
使われないまま再生処理される、手術医の「基本セット」の見直し
-はじめに、田島先生が医師の道を目指すことになったきっかけについてお聞かせください。
もともと親族に医者がいたわけではないのですが、小学6年生の時に、小さい頃から悩んでいた頭痛を自分で治せるようになりたいと思い、医師を目指すことを決めました。その後、医学部のある一貫教育校の中学に入学したのですが、頭痛は薬を飲めばどうにか治ってしまうことがわかったので(笑)、医学部に入ってからは、救急医と整形外科医の道のどちらかに進みたいと思うようになりました。当時、整形外科の医局長が僕が所属していた大学バスケ部の監督を務めていて、ある日進路について相談したんですが、「患者さんが歩いて帰れるようになるまで見届けたいのであれば、整形外科医になった方がいい」と言われ、確かにそうだなと思ってしまい、整形外科に入局することになりました。

整形外科入局後は、しばらく栃木や横浜の三次救急病院で外傷外科医としての経験を積んでいたのですが、2011年に教授から声がかかり、慶應病院の救急科に派遣されることになったんです。当時の慶應病院には、外傷を専門に対応できる救急の整形外科医がおらず、外傷の患者さんの受け入れを断らざるをえない状況でした。実際に救急外来の現場で働いてみると、内科も脳外科も耳鼻科も含めて全診療科の診療をしなくてはならず、当初は整形外科以外のことはほとんど何も分からなかったのでとても苦労しましたね。一方で、知らないことをどんどん知れることがおもしろくて、もともとは1年間の予定で働きはじめたのですが、3ヶ月が経った時点で「救急の専門医資格を取りたいので、3年間働かせてください」とお願いしたんです。なので、結局は初志貫徹で、救急も整形外科もできる医者として現在働いています。

-そもそも救急と整形外科のどちらにも興味をもったきっかけはあったのでしょうか?
小さい頃からものをつくるのが得意で、小学校の家庭科では、クラスの女子の課題も僕が縫っていました。紙の工作や模型などをつくるのも好きで、この仕事に就く前から漠然と手術が向いてそうな気がしたんですね(笑)。実際にそれは現在も変わらず、たとえば粉砕骨折などの手術では、周囲が驚くようなスピードで綺麗に整復できますし、レントゲン透視装置をあまり見なくても、難なくワイヤーを適切な位置に挿入できるんです。なんとなく皮膚の上からでもズレた骨のかたちが見えるというか、立体視が得意なんだと思います。昨日もちょうど手首の骨折の手術があり、「どうして一発で整復できるんですか?」と後輩がびっくりしていました。特に高齢者の骨折では、若手が2時間かかる手術を20分で終わらせられるので、体への侵襲が圧倒的に小さくて済みます。


-その後、医師として働きながら再生処理に興味を持つようになったのにはどのような理由があったのでしょうか?
2014年から120床の中小病院で定期的に手術のお手伝いをするようになり、それ以来、週1日は午前に40〜50人の術後外来をし、午後は8〜10件ほどの手術をしているんですが、ある日看護師さんから、手術の時に用意する器械の無駄を指摘されたんです。大抵どの病院でも、看護師さんが診療科ごとに器械の「基本セット」を用意するんですが、たとえば大腿骨転子部骨折の手術の場合、筋鉤がペアで6〜7種類ほど用意され、その他にもペアンやコッヘルなどの器械類がセットとして組まれ、全部でトレー3枚分の器械が並びます。業者器械(ローンインストルメント、Loan instrument:LI)と合わせると、その3枚板が2台になることもあり、器械だけで手術室の相当な場所を取ります。ところが、実際には筋鉤はひとつも使いませんし、かならず使う器械だけに絞り込めば、LIと合わせてもトレー2枚分に収めることができるんです。当然ながら、手術後は基本セットのすべてを再生処理に回すことになるため、中材の仕事も兼務する手術室看護師はまったく使われていない器材の洗浄・滅菌をしなければならなくなる。その分、器械は余計に痛んでしまいますし、中材のスタッフの苦労も無駄になってしまいます。

大学病院だけで働いていると、そういった中材の方々の苦労はまったく見えてこないんですが、いまご紹介したような中小規模の病院のお手伝いをするようになってからは、具体的に中材がどのような仕事をしているのかを知り、どれだけ自分が無駄な仕事をお願いしていたのかがわかりました。
大学病院といえども、関節鏡や膀胱鏡といった器材は十分な数があるわけではありませんし、内視鏡類は診療科を超えて取り合いになっています。僕自身、これからも外傷整形外科医としてバリバリ働きたいですし、たくさんの手術を一日にまとめてやりたい気持ちがあるので、医師側が限られた器材のやりくりを含めた看護師の手術室運営に協力するのは当然のことだなと思うんですね。さきほどの看護師の方からの指摘を受けてからは、手術室スタッフや中材スタッフに中材の業務について教わりながら、学会や研究会に通って勉強をするようになり、そこで学んだノウハウを自分が所属する大学病院でも実践したいと考えるようになりました。

中央材料室だからこそできる、「正しい」コストカットの実践
-東京女子医科大学附属足立医療センターには2021年から所属されていますが、中材の業務にはどのように関わられているのでしょうか?
この大学附属病院は、もともと荒川区にあった東医療センターが現在の位置に移転する際に立ち上げられた施設で、ヘリポートも有する三次外傷センターを立ち上げる構想に参加してほしいと声をかけられたことをきっかけに働きはじめました。お手伝いをしている中小病院での経験を踏まえ、この病院でも手術の際に用意する器械を減らすように手術室スタッフに声がけをおこなったのですが、真っ先に受けた反応は、「足りなくなった器械を保管場所に取りに行くのが面倒だ」という声でした。うちのような大学病院の場合、手術室のスタッフと中材のスタッフが完全に分かれているので、手術室側のスタッフにとっては、器械の量の最適化が自分事ではないんですね。

とはいえ、まずは自分が所属する整形外科からはじめて、徐々に外科や産婦人科、泌尿器科といった別の科でも実践してもらおうと、基本セットの見直しを進めていきました。念のため用意しておきたい器械については、基本セットにまとめるのではなく、一つひとつ個別に滅菌し、手術室内には用意しておいて、使いたい時だけ開封すればいいわけです。また、この病院は手術室から保管庫までの距離があるので、いざという時に走って取りに行かなければならず、数分間手術が中断することへの懸念の声もあったので、使いたくなる可能性のある器械をまとめたカートは、症例に応じて手術室の近くに置くようにしています。


-2026年から中材の室長を務められるようになったのには、どのような経緯があったんですか?
大学病院が変わるためには、自分のような内部の人間が声をあげるだけでは不十分であり、外部からの指摘が必要だと思い、ちょうど日本医療機器学会が滅菌供給部門評価事業をはじめる際に実施していたプレサーベイの募集を見つけ、当時の院長と看護部長に話を付けて、募集開始の初日に手をあげたんです。その後、プレサーベイの結果を受けて、いよいよ病院として対応しなければならなくなったのですが、当時は具体的な改善に取り組める体制ではなかったため、中材の管理者のポジションがほしいと、現院長にかけ合ったんですね。これまでさまざまな病院で仕事をしてきましたが、自分から特定のポジションを希望したのは初めてのことでした。

-室長になったことで、まずはどのような改善から実践していったのでしょうか?
2026年4月に就任したばかりなので、まだまだ検討中のものが多いのですが、ちょうど低温滅菌器の買い替えの時期だったため、まずは購入を検討していた3社のメーカーの製品の値段やメリット・デメリットの比較だけでなく、消耗品やメンテナンスにかかる10年分の費用の見積もりを作成し、その結果をもとに購入する機材を検討しました。インジケータの種類はメーカーの純正品がいいと言う方もいますが、他社製に切り替えるだけで、10年で2000万円ほどのコストカットになります。大小の規模を問わず、一般的にどの病院の執行部も中材への投資には消極的です。しかし、先日の千葉県の豪雨で大学病院の中材が機能停止となり、手術ができなくなったという報道は記憶に新しいと思います。中材は利益を生まない部署だとよく言われますが、中材が正常に機能しなければ、病院はお金を生めません。むしろ、中材は正しくコストカットができる部署であり、滅菌の質を落とさず、材料費、水道光熱費を削減することも可能です。その浮いたお金で、質の高い滅菌保証のために必要な物品や器材を購入することもできます。僕は病院の診療報酬改定チームのリーダーも仰せつかっており、医療経営士の資格も持っているので、中材から病院の経営を立て直すことができると思っています。

同様に、現在検討を進めているのは、中央材料室の24時間制の廃止です。残念ながら、東京女子医大の3つの施設はどこも中材を24時間稼働させており、そうじゃないと手術が回らなくなってしまうと信じ込んでいる人がものすごく多いんです。この病院の職員はグループ内の病院でしか働いたことがない方が多いため、他の病院の実態を知らないんですね。ほとんどの大学病院は、ここよりも多い手術件数を7〜21時や8〜22時などの中材運営でこなしています。月に何回あるかわからない夜中の緊急オペのために外注スタッフを24時間待機させなくても、翌朝7時から再生処理をはじめれば次の日の手術には支障はありません。

それに、緊急時に看護師が滅菌器を回さなければならないことへの抵抗感を示される方もいますが、それは他の病院では普通のことで、もし一般病院に移ることになった場合、洗浄器・滅菌器の使い方を知らないままだと、その病院の手術室業務ができずに困ることになってしまいます。もちろん、これまでやらなくてよかった業務を追加でお願いすることには相当なハードルがあり、どうしても時間はかかると思うので、まずは同じように24時間制を採用している手術室側の外注スタッフ数の見直しから検討をはじめています。しばらくトライアルとして実施したところ、月に1、2回忙しい日はあるものの、基本的には外注スタッフは24時間制でなくても問題ないことがわかったので、今年度中には廃止する予定です。

職種を超えた思いやりが「医療安全」を実現する
-田島先生のように、手術医の立場から再生処理の重要性をうったえることの意義について、どのように感じていますか?
手術医の多くは、何度も手袋を変えたり、繰り返し手術着を洗ったりと、徹底的に清潔にこだわる一方で、手術の前段階である再生処理にはまったく目を向けようとしないパラドックスを抱えています。清潔操作以前に、自分が使っている器材が正しく滅菌できているかどうかということに、まったく興味を持っていません。それなのに、できるだけ早く自分の手術を入室させようとしたり、一日にたくさん同じ手術の予定を詰め込んだりしています。もちろん、医師と麻酔医は患者のリスクを考えた上で手術の順番を申し込んでいるのですが、それは中材のスタッフが取り組む滅菌保証も同様です。中材の運営に無理が生じるスケジュールを組んでしまうと、十分な滅菌が保証されていない器械で手術をすることになるので、この現状に警鐘を鳴らすことは、むしろ医師の役目なのではないかと考えています。


なので、これまでは医師の申し込み通りにスケジュールを組んでいましたが、最近は再生処理にかける十分な時間が確保できない場合は、手術の待ち時間が発生することを医局員内で共有した上で、まずは整形外科の手術の順番を組み替えたり、場合によっては術者の入れ替えも実施するようになりました。医師と麻酔科だけではなく、中材も対等でいられる病院こそ、もっとも安全で効率よく手術を回すことができるのではないかと思うので、この取り組みを他科にも広げていくつもりです。

-田島先生のように、医師が再生処理に関心を持つために必要なことは何だと思いますか?
僕も再生処理について学び始める前は、オートクレーブが蒸気滅菌だということすら知らなかったですし、できるだけ早く手術をしたがる嫌な医師のひとりだったと思いますよ(笑)。そんなかつての自分のように、再生処理についてまったく知らないまま仕事をしている医師はまだまだたくさんいるので、やっぱり啓蒙活動が必要だと思います。

再生処理ほど施設の取り組み次第で大きな差が出てしまう領域はないと思いますし、勉強すればするほど、これまで自分が使っていた器材の滅菌状態について考えてこなかったことが恐ろしくなります。過去の論文を調べると、不十分な再生処理が原因で院内のアウトブレイクが起きてしまった事例も見つかりますし、滅菌物が原因で人工関節の感染が起きてしまった検証結果も発表されています。今年の救急医学会では、再生処理に向き合う重要性について発表する予定なので、今後は整形外科の領域においても啓蒙活動に取り組んでいくつもりです。

-最後に、医師に限らず、滅菌保証に取り組むべき医療関係者の方々に伝えたいことをお聞かせください。
大きな病院の多くが、医師や看護師などの職種ごとに業務を分けて考えてしまっていますが、僕が救急外来にいた時は、点滴を取るのがうまい看護師の介助を僕がすることもありましたし、手術用のガウンをその場にいた放射線科の技師さんが着せてくれることもありました。救急外来の現場では、その場の決断によっていかに治療を早く進められるかが患者さんの命に関わるので、「医師だから」「看護師だから」といった区別は関係なく、その時々で「できる人ができることやる」という雰囲気があり、それが職種を超えた思いやりにもつながっています。普段の整形外科の手術においても、医師と看護師が一緒に床を掃除したりベッドを整えたりすれば、1分でも早く手術に入れますし、看護師さんも別の作業に移ることができます。実際に、僕はモップをもって床の掃除をしたり、手術台のベッドメイキングや、心電図のコードの清拭もします。医師と看護師が仕事の範囲を限定せず、互いの仕事に思いやりを持てるようになれば、結果的に手術も早く回り、余計な仕事も減って早く帰れるようになるはずなので、そんな状態を目指していきたいですね。

「医療安全」という言葉は、部署を問わず、病院に勤めるすべての人が使っていると思いますが、本来医療安全と滅菌保証は分けて考えられないはずです。中材の室長として啓蒙活動に取り組むことで、徐々に病院内の理解も得られるようになってきたので、僕らがなぜ医療の道に進んだのかをもう一度思い出してもらえるような、滅菌保証に関する情報発信を続けていきたいと思っています。
※ご所属・肩書・役職等は全て掲載当時のものです。







