、日々の業務に取り組んでいます。

鴻池メディカル 金井大樹さん

鴻池メディカルには受託企業としての数多くの実績があるため、培ってきた経験をもとに病院の方々に改善案を提案できることは、当社の強みだと思います。設備環境が十分ではない病院からご依頼をいただく際には、いかに運用方法の改善で再生処理の質をカバーできるかを考えるようにしています。

鴻池メディカル 金井大樹さん

病院とメーカー、それぞれの理想の橋渡しをすること

-再生処理の現場と物流事業のどちらも経験されているからこそ感じる、業界の課題はありますか?

メーカーが販売する医療器材の品質保証が製造業の考え方に則っているのに対して、借用器材(ローンインスツルメント)の再生処理については、それぞれ病院内の品質保証の考え方に則っているため、そこにギャップが生じているのがこの業界の課題になっていると思います。

鴻池メディカル

たとえば、整形外科などで使用するローンインスツルメントは、現在の運用方法としては、ディーラーから届いた際に、受け取る病院側で一通りの再生処理を実施してから使用されています。ですが、もしディーラー側ですでに目標水準の滅菌処理と包装がおこなわれているのであれば、ディスポーザルの医療材料のように、病院側はインスツルメントを受け取り次第すぐに使用することができ、オペレーションの簡略化につながります。もちろん、員数チェックの視点から、病院としては届いた際に一度中身の確認をしたいとは思うのですが、そこから一通り洗浄・滅菌を実施していると最低でも4時間は使用できないので、当日に対応することが難しくなってしまっています。

鴻池メディカル 金井大樹さん

また、複数の病院で長期間インスツルメントを貸し出す場合、それぞれの病院で再生処理はされていたとしても、どこかの病院で故障してしまった際にメーカーの責任になってしまうという課題もあります。当社もこの課題には取り組んでおり、貸し出しの度にメーカーのメンテナンスを経由することで、品質を担保してきた実績がございます。

これらの問題は、メーカーとしての品質保証の考え方と、再生処理における品質保証がそれぞれに存在するからこそ起きてしまっています。病院とメーカー、それぞれ求めるものが一致することが再生処理の現場においては理想的だと思いますので、物流と再生処理のどちらの事業も展開している鴻池メディカルが、両者の橋渡しとなるような役目を果たせればと思っています。

-全国の病院・クリニックの現場をご覧になってきたなかで、日本全体の再生処理の現状について感じていることをお聞かせください。

鴻池メディカルは全国の施設から再生処理業務を受託しており、大学病院のような大規模な施設からクリニック、診療所まで、そのあり方はさまざまです。公立・私立といった経営母体の違いもありますし、再生処理の取り組み方も施設によって異なるため、最先端の設備にこだわっている病院もあれば、理想の設備や環境が叶わない病院もあります。

新規のお客様に対しては、まずはどのようなことからはじめられるかをご提案させていただくことが多いですね。当社としては、まずはその施設が運用しやすい方法を提案するのがいちばんだと思っています。当社に依頼してよかったと思っていただけるような、ベストな提案をしていきたいですね。

たとえば小規模の施設では、できるだけコストを抑えたい場合がほとんどなので、効率の良い運用方法をご説明したうえで、必要な設備の提案をさせていただくようにしています。「なぜそんなにお金がかかるんだ」と強く言われてしまうこともありますが、求められる無菌性保証水準に達するためには、必要な設備の機能や感染リスク、国内外の水準についてお伝えするようにしています。そこから実際にリスクを下げるためには何ができるのか、その施設にとっての最善の方法を一緒に考えるようにしています。

-金井さんが今後取り組んでいきたいことはありますか?

先ほどもお話ししたように、無菌性保証水準である「SAL≦10⁻⁶」は、どの施設においても同じ目標として達成する必要があります。ですが、達成のためのアプローチは、100の病院があれば100通りの方法があると考えております。もちろん、ガイドラインには基準を十分に満たすための方法が書かれていますが、実際にどういったやり方を掛け合わせれば水準を達成できるのか、誰もがその方法を見つけることに苦労していると思うんですね。

業界内で横のつながりがある病院も限られているので、我々のような受託企業がさまざまな情報を共有する役割を果たし、病院で働く方々の日々の運用をサポートをしていきたいと思っています。たとえば、様々な医療施設ごとに目標水準達成までのアプローチを見つけられるツールを開発するなど、今後は再生処理のあたらしいスタンダードとなるような基準をつくっていきたいですね。

※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。