「機械好き」のエンジニアから、再生処理の世界へ
-小濱さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
僕は大学で機械工学を学び、卒業後は医療機器メーカーに就職して、滅菌装置の設計開発を24年間担当していました。蒸気滅菌やガス滅菌、さらには当時の新しい滅菌方法の開発にも携わり、卓上の小型滅菌器から、もう少し大きめの装置をつくることもありましたね。
-機械工学にはいつから興味をお持ちだったんですか?
子どもの頃から機械が好きでね。当時、毎月付録がついてくる「学習と科学」という子ども向けの科学雑誌を読んでいて、そういった理系的なものが好きだったんです。
-機械工学を学ばれている中で、滅菌器のことはすでにご存知でしたか?
それがまったく知らなかったですね。どんな仕事をしようかといろいろ探す中でたまたまその会社を見つけて、採用していただいたので。ただ、自分の中で医療業界に携わりたい気持ちがありました。社会に貢献できる仕事がいいなと考えた時に、ピンときたのが医療業界だったんです。
-その後、どのような経緯でエムシーサービスに転職されたのでしょうか?
それまで僕が設計していた製品のメンテナンスをエムシーサービスが手がけていたのでつながりがあり、声をかけてもらったんです。入社してからは、海外の洗浄器・滅菌器メーカーへ出向になりました。当時日本法人ができたばかりで、今後当該メーカーの製品を取り扱うにあたり、製品の構造やメンテナンスのノウハウを教わりにいきました。
-それまで設計されていた製品との違いは感じましたか?
それはもう、メイドインジャパンとは全然違いますね。製品の発想というか、考え方が素晴らしいんですよ。通常は洗浄がスタートしてから中に水を貯めて、処理が終わってから排水されるんですが、このメーカーの製品は、装置の上の給水タンクにあらかじめ水を貯めているので、スタートと同時に一気に給水されるんです。下に排水タンクがあるので水が一瞬で捨てられて、洗っている間に水がまた給水される仕組みになっている。この発想はすごいなと。
1年弱の出向の間、この滅菌センターの機械を一通り当該メーカーの製品に更新しました。出向から戻ってきてからは機械の面倒を見つつ、病院から滅菌業務を請け負う営業の仕事を担当していました。
職人気質のサービスマンが築く信頼関係
-エムシーサービスでは現在、どのくらいの施設の滅菌業務を請け負っているのでしょうか?
すべて合わせると30施設ぐらいですね。大きな病院はそこまで多くなく、クリニックといった中小規模の施設や、消防署の滅菌物を扱っています。この場所からだいたい半径50キロの範囲の施設を取り扱っていて、毎朝3台の軽バンが滅菌物の納品と回収のために施設へうかがい、長くても半日ほどで戻ってきます。飯山という北部の豪雪地帯の病院にもうかがうので、雪が降る日は大変ですね。
長野県内の滅菌に対する意識は、比較的レベルが高いと思います。長野県中材業務研究会というのがあって、各都道府県に研究会は大抵あるんですが、その中でも活発に活動をしていますし、開催すればたくさんの方が集まります。みなさん滅菌技士(師)の資格を取られていますし、取得することが奨励されていますね。とはいえ、せっかく資格があっても病院内でのポジションが上がったり、手当が出たりということはまだ少ないので、学会としてはそこをなんとか変えていきたい思いがあるみたいです。
-エムシーサービスは滅菌業務の請負だけでなく、関連機械の修理・メンテナンス・販売と、再生処理に関する総合的な事業展開をされていますが、だからこその強みはあると思いますか?
それはあると思います。修理とメンテナンスを担当するサービスマンが50〜60人所属していて、全国の施設と信頼関係を築くことができているので、機械の更新の際にご相談をいただくことができています。
修理・メンテナンスを担当するサービスマンは、20年前の機械でも「俺が修理するんだ」と、きっちり直して帰ってくる、いわば職人なんですよ。できればそこで製品カタログのひとつぐらい置いて帰ってこいって思うけどね(笑)。なかには「売る」センスを持っているスタッフもいて、お客さまとの信頼関係を活かした提案をしてくれています。営業もできるサービスマンたちは、自分が売った機械を自分で面倒を見たいという思いがあるんです。また、各施設で働く滅菌業務請負のスタッフの中にも営業センスがある人もいて、「そろそろ機械の更新を考えているみたいですよ」と、アンテナを張ってくれています。
洗浄・滅菌のプロとしてのスタッフへの尊敬
-再生処理に取り組む上での意識や危機感など、スタッフの方々にどのように教えられていますか。
新入社員の入社時に教育期間があるので、まずは「僕らがやっている仕事は縁の下だからね」と言うんです。だって、ここに入るまで中央材料室のことを知らなかったでしょう?と。でも、どこの病院にも中央材料室はあって、機能しなくなってしまったら病院の診療やオペはすべて止まってしまう。だから僕らのやっていることはすごく大事なことなんだよと。そこにやりがいを見出してくれるとありがたいなと思いますね。
また、この仕事はいつでも感染の危険があるので、身を守る防護服や手洗いの重要性については、入社したばかりの段階で教えています。僕が感心したのは、新型コロナウィルスが流行り出した時に、隔離病棟のコロナ感染者に使用した医療器材の滅菌をしなくてはいけないことを、「いつもと一緒ですから」とスタッフが言っていたことで。そんな状況で仕事をしてもらうのは申し訳ないなと思っていたんですが、コロナ禍にかかわらず、常に危機意識を持って取り組んでいるんだと。これにはびっくりしましたね。
エムシーサービスに入社する方のほとんどは中途採用がきっかけなので、まったく違う業界から来た方ばかりなのですが、なかには10年間もこの仕事を続けている方もいて、彼ら彼女らは、この仕事が本当に好きなんだなとつくづく思います。洗って、綺麗にして、無菌状態の医療器材が病院の中で使われていること、とにかくそれが好きなんだなって。本当に、よくやってもらっていますし、スタッフのことを尊敬しています。
-この仕事に就く方々が誇りに持てるように、再生処理の仕事があまり世の中で知られてないという現状を変えていかないといけないと感じます。
それは本当に変えたいですね。昔から中央材料室は恵まれない部署なので、下請け業者として見られてしまうことはまだありますし、それはやっぱり辛いですね。病院にとっては、再生処理は売り上げのない、消費するだけの部署のため、コスト削減のターゲットなんですよね。働いているスタッフに対しては申し訳ないなと感じることもあります。
もちろん、なかには僕らを平等に扱ってくれる師長さんもいらっしゃいます。いろいろとお叱りを受けることもあるんだけれど、それに応えるとちゃんとお礼を言ってくれる。そういう時はありがたいですね。本来、看護師さんの仕事は患者さんのケアをすることで、僕らは洗浄と滅菌のプロです。だから、再生処理の仕事は僕らに任せて、どうぞ患者さんと向き合ってくださいと、そう思っています。まあ、普段こんなかっこいい言い方はしないけれどね(笑)。
実験してデータを分析する、エンジニアと再生処理の共通点
-この仕事をしていてどのような時にやりがいを感じますか?
さまざまな相談を受けることが多いので、お悩みにお答えすることで施設の方々の役に立てていると感じる時ですね。この滅菌センターには、日本中の病院から見学者がいらっしゃいますが、なかには「こんな機械はうちでは買えませんよ」とおっしゃる方もいます。その際にお伝えしているのは、どのメーカーがいいのかというより、「なにをしたいのか?」ということが重要だということです。
その施設ではどのような医療器材が使われていて、1日にどのくらいの量が必要になるのか。さらに、現在どのような機械があり、機械を設置する場所はどのくらいの広さなのかをうかがった上で、どんな機械を揃えたらいいのかを一緒に考えていくようにしています。やっぱり、僕らはお客さんにとって本当に必要なものを売らないといけないと思っているので、場合によっては小さめサイズの機械を提案することもあります。
また、最近は医療機器メーカーが新しい医療機器を開発する際に、洗浄方法や滅菌条件についての相談を受けることが増えています。まずは試作品を見せていただき、「これは超音波をかけないと洗浄できないかもしれません」といったやり取りをした後に、ここでバリデーションを実施するんです。その際、羊の血液を塗ってから洗浄し、残留タンパク質を測定してクリアできるかどうかを検証し、滅菌も同様にテストしているのですが、なかには検査を通らない時があり、設計変更が必要になる場合もあります。
-エンジニアとしてのキャリアのスタートから、再生処理の仕事を総合的に請け負う立場をされている現在にいたるまで、仕事の向き合い方に変化はありましたか?
もともと僕のような設計屋って、研究者みたいな人ばかりなんですよ。人見知りをするというか、無口なタイプが多くて。たぶん僕も当時はそうだったと思うんです。病院にうかがっても、余計なことは喋らないし、聞きたいことだけを聞く。エムシーサービスに来てからいろんな病院に出入りするようになり、師長さんや現場のスタッフ、事務局の方々などと出会うことが増えて、やっと人と話せるようになった(笑)。ここにもメーカーで設計している人が来たりするけれど、いかにも設計者という感じで、昔の自分を見ているみたいです。
やっぱり僕は機械が好きで、なんというか、それはこだわりかな(笑)。中を開けてみて、どうやって動いているんだろうと考えたり、医療器材を見てどうやって洗浄や滅菌をするべきなのかを考えたりするのも楽しい。仮説を立てて実験して、データを分析することは、設計屋も再生処理も同じだと思いますね。
-最後に、小濱さんが今後実現したいことについてお聞かせください。
再生処理の仕事はあまり世の中に知られていないないので、人手不足ですし、現在は使い捨て=ディスポーザルの医療機材の使用が進んでいます。メーカーから販売されている使い捨てのキットの中には、使わない器材も入っていて、再生処理の必要がないので楽だとは思うのですが、そのまま捨てることに疑問を持つ病院も増えてきています。
僕には夢があって、再生処理のプロセスのうち、もっとも手間がかかる洗浄を、ロボットで自動化できるようにならないかなと思っているんです。自動で洗浄器に器材を運ぶロボットはすでに海外のメーカーがつくっていて、ファミレスのロボットのように、人が前に立っていたら自分で止まる製品ができてきているので、そういったものが中央材料室に入ってくると、省力化につながります。将来的にすべて自動化するのは難しいと思いますが、人間が火星に行くころには、ロボットが中央材料室で一生懸命働いてくれているかもしれないですね。
※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。