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再生処理の知識

ボウィー・ディックテストとは?ガイドラインの記載内容や実施方法、市販品の選び方について解説します。

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高圧蒸気滅菌器の空気除去および蒸気浸透の適格性を確認するボウィー・ディックテスト。

 

その日の滅菌器がきちんと稼働するかを確認する、とても重要な手順です。

 

「そもそもボウィー・ディックテストって何?」
「ガイドラインではどのように記載されている?」
「テストの具体的な実施方法は?」
「どのような基準で製品を選べばいい?」

 

そんな疑問をお持ちの方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

 

今回は、ボウィー・ディックテストに関するガイドラインの記載や実施方法、市販品の選び方などを解説します。

 

この記事を読めば、ボウィー・ディックテストの基礎知識を得ることができます。

 

目次

1. ボウィー・ディックテストとは?

1-1. 高圧蒸気滅菌器(オートクレーブ)の空気除去・蒸気浸透の適格性を確認する試験

医療機関における滅菌法の第一選択である、高圧蒸気滅菌。高温の蒸気が器材に暴露し、凝縮を生じ高温の水となって滅菌します。高圧蒸気滅菌では、滅菌器内の器材のあらゆる表面に飽和蒸気が達することが必要不可欠です。

滅菌器内に空気が残存していると、器内に飽和水蒸気が到達せず、空気が残存した部分は乾熱状態となり、温度が上がっても滅菌不良の原因となることがあります。特に、ラパロ鉗子や気腹チューブなどの内腔構造を有する医療器材は、器材内部に含まれる空気を除去しにくいため蒸気が浸透しづらいと言われています。

内腔器材への蒸気浸透

ボウィー・ディックテストは、医療器材を滅菌するのに非常に重要な、高圧蒸気滅菌器の空気除去性能を確認する試験です。

 

1-2. (語源)1963年にBowie博士らによって開発された試験方法

ボウィー・ディックテストは、人物名が語源です。1963年、英国のエジンバラ王立病院の臨床微生物学者であったBowie博士と技術者のDick氏が、真空式高圧蒸気滅菌器における空気除去の確認方法として発表しました。

開発後60年経過した今でも、世界中で実施されている試験です。

 

1-3. ボウィー・ディックテスト原法は、タオルに化学的インジケータを挟み込んだもの

ボウィー・ディックテストの原法は、積み重ねたタオルにボウィー・ディックテスト用の化学的インジケータを挟み込んで作成します。ボウィー・ディックテスト原法については、ISO 11140-3(欧州)やISO 11140-5(米国)で規定されています。

ボウィー・ディックテスト原法

ボウィー・ディックテスト原法

1-4. 近年では市販のボウィー・ディックテストを使用するのが主流

ボウィー・ディックテスト原法での運用には、以下のような課題があると言われています。

・テスト前にその都度作成しなければならず手間が発生する
・常に同じ品質のテストパックを作成することが困難

そのため、近年では、市販のボウィー・ディックテストが多用されるようになりました。

一般的な市販のボウィー・ディックテスト

市販のボウィー・ディックテスト

 

1-5. ボウィー・ディックテストの本質は不具合があった時に不合格を示すこと

ボウィー・ディックテストが不合格の場合、滅菌器に以下のような不具合が発生している可能性があります。

・滅菌器の扉パッキンの劣化
・真空ポンプの性能低下
・配管の劣化

滅菌器にこのような不具合がある状態では、滅菌器を運転しても医療器材を適切に滅菌できない可能性があるため、早急に滅菌器の点検・修理をする必要があります

ボウィー・ディックテストに求められる本質

つまり滅菌器の適格性を確認するボウィー・ディックテストには、滅菌器に不具合があった際にきちんと不合格を示すことが求められます。

 

2. ガイドラインや施設評価ツールにおける記載

2-1. ガイドライン2021では「必ず毎日実施する」ことが勧告されている

医療現場における滅菌保証のガイドライン2021では、ボウィー・ディックテストの実施に関して、p.212に以下のように記載されています。

14.5 日常のモニタリング(ボウィー・ディックテスト)

(勧告)
14.5.1 真空式蒸気滅菌器に対して、必ず毎日の運転開始前におこない、合格することを確認する
14.5.2 真空式蒸気滅菌器に対して、滅菌器の移設、修理、故障、滅菌不良の際には3回連続おこない、合格することを確認する
14.5.3 ボウィー・ディックテスト試験は暖機運転後に実施する

毎日の運転開始前、暖機運転後に、必ずボウィー・ディックテストを実施し合格することを確認するよう勧告されています。

 

2-2. 施設評価ツールでは「毎日実施」が必須項目として記載されている

医療現場における滅菌保証のための施設評価ツールVer.1.01では、ボウィー・ディックテストについてp.4に以下のように記載されています。

22. 蒸気滅菌器を使用する前に、滅菌器ごとにボウィー・ディックテストを毎日実施していますか?【必須

テストパックなどを使用し合否判定を行います。試験の条件は134℃3.5分です。暖機運転後に実施します。重力置換式蒸気滅菌器には必要ありません。

①はい(1点)  ②いいえ(0点)

施設評価ツールにおける必須項目は「早急に改善が必要な項目」とされています。施設評価ツールにおいても、ボウィー・ディックテストを毎日実施することが強く推奨されていることがわかります。

 

3. ボウィー・ディックテストの実施方法

3-1. テストパックはコールドスポットに設置する

ボウィー・ディックテストに使用するテストパックは、空の滅菌器の最も滅菌条件の悪い場所(コールドスポット)に置きます。コールドスポットは通常、滅菌器の排気口上方(排気口部の10~20cm上部)に相当することが多く、滅菌器の下方、扉近くが一般的です。

 

3-2. ボウィー・ディックテストは暖機運転後に実施する

ボウィー・ディックテストは毎日の始業時に実施しますが、必ず滅菌器の暖機運転後に実施します。

暖機運転は、滅菌器内を均一に加温し、夜間や休日などの滅菌器を使用しない時間に蒸気配管内に溜まったものも除去します。暖機運転を行わないと、本来は合格すべき滅菌器において、ボウィー・ディックテストが不合格になる可能性があります。

 

3-3. 試験条件(滅菌時間)は134℃ 3.5分

暖機運転後に、ボウィー・ディックテストプログラムを実施します。

ボウィー・ディックテストの試験条件は、134℃ 3.5分間です。30秒単位の処理時間が設定できない滅菌器の場合は、処理時間は4分間としますが、4分間を超えてはいけません。4分間を超えてしまった場合、試験は無効とみなされます。

 

3-4. インジケータの結果を確認し、不合格であれば滅菌器の点検や修理を実施する

試験終了後、インジケータの結果を確認します。滅菌器から取り出した直後のテストパックは熱いので、注意してインジケータを取り出します。

インジケータの結果が不合格の場合、滅菌器の扉パッキンの劣化や真空ポンプの性能低下、配管の劣化などの不具合が発生している可能性があります。不合格が発生した場合は、早急に不良の原因を解明した上で修理し、再試験を実施します。

インジケータの結果

 

4. 市販のボウィー・ディックテストの選び方

たくさんある市販のボウィー・ディックテストから、どのように選べばいいのか?ここでは、市販のボウィー・ディックテストを選定する際の視点をいくつかご紹介します。

4-1. 不具合の検知力で選ぶ

ボウィー・ディックテストを実施する本質は、滅菌器に扉パッキンの劣化や真空ポンプの性能低下、配管の劣化などの不具合が発生した際に、きちんと不合格を示すことです。つまり、ボウィー・ディックテストには、わずかな不具合も見逃さない高い検知力が求められます。

ボウィー・ディックテストに使用するテストパックは、以下の国際規格で規定されています。ISO 11140-4は欧州のボウィー・ディックテストパック用の規格で、7kgのコットンテストパックに相当。ISO 11140-5は米国の規格で、4kgコットンテストパックに相当します。

欧州規格ISO 11140-4に適合したボウィー・ディックテストは、より一層厳しい条件となっており、高い不具合検知力を有します。

ボウィー・ディックテストパックに関する規格

ISO 11140-4 ISO 11140-5
参照規格 欧州(EN 285)
ボウィー・ディックテストパック用規格
米国(ANSI/AAMI ST 4)
ボウィー・ディックテストパック用規格
標準テストパック基準(重さ) 7±0.14kg 4±0.2kg
標準テストパック基準(密度) 0.42kg/dm³ 0.20kg/dm³

 

4-2. 単回使用/リユースタイプで選ぶ

市販のボウィー・ディックテストには、テストパックが単回使用のものと、リユースタイプのものがあります。単回使用はインジケータを設置する手間がない、リユースタイプはコストやゴミを削減できる、といったメリットがあります。

 

4-3. 使い勝手で選ぶ(インジケータの記録など)

ボウィー・ディックテストは、毎日実施する試験です。そのため、インジケータの記録のしやすさなどの使い勝手も、選択する際の視点の1つになります。

 

5. SALWAYのボウィー・ディックテスト

5-1. ISO 11140-4(欧州規格)に適合したリユースタイプのボウィー・ディックテスト

厳格な欧州規格 EN ISO11140-4(7kgコットンテストパック)に適合したボウィー・ディックテストです。本体はコンパクトなリユースタイプで、8,000回以上使用可能です。

ボウィー・ディックテスト

 

5-2. 高い検知力で、わずかな不具合を検知する

ある医療機関が、ボウィー・ディックテスト原法と市販品を比較検証した結果です。

ボウィー・ディックテストの検知力を検証する方法として、真空引き(空気除去)をわざと甘くして、滅菌条件を悪くする方法があります。空気除去が甘かった際に、ボウィー・ディックテストがきちんと不合格を示すかを確認する試験です。

SALWAYのボウィー・ディックテストは、真空パルスを2回にした際に、わずかな残存空気を検知して、唯一不合格を示したことが確認されています。

ボウィー・ディックテストの検知力の比較検証

 

5-3. 扉パッキンの亀裂を検知した事例も

こちらは、実際のボウィー・ディックテストユーザーの試験結果の一例です。

SALWAYのボウィー・ディックテストが不合格を示したため原因を調べたところ、滅菌器の扉パッキンに亀裂が入っており、空気漏れが発生していたことが判明しました。

SALWAYボウィー・ディックテストによる滅菌器の不具合検知の事例

 

5-4. インジケータはコンパクトなシールタイプ

インジケータのサイズは63mm×6mmで、非常にコンパクトです。記録台帳がかさばりません。インジケータの裏面はシールになっているため、記録用紙に貼付する際の糊付けが不要です。

A4サイズの記録用紙にインジケータを貼付した様子

インジケータ記録用紙

 

 

また、インジケータの在庫スペースも、250枚入りで横19.2cm × 縦13.4cm × 高2.2cmと非常に省スペースで済みます。一般的な単回使用のボウィー・ディックテスト1~2個分のスペースに、250回分のインジケータを収納することができます。

SALWAY ボウィー・ディックテスト用インジケータのサイズ

SALWAY ボウィー・ディックテストの大きさ

 

5-5. 米国規格に適合したモデルもある

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米国規格 ISO 11140-5(4kgコットンテストパック)に適合した、ボウィー・ディックテスト(米国規格)も用意しています。SALWAYでは、使用している滅菌器の性能にあったボウィー・ディックテストを使用することを推奨しています。

 

6. よくある質問

6-1. ボウィー・ディックテスト用インジケータのタイプ分類は?

ボウィー・ディックテストは、特定の試験のためのインジケータであるため、ISO 11140-1 化学的インジケータのタイプ分類におけるタイプ2インジケータとして分類されます。

ISO 11140-1 化学的インジケータのタイプ分類

分類 名称 用途・特徴
タイプ1 プロセス・インジケータ 医療器材が滅菌工程を通過したか否かを確認するために使用される。包装材の外側に貼付するか、あるいは外側から目視確認できるようにする
タイプ2 特定の試験のためのインジケータ 真空式蒸気滅菌器の空気除去の適格性を確認するボウィー・ディックテスト用のインジケータや、蒸気浸透性を確認するホローロード型PCDなどが該当する
タイプ3 シングルバリアブル・インジケータ 1つの重要プロセス変数に反応する
タイプ4 マルチバリアブル・インジケータ 2つ以上の重要プロセス変数に反応する
タイプ5 インテグレーティング・インジケータ すべての重要プロセス変数に反応する。指標菌の値と関連した反応をする
タイプ6 エミュレーティング・インジケータ すべての重要プロセス変数に反応する。合格条件と不合格条件の条件幅が最も狭く、指定された滅菌条件(SV)を最も精度高く検知する

 

6-2. 欧州規格と米国規格のどちらを使用するべきか?

使用している滅菌器の性能にあったものを使用することを推奨しています。

SALWAYでは、まずはより厳格な欧州規格のボウィー・ディックテスト(パープル)を試して頂き、合格しないようであれば米国規格のボウィー・ディックテスト(ライトブルー)を試して頂くことを推奨しています。

ボウィー・ディックテストの試験結果(不合格)

ボウィー・ディックテスト試験結果

 

ボウィー・ディックテスト(米国規格)の試験結果(合格)

ボウィー・ディックテスト(米国規格)試験結果

 

 

いかがでしたでしょうか?

ボウィー・ディックテストに関するお問合せや各種ご依頼(お見積り/サンプルなど)は、営業担当またはSALWAYのWebサイトのお問合せフォームよりご連絡下さい。

 

SALWAY ボウィー・ディックテスト

 

 

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