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コラム

医療機関における滅菌業務とは?仕事内容などをわかりやすく紹介します。

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“ 滅菌業務 ”と聞くと、

 

「具体的にどんな仕事をするのかわからない」
「無資格でも働けるのか不安」
「滅菌ってなんだか難しそう」

 

と思う方も多いのではないでしょうか。

 

ここでは、滅菌業務に初めて携わる方やこれから働いてみようと思っている方に向けて、仕事の概要や関連する資格について簡単にお話していきます。

 

この記事を読めば、滅菌業務の具体的なイメージを持つことができます。

 

更新日:2023年12月04日
公開日:2023年6月29日

目次

1. 医療機関における滅菌業務とは

1-1. 滅菌業務の役割

 

 1-1-1. 滅菌業務は医療器材を洗浄・滅菌すること

外来や手術など診療で使用される医療器材には、使用後に洗浄して再使用するものと使い捨てのものがあります。 再使用する医療器材は、使用後は汚染されているため、次の患者に使用しても問題のない安全な状態にする必要があります。この汚染された器材を洗浄・滅菌するのが滅菌業務です。 使用した医療器材を洗浄・滅菌して再使用できるようにする一連のプロセスを「再生処理」と呼びます。

 

様々な医療器材
再使用可能な医療器材はRMD(reusable medical device)と呼ばれる

手術に使用する器材

 

 1-1-2. 滅菌業務なくして診療はできない

日々行われる外来診療や手術には、安全な医療器材が必要です。

もし滅菌業務が行われなかったら、使用すると汚染される医療器材は全て新品のものを使用し、使い捨てなければなりません。これでは廃棄物がたくさん出て環境に負荷がかかり、医療費はとても高額になってしまいます。

滅菌業務を行わずに汚染された医療器材を使いまわせば、その器材に付着した細菌やウイルスによって患者さんが別の病気になってしまう恐れがあります。

滅菌業務は、医療機関が診療行為を行うために必須かつ重要な業務であると言えます。

 

 1-1-3. 滅菌業務を担う部署は「中央材料室」

医療機関で滅菌業務を担っている部署は、「中央材料室」と呼ばれます。「中材」と略されることも多いです。
施設によっては、「滅菌室」や「サプライセンター」と呼ばれることもあります。

 

 1-1-4. 最近では滅菌業務の外部委託も増えている

医療スタッフ(看護師など)の負担軽減を目的として、滅菌業務を外部委託する医療機関が増えてきています。外部委託には、病院内の滅菌施設を使用する「院内委託型」や、院外に滅菌専用施設を設置し複数の病院を対象に滅菌サービスを提供する「院外委託型」などがあります。

 

 1-1-5. 滅菌受託業者の会社例

滅菌業務を代行する受託業者には、以下のような会社があります。

エア・ウォーター
鴻池メディカル
ダスキンヘルスケア
日本ステリ
リジョイスカンパニー
ワタキューセイモア

 

1-2. 滅菌の定義

 1-2-1. 微生物が生存している確率が100万分の1以下であれば滅菌されているとみなす

滅菌達成の基準については、多くの機関の協議を経て「滅菌した100万個の滅菌物の中で、菌が1つのみ確認できるレベル」と定義されました。つまり、微生物が生存する確率が100万分の1以下であれば、「滅菌できている」と言えます。

これを無菌性保証水準(SAL:sterility assurance level)と言い、SAL≦10⁻⁶と表現されます。

10⁻⁶

 

 1-2-2. 中央材料室の滅菌業務は安全な器材を「製造」すること

中央材料室の滅菌業務の目的は、SAL≦10⁻⁶が達成された医療器材を供給することです。このことから、中央材料室は「医療機関における工場」と例えられることがあります。その意味では、滅菌業務は医療器材を「製造」していると言えます。

滅菌業務における「製造」が、医療機器メーカーにおける製造と大きく異なるのは、滅菌業務は器材が血液や組織で汚染された状態から製造が始まるという点です。

 

1-3. 滅菌業務のプロセス

 

 1-3-1. 滅菌業務には8つのプロセスがある

医療機関における滅菌業務は、大きく8つのプロセスがあります。使用、搬送、洗浄/消毒、検査・トレイ組み、包装、滅菌、保管、搬送です。

滅菌供給業務のサイクル

それぞれのプロセスで具体的に何を行うかは、2章で詳しくお伝えします。

 

 1-3-2. 滅菌業務の中心には品質保証という考えがある

SAL≦10⁻⁶を確実に達成するためには、8つのプロセス全てが重要です。どのプロセスにおけるミスや失敗も、器材の再汚染の原因となります。そのため、器材を確実に滅菌するために各プロセスで何をすべきかを検証(Validation)し、その検証されたプロセスを確実に実行することで品質(滅菌)を保証する必要があります。

滅菌業務の中心には、この品質保証(Quality Assurance)という考え方があります。品質マネジメントシステム(QMS:Quality Management System)とも言われます。QMSとは、手順やルールを定めて、製品やサービスを恒常的に供給する仕組みを指します。

 

2. 滅菌業務の仕事内容

2-1. 洗浄・滅菌前の医療器材の状態

 

 2-1-1. 使用後の医療器材は汚染されている

医療機関では日々外来診療や手術が実施されており、そこではたくさんの医療器材が使用されています。使用された器材は、血液や組織等で汚染されています。

 

使用後の医療器材

 

 2-1-2. 医療器材の中には再利用されるものがある

医療器材の中には、メスや鉗子など再利用される器材(RMD)が数多くあります。これらの器材は、次の患者にも安全に使用できるように、中央材料室で再生処理されます。

 

2-2. 搬送

 

 2-2-1. 手術室等で使用された器材は中央材料室へ搬送される

搬送

手術室や外来で使用された汚染された器材は、再生処理するために中央材料室へ搬送されます。汚染された器材は取り扱いに注意する必要があるため、搬送の導線がとても重要です。中央材料室は手術室に隣接、または直通のエレベーター等で繋がっている場合が多いです。

 

 2-2-2. 搬送にはコンテナやトローリーを使用する

使用済み器材の搬送には、専用のコンテナやトローリーが使用されます。最近では、人ではなくロボットが自動で搬送する自動搬送システムも普及してきています。

 

2-3. 洗浄/消毒

 

 2-3-1. あらゆる微生物のほとんどは洗浄/消毒で除去される

中央材料室に搬送された器材は、まずは洗浄を行います。洗浄とは、すべての目に見える汚れを除去することであり、微生物のほとんどはこのプロセスで除去されます。具体的には、洗浄ブラシを使って手作業で洗ったり、ウォッシャーディスインフェクター(WD)と呼ばれる機械に入れて洗浄します。

 

ブラシを使った用手洗浄

ブラシを使った用手洗浄

 

 

WDを使用した機械洗浄

WDを使用した洗浄

 

 2-3-2. 洗浄は滅菌前の大事な準備

適切な洗浄を行うことで、滅菌前の初発菌数(バイオバーデン)を大幅に減らすことができます。無菌性保証水準に到達するまでの滅菌時間は短縮され、余裕をもってSAL≦10⁻⁶を達成することができます。

器材に血液等が付着していると、菌を殺滅する蒸気などの滅菌剤が器材表面まで到達せず、十分に滅菌することができません。滅菌されたとしても、パイロジェンなどの発熱物質が残ってしまう問題があります。

洗浄は、再生処理のプロセスの中で最も不可欠なプロセスです。

洗浄の重要性①

洗浄の重要性②

2-4. 検査・トレイ組み

 

 2-4-1. 医療器材が適切に機能するかを検査する

洗浄/消毒された器材に汚れが残っていないか、器材に亀裂が入っていないか、切れ味は落ちていないか等を検査します。

検査・トレイ組

 

 2-4-2. トレイ組みはスムースな診療・治療に繋がる

手術中に「器材が見当たらない」「必要な器材がない」などが起こると、大きな問題につながります。そのため、必要な器材が全て揃っており、かつ使いやすいようにトレイ組みをすることが求められます。作業時は、どの器材をどのようにセットすべきかを示したマニュアルを見ながら行います。この工程は「組み立て」とも呼ばれます。

 

トレイ組

 

2-5. 包装

 

 2-5-1. 滅菌バッグやラップ材、コンテナで器材を包装する

組み立てられた器材は、ラップ材やコンテナによって包装されます。滅菌物は通常、必要となる時まで保管されます。器材を包装する目的は、滅菌後の保管中に器材が再汚染しないようにし、使用直前まで無菌状態を維持するためです。

 

ラップ材を使用した包装

ラップ材を使用した包装

 

コンテナによる包装

コンテナによる包装

 

トレイ組みされない単包製品は、滅菌バッグを使用して包装されます。器材を滅菌バッグにいれ、シーラーと呼ばれる機械で封をします。

滅菌バッグによる包装

滅菌バッグによる包装

 

シーラー

 

 2-5-2. 包装が不適切だとすべての処理を無意味にしてしまう

包装に求められる要件は、以下の2つです。これらが守られていないと、滅菌したとしても器材の無菌性は担保されないため、すべての処理が無意味になってしまいます。

 1. 滅菌時に、包装内部の器材まで飽和蒸気などの滅菌剤が確実に到達すること
 2. 滅菌後に、微生物が器材に到達しないというバリア機能を果たすこと

 

 

2-6. 滅菌

 

 2-6-1. 医療機関で最も使われるのは高圧蒸気滅菌

包装された器材は、滅菌器によって滅菌されます。滅菌方法には、蒸気を使用する高圧蒸気滅菌やガスを使用して滅菌するガス滅菌等がありますが、医療機関で最もよく使用されるのは高圧蒸気滅菌です。

高圧蒸気滅菌器

 

 2-6-2. 滅菌保証とはSAL≦10⁻⁶の達成を確認すること

滅菌後、器材が滅菌されているかを確認することを滅菌保証と言います。滅菌保証では、滅菌した全ての器材がSAL≦10⁻⁶を達成しているかを確認する必要があります。

高圧蒸気滅菌の場合、121℃の蒸気であれば15分、134℃の蒸気であれば3分器材に曝露すれば、SAL≦10⁻⁶は達成されるとされています。滅菌に必要なこれらの条件が達成されているかを、化学的インジケータ(CI:chemical indicator)と言われる紙片等を使用して確認します。CIは、置かれた場所で滅菌条件が達成されると、変色します。

滅菌バッグに挿入されたCI

滅菌バッグに挿入されたCI

 

CIの変色例

タイプ5CI変色見本

 

 2-6-3. 器材の内部まで滅菌されているかを確認することが重要

複雑な内腔構造を持つ器材

管腔器材

 

高圧蒸気滅菌では、空気を除去し蒸気を浸透させることで滅菌します。内腔構造の器材は、空気の除去が難しいため、滅菌しづらいと言われています。

管腔器材への蒸気浸透

 

そのため、器材の表面だけではなく、器材の内腔まで滅菌条件が達成されているかを確認することがとても重要です。内腔器材の滅菌を確認するためには、EN ISO11140-6などに適合した専用のPCD(process challenge device)と呼ばれる道具を使用する必要があります。

EN ISO11140-6に適合したコンパクトPCD

ホローロード型PCD

 

2-7. 保管

 

 2-7-1. 再汚染されないよう一定の条件下で保管される

滅菌されたことが確認された器材は、保管中に器材が再汚染されないように、一定の条件下で保管されます。

保管棚

 

 2-7-2. 滅菌物には使用期限がある

滅菌された器材(滅菌物)は、保管状況、包装材料、物品の劣化程度などにより、使用できる期限があります。滅菌した器材の使用期限(安全保存期間)の考え方は、TRSM(time related sterility maintenance)とERSM(event related sterility maintenance)の2つがあります。

現状、日本ではTRSMによる考え方を採用している医療機関が一般的です。

 

考え方 概要 具体例
TRSM
(Time related sterility maintenance)
包装材料による時間軸を基本とした考え方 例)滅菌日から半年間を滅菌有効期限とする。
ERSM
(Event related sterility maintenance)
滅菌器材に対して汚染される可能性がある出来事があれば時間に関係なく無菌性は破綻する考え方 例)滅菌した器材を落としたら無菌性は破綻したとする。

 

 

2-8. 搬送

 

 2-8-1. 再び医療現場へ搬送される

保管された医療器材は、必要な時に保管場所から取り出され、再び外来や手術室などへ運ばれます。中央材料室での滅菌された器材は、次の患者の命を救うために旅立って行きます。

器材の使用

 

3. 滅菌業務に関連する資格

3-1. 滅菌技士(滅菌技師)

 

 3-1-1. 日本医療機器学会が認定している資格

滅菌業務に関連する資格の1つに、滅菌技士(滅菌技師)があります。日本医療機器学会が認定している資格で、医療施設に関連した滅菌供給の知識と実践に優れた技士を養成することを目的に、2000年に発足しました。

 

 3-1-2. 第1種滅菌技師、第2種滅菌技士の2種類がある

第1種滅菌技師が上位資格であり、認定を得るためには第2種の認定者であることが条件となります。第2種の認定申請には、以下の要件が必要となります。看護師や歯科衛生士など、医療系の国家資格を持っていることは必須ではありません。

・日本医療機器学会の会員であること(合格後に入会可能)
・滅菌供給業務の実践に3年以上携わっていること
・日本医療機器学会が作成した「医療現場における滅菌保証のガイドライン」の内容が理解実行できること

第1種の認定取得には、2日間の講習および筆記試験、筆記試験合格者は実技試験を受験する必要があり、高度な専門性が求められます。

滅菌技士(滅菌技師)について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

滅菌技士(滅菌技師)とは?取得方法や合格率など、実際の滅菌技師がわかりやすく解説します。

 

3-2. 滅菌管理士・滅菌消毒業務受託責任者

 

 3-2-1. 日本滅菌業協会が認定している資格

滅菌受託業者向けの資格として、滅菌管理士や滅菌消毒業務受託責任者があります。医療法及び関連法令で、滅菌サービスの提供を行う事業者(滅菌受託業者)には、滅菌消毒業務受託責任者の配置が求められています。

 

 3-2-2. 滅菌消毒業務受託責任者は滅菌管理士の上位資格

滅菌消毒業務受託責任者は、「滅菌消毒業務受託責任者」と院内滅菌に限定された「院内滅菌消毒業務受託責任者」2種類の資格があります。「院内滅菌消毒業務受託責任者」は業界経験3年以上の方であれば、「滅菌管理士」の資格を取得後、資格取得のチャンスを得ることができます。

滅菌消毒業務受託責任者

日本滅菌業協会

 

 3-2-3. 資格取得を支援する受託業者もある

滅菌受託業者によっては、上記のような資格取得を支援する会社もあるようです。現場の業務経験を積み上げ、資格を取得していくで、滅菌業界におけるキャリアアップも期待できます。

 

4. 滅菌業務の全体像がわかるおすすめ図書

4-1. 改訂第5版 医療現場の滅菌(へるす出版)

日本医療機器学会の認定資格である第2種滅菌技士認定講習用のテキストです。2020年9月に7年ぶりに改訂し、最新の動向が反映された内容になっています。

改訂 第5版 医療現場の滅菌

へるす出版

 

4-2. 医療現場の清浄と滅菌(中山書店)

オランダで滅菌業務に関するコンサルタントを務める著者が、滅菌業務に関わる原理や本質をできるだけわかり易く説明しています。滅菌に関する国際規格ISOについても、図表や絵をふんだんに用いて解説しています。

医療現場の清浄と滅菌

中山書店

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