1. 滅菌コンテナの無菌性が破綻するとき
1-1. 滅菌コンテナは使用直前まで無菌性を維持する役割がある
器材の包装形態は、ラップ材、滅菌バッグ、滅菌コンテナの3種類があります。そのうち滅菌コンテナは、操作性に優れ、重量のあるセット器械を収納しやすい等のメリットがあり、多くの施設で用いられています。
滅菌コンテナの役割は、単に入れ物として器材を収納するだけではありません。「滅菌剤を通す」「器材が使用される直前までその無菌性を維持する」という重要な役割を持っています。欧米では、FDA認証やCEマークの取得が必要な「医療機器」として扱われています。
1-2. 無菌性が破綻する1つめの原因は「コンテナの異常」
滅菌コンテナは何らかの異常がある状態で使用すると、滅菌後に微生物の侵入を許し、内部の無菌性が破綻してしまいます。使用前には、取扱説明書を参照して品質に問題がないか点検します。代表的なチェックポイントは、例えば以下のようなものがあります。
滅菌コンテナの代表的なチェックポイント
| 場所 | チェックすること |
| 蓋のパッキン（ガスケット） | 欠けや亀裂がないか |
| ロック部分 | 破損や変形がないか |
| フィルター部分 | 異常がないか |
1-3. 無菌性が破綻するもう1つの原因は「誤開封」
滅菌コンテナの品質以外の理由で内部の無菌性が破綻する場合もあります。それは、滅菌コンテナの蓋を誤って開封してしまう場合です。
例えば、保管や搬送の際にラチェット部分に手をひっかけて、蓋が浮いてしまうことが起こりえます。また、間違った滅菌コンテナを開けてしまったり、手術中に落とした器材の替えを急いで取りに来る、といったことも考えられます。
滅菌コンテナは高い密閉性により内部の無菌性が維持されますが、蓋を開けた瞬間に内部の無菌性は破綻してしまいます。開封したのがたとえ一瞬でも、一ミリでも、その滅菌コンテナの無菌性が破綻したことに変わりはありません。
1-4. 滅菌テープは再度テープを留めてしまえば誤開封をごまかせる
滅菌コンテナをロックする方法として、滅菌テープを使用しているケースがあります。滅菌テープにはタイプ1のプロセスインジケータが付いているので、滅菌前か滅菌後かを簡単に見分けることができるのが便利です。
しかし、滅菌テープでは簡単に貼り直せてしまうため、無菌性が維持されている証明にはなりません。
下の写真は、滅菌コンテナを滅菌テープで留めて滅菌した後、滅菌テープを剥がして開封し、またテープを貼り直したものです。
一度剥がして貼り直した滅菌テープの拡大写真。よく観察しても開封済とわかる跡は無い。
滅菌テープを剥がす前と、剥がして開封してまた貼り直した後とで、区別がつかないことがわかります。
このように、滅菌後、誰かが滅菌テープを剥がして滅菌コンテナを開封してしまったとしても、再びテープで留めてしまえば開封されたことが分かりません。その場合、滅菌コンテナの無菌性が破綻していることが気づかれないまま、安全でない器材が患者さんに使用されることになってしまいます。
したがって、滅菌コンテナのロックは、「開封されたことがわかる」不可逆な方法であることが必要です。
1-5. 誤開封防止シール（リードシール）は一度開けたら戻すことができない
破壊した誤開封防止シール
滅菌コンテナに誤開封防止シール（リードシール）を使用すると、誤開封防止シールを破壊しない限り、滅菌コンテナを開封できません。一度破壊した誤開封防止シールは元に戻せないため、その滅菌コンテナが未開封であることを確認できます。
1-6. 誤開封防止の仕組みは、患者の安全を守ること
同じ病院内のスタッフであっても、滅菌業務への認識に差があることがあります。滅菌業務を十分理解しているスタッフは「無菌性が破綻した」と判断することが起こっても、滅菌業務への理解度が低いスタッフは「この程度なら大丈夫だろう（無菌性は破綻していない）」と考えてしまう可能性があるということです。
払い出した後、手術室に届けられるまでの間も無菌性を守る仕組みが必要です。滅菌した物の無菌性を守ることは、患者さんの安全を守ることでもあります。
1-7. 施設評価ツールでも誤開封防止の仕組みが求められている
日本医療機器学会より刊行されている『医療現場における滅菌保証のための施設評価ツールVer.1.1』では、滅菌コンテナの誤開封防止の仕組みについて、下記のような誤開封防止の仕組みが求められています。
19.滅菌コンテナの不正開封の防止・発見の仕組みがありますか？
例：ロッキングフラップにインジケータ付きリードシールなどを差し込み開封したことを目視で確認できる仕組み、などを指します。
①はい（1点） ②いいえ（0点）
2. 誤開封防止シール（リードシール）の種類
2-1. プラスチックタイプ
誤開封防止シールとして、よく使用されているものはプラスチックタイプの製品です。
矢印の形をした細いアロー部分を滅菌コンテナのロッキングフラップに差し込んで、ロックします。このアロー部分は、一度差し込むと元に戻らない構造になっています。
シールを壊さないと滅菌コンテナを開封することができないので、使用時まで未開封であることを証明し、内部の無菌性を担保することができます。
2-2. 紙タイプ
誤開封防止シールには、紙タイプの製品もあります。使用目的はプラスチックタイプと同じですが、プラスチックタイプに比べて安価な場合が多いです。
また、材質が紙なので、マジックペンなどでメモを書ける製品もあります。滅菌日や滅菌期限、滅菌コンテナの中に入れた器材などを書き込めます。メモは手書きのほか、ラベルシールを貼って記録することもできます。
メモ書きの代わりにラベルシールを貼付したコンテナシール
2-3. インジケータ付き
誤開封防止シールには、タイプ1のプロセスインジケータが付いているタイプと、付いていないタイプがあります。プロセスインジケータが付いていると、滅菌コンテナが滅菌されたか否かを目視で簡単に見分けることができます。
誤開封防止シール以外の方法で滅菌済かどうかを確認できる場合は、プロセスインジケータが付いていないタイプの製品を使用することもあります。その場合、滅菌テープやインジケータカード（滅菌コンテナの側面に差し込むカード）などで滅菌工程の通過を確認します。
リードシールとインジケータカードを装着したコンテナ
3. 誤開封防止シールの使い方
3-1. プラスチックタイプ
プラスチックタイプの誤開封防止シール（リードシール）のロックは、以下の手順で行います。
①リードシールのアロー部分を滅菌コンテナのロッキングフラップ部分に差し込みます。
②リードシールのタブを起こし、アロー部分の先端をタブ部分に差し込みます。この時、カチッと音がするまでしっかりと差し込みます。
③アロー部分が戻らないことを確認して、ロック完了です。
同様にして、反対側もロックを行います。
プラスチックタイプの誤開封防止シール（リードシール）のロックを解除する時は、以下の手順で行います。
①リードシールのタブ部分をつまみ、ロッキングフラップ部分のふちを支点にして時計回りにねじります。
②アロー部分が折れたらロック解除完了です。
3-2. 紙タイプ
紙タイプの誤開封防止シールのロック方法は、以下の手順で行います。
①シールを台紙から剥がし、シールのアロー部分を滅菌コンテナのロッキングフラップ部分に差し込みます。
②アロー部分を折り曲げて、シール部分に貼り付けます。
③シール部分を折り返して、シール同士をしっかりと貼り付けます。
④シールを軽く引っ張って、簡単に外れないことを確認します。
同様にして、反対側もロックを行います。
紙タイプの誤開封防止シールのロックを解除する時は、以下の手順で行います。
①シール部分をつまみ、ロッキングフラップ部分のふちを支点にしてねじります。
②アロー部分がちぎれたらロック解除完了です。
3-3. 使用する際の注意点
滅菌コンテナを開封する際は、誤開封防止シールを外した後に滅菌コンテナの蓋を外して開封します。
滅菌コンテナの蓋を開けながら誤開封防止シールによるロックも同時に解除しようとすると、誤開封防止シールの一部が折れて飛んでしまったり、ロッキングフラップの中に残ったりすることがあります。
4. まとめ
滅菌コンテナの重要な役割は「使用直前まで無菌性を維持すること」ですが、その無菌性は誤った開封によって簡単に破綻してしまいます。そのため、誤開封があった時に気づける仕組み作りが大切です。
その仕組み作りに役立つのが、誤開封防止シール（リードシール）です。プラスチック製や紙製といった素材の違い、インジケータの有無によって、様々な種類があります。自施設にあった製品を使用することで、無菌性を維持した器材を確実に届けることができます。
