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再生処理の知識

洗浄の日常モニタリングについて、インジケータの選定方法から実施方法まで解説します。

洗浄の日常モニタリングについて、インジケータの選定方法から実施方法まで解説します

洗浄工程の品質は、適切に洗浄できる工程であることを検証し(バリデーション)、その工程が正しく繰り返されているかを日常的にモニタリングすることで保証します。

 

『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』では、日常のモニタリングを実施するために、洗浄インジケータを使用することが勧告されています。また、『医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール』でも、洗浄インジケータを使用することは「必須項目」として記載されています。

 

洗浄インジケータには様々な市販品がありますが、どのような基準で選定すればよいのでしょうか。

 

本記事では、適切な洗浄インジケータの選定方法や、インジケータを用いた日常モニタリングの実施方法を解説します。

目次

1. 洗浄インジケータとは

1-1. 洗浄のゴールは残留蛋白質量≦200μg/RMDの達成

器材が適切に洗浄できているかの基準は、『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』(以下「ガイドライン」)に記載されています。ガイドライン(p100)では、洗浄後の器材に残留する蛋白質量が200μg/RMD以下であることを確認することが要求されています。

8.2 洗浄評価基準
(勧告)
洗浄後のRMDに残留する蛋白質量が、200μg/RMD以下であることを確認する

出典:『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』p.100

 

つまり、洗浄後にその器材に残留している蛋白質量が200μg以下であれば、その器材は適切に洗浄できていると言えます。

 

1-2. 毎回すべての器材の残留蛋白質量の測定を行うことは現実的にできない

洗浄後にその器材に残留している蛋白質量が200μg以下であることを確認するためには、残留蛋白質を抽出し、蛋白質の定量測定を行う必要があります。

しかし、蛋白質を抽出するための薬剤が器材に付着したら、再度洗浄しなくてはなりません。また、洗浄器では一度にたくさんの器材を洗浄するため、そのすべての器材の残留蛋白質量の測定を行うには、膨大な費用と時間がかかってしまいます。

毎回すべての器材の残留蛋白質量を測定することは、現実的にはできません。

 

1-3. 洗浄工程は「バリデーション+日常モニタリング」で評価する

毎回すべての器材の残留蛋白質量を測定して評価することはできないため、洗浄の「工程」を評価することで洗浄結果を評価します。

具体的には、最も洗浄が難しいマスター製品が洗浄後に残留している蛋白質量が200μg以下である工程であるかを検証し(バリデーション)、その工程が正しく繰り返されているかを毎回確認(日常モニタリング)します。最も洗浄が難しい器材の残留蛋白質量が200μg以下であるなら、それより洗浄が容易な他の器材も残留蛋白質量が200μg以下であることが推定できます。

「バリデーション+日常モニタリング」は、洗浄工程を評価する際の基本的な考え方です。

 

1-4. 洗浄インジケータで洗浄器が正しく稼働したかをモニタリングする

洗浄工程の日常モニタリングに使用するのが、洗浄インジケータです。

洗浄インジケータは、ステンレスやPET(ポリエチレンテレフタート)の基盤の上に、動物の血液や顔料などで作られた疑似汚染物を塗布したものです。疑似汚染物の成分はメーカーによって異なります。

様々な洗浄インジケータ

洗浄インジケータはホルダー等で洗浄バスケットに取り付けたり、洗浄バスケット上に置いて使用します。

洗浄インジケータを設置

 

1-5. 洗浄インジケータの使用はガイドラインと施設評価ツールで推奨されている

洗浄インジケータを使用することは、ガイドラインおよび『医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール』(以下施設評価ツール)で推奨されています。特に施設評価ツールにおいては、早急に改善が必要な項目である「必須項目」として記載されています。

表4-7 日常の監視と管理項目出典:『医療現場における滅菌保証のガイドライン2021』p.60

 

施設評価ツール_洗浄インジケータ

出典:『医療現場における滅菌保証のための施設評価ツール Ver.1.1』p.2

 

2. 洗浄インジケータを選択する際のポイント

2-1. 洗浄器の洗浄力に最も近い抵抗性を持つものが望ましい

洗浄インジケータは、洗浄器の洗浄力が下がった時に、それを検知して知らせるのが役割です。洗浄器による本来の洗浄結果が得られておらず、後工程の滅菌結果が悪化する可能性を警告してくれるものです。

そのため、使用する洗浄インジケータは、その洗浄器の本来の洗浄力に最も近い抵抗性を持つことが求められます。元々抵抗性が弱い洗浄インジケータは、洗浄器の性能が大幅に下がっても、低い水準で合格してしまうため、洗浄力の低下を検知できません。

(図)WDの洗浄力に最も近いインジケータを選ぶ

ウォッシャーディスインフェクター(WD)を用いた洗浄では、プロペラの回転不良や洗剤供給チューブの詰まり等の不具合により、洗浄力が低下することが日常的に起こります。本来の洗浄力に最も近い洗浄インジケータで監視することで、適切な日常モニタリングを行うことができます。

 

2-2. 予備洗浄で色落ちするインジケータでは洗剤関連の不具合を検知できない

洗浄インジケータは、洗浄条件の異常を検知するものです。洗剤が使用されない予備洗浄で落ちてしまうインジケータでは、洗剤チューブが詰まって適切な量の洗剤が投入されていなかった、というような洗剤関連の不具合を検知することができません。

洗浄インジケータを選ぶ際は、予備洗浄で色落ちしないものを選ぶことが重要です。

 

2-3. 本洗浄終了の直前で色落ちするものを選ぶ

WDの洗浄力に最も近い抵抗性を持つインジケータを選択するためには、WDの洗浄力が最も高まる「本洗浄終了の直前」に色落ちするインジケータを選択する必要があります。

WDの洗浄力は、機械作用・温度・化学作用・時間という4つの要素で構成されます。本洗浄終了の直前が、この洗浄力を構成する4つの要素が全て発揮された、最も洗浄力が高まっているタイミングと言えます。

 

2-4. プログラム毎に適切なインジケータは異なる

医療機関では、一つのWDで複数のプログラムを使用することが一般的です。例えば、酵素洗剤を使用するプログラムと、アルカリ洗剤を使用するプログラムとでは、その洗浄力はそれぞれ異なります。そのため、プログラム毎に適切なインジケータも異なります。

 

3. SALWAY 洗浄工程インジケータの選択方法

SALWAYの洗浄工程インジケータは、異なる抵抗性を持った5種類のインジケータです。それぞれのWDやプログラムの洗浄力に合わせて、適したインジケータを選択することができます。本章では、SALWAY洗浄工程インジケータの選び方をご紹介します。

 

3-1. 抵抗性の異なる5種類のインジケータを外から見えるように設置する

全種類の洗浄インジケータをインジケータホルダーにセットし、外から色落ちが見えるようにバスケットに設置します。外から見えるように設置するのは、洗浄工程のどの段階でどの色が落ちたかを、運転中に外から確認するためです。

この検証は、可能であれば器材を入れずに行います。

5色の色落ちが外から見えるように設置する画像

 

3-2. プログラムを開始して各インジケータの色落ちを確認する

洗浄インジケータを設置後、プログラムを開始します。洗浄工程のどの段階で、何色が落ちたかを記録します。三脚などで固定したカメラで動画撮影すると便利です。

一例として、実際に検証した際の様子をご紹介します。

①プログラム開始
②洗剤投入後、最初に緑色が完全に色落ち
③続いて、青色が完全に色落ち
④その後、黄色と紫色が色落ちし始める
⑤黄色と紫色は色残りし、赤は変化なしの状態でプログラム終了

①プログラム開始(予備洗浄)①プログラム開始のインジケータ画像


②洗剤投入後、最初に緑色が完全に色落ち
②最初に緑が完全に色落ちした画像


③続いて青色が完全に色落ち
③青が完全に色落ちした画像

④黄色と紫色が色落ちし始める
④黄と紫のインジケータが色落ちし始めた画像


⑤黄色と紫色は色残りし、赤は変化なしの状態でプログラム終了
⑤プログラム終了、黄ろ紫が色残り、赤が完全に残った画像

3-3. 本洗浄終了の直前で色落ちしたインジケータを選択する

3-2の検証結果を洗浄工程のグラフに当てはめてみると、下のようになります。

どの工程でインジケータが色落ちしたかを示す図

本洗浄に入り洗剤が投入された後、まず緑色が色落ちし、そのあと青色が色落ちしています。

2-3で述べた通り、洗浄力は機械作用・温度・化学作用・時間の4つの要素の掛け合わせです。そのため、洗浄力が一番高まっている、本洗浄終了の直前に色落ちしたインジケータを選択します。

今回の場合は、「青色」が日常モニタリングに最も適したインジケータである、ということになります。

 

3-4. プログラム毎に検証を実施する

同じWDでも、洗剤や洗浄時間が異なれば洗浄力が変化するため、最適な洗浄インジケータは異なる場合があります。

例えば、酵素洗剤とアルカリ洗剤の2種類のプログラムを実施しているのであれば、プログラム毎にどの洗浄インジケータが適しているか、検証を実施する必要があります。

下の写真は、ある同一のWDにおいて異なるプログラムで検証した際の洗浄インジケータ色落ち結果です。酵素洗剤の場合は、黄色が完全に色落ちしています。一方、アルカリ洗剤では黄色は色残りしており、緑色・青色が完全に色落ちしています。

プログラムによって色落ちは異なることを示す画像

 

3-5. 内腔器材用の洗浄ポートにも対応できる

SALWAYの洗浄インジケータは、内腔器材の洗浄ポート用に接続して使用できるホルダーがあります。この専用ホルダー「フローPCD」を用いることで、内腔器材の洗浄工程も評価することができます。

内腔器材の洗浄ポート用に接続して使用できるホルダー

 

4. 超音波洗浄付きの洗浄器の場合

ジェットウォッシャーに超音波洗浄機能が付いた洗浄器の場合、同じ洗浄器でも超音波が当たる段と当たらない段では洗浄力が異なる場合があります。超音波の有無に合わせて、適切なインジケータを選択することで、ジェットウォッシャーだけでなく、超音波に関連する不具合も検知することができます。

本章では、超音波洗浄付き洗浄器で洗浄インジケータの選定を行った事例をご紹介します。

4-1. 洗浄インジケータの設置場所

超音波の有無によってインジケータの色落ちがどのように異なるかを比較するため、超音波が当たらない4段目のバスケットと、超音波が当たる2段目のバスケットにインジケータを設置しました。

また、バスケットの内側・外側でも、ジェットウォッシャーや超音波の当たり方は異なります。4段目・2段目ともに、バスケットの内側・外側の2か所にインジケータを設置し、色落ち結果を比較しました。

インジケータの設置場所

 

4-2. 洗浄インジケータの色落ち結果の比較

超音波が当たらない4段目のバスケットに設置した、インジケータの色落ち結果です。

4段目(超音波なし)のインジケータの色落ち4段目(超音波なし)のインジケータ色落ち結果

青のインジケータは、内側・外側ともに色落ちしています。一方の紫と赤のインジケータは、外側よりも内側の方が比較的色落ちしていることがわかります。超音波が当たらない段においては、今回の場合、「青」のインジケータでモニタリングするのが適切です。

 

一方、超音波が当たる2段目のバスケットに設置した、インジケータの色落ち結果がこちらです。

2段目(超音波あり)のインジケータの色落ち2段目(超音波あり)のインジケータ色落ち結果

青のインジケータは、内側・外側ともに色落ちしています。一紫と赤のインジケータは、外側よりも内側の方が大きく色落ちしていることがわかります。

 

4-3. 日常モニタリングでの運用方法

この超音波洗浄付き洗浄器の場合、超音波が当たらない段には「青」の洗浄インジケータ、当たる段には「赤」の洗浄インジケータで日常モニタリングをするのが最適である、という結果になりました。

日常モニタリングの例

洗浄インジケータの判定基準

カラーチャートの例

日常モニタリングにおいて、青のインジケータが色落ちしていなければ、洗剤関連の不具合が予想されます。また、赤のインジケータが色落ちしていなければ、超音波の不具合が考えられます。

 

5. 日常モニタリングの実施方法

5-1. 洗浄インジケータは毎回使用するのが望ましい

洗浄工程の不具合は、いつ発生するかわかりません。機械によるエラーのみでなく、誤ったプログラムを選択するといったヒューマンエラーも起こり得ます。そのため、毎回の洗浄が正しく行われているかを確認するためには、洗浄インジケータを毎回使用する必要があります。

例えば、朝一回しか洗浄インジケータによるモニタリングを実施していない場合、インジケータが不合格を示した際には、前日の2回目以降の洗浄全てに洗浄不良の可能性があり、リコールする必要があります。

リコール対象

洗浄インジケータを毎回使用していれば、インジケータが不合格を示した回のみリコール対象となります。洗浄インジケータを毎回使用することは、毎回の洗浄結果を確認できるとともに、洗浄不良が発生した際のリコール対象を最小限に抑えることができます。

5-2. 洗浄インジケータは毎回同じ場所に設置する

洗浄インジケータは、設置場所によっても結果が異なることがあります。

例えば、下の検証例では、バスケットの上面に設置した赤色のインジケータは完全に色落ちしていますが、側面に設置したものは90%以上色残りしています。

これは、上面と側面で水の当たり方が異なるために発生した現象です。

このように、洗浄インジケータは設置する場所によって、色落ち結果が異なることがあります。毎回同一の条件でモニタリングするためには、毎回同じ場所にインジケータを設置する必要があります。

 

5-3. 内腔器材の洗浄もモニタリングする

内腔器材の内部まで洗浄できているかは、バスケットに設置されたインジケータでは確認することはできません。内腔器材を洗浄するための洗浄ポートに、適正な水流と洗剤量が供給されているかを確認するためには、インジケータをバスケットではなく内腔の内側に設置する必要があります。

内腔ポートはバスケットのインジケータではモニタリングできない

そのため、洗浄ポートに接続して洗浄インジケータを使用できる、専用のホルダーが必要になることがあります。

洗浄インジケータを内腔洗浄用のホルダーに設置

フローPCDに洗浄インジケータを設置


ホルダーを洗浄ポートに接続する

 

6. まとめ

いかがでしたでしょうか。

洗浄工程の品質は、適切に洗浄できる工程であることを検証し、その検証された工程が正しく繰り返されているかを日常的にモニタリングすることで保証します。その日常モニタリングで使用するのが、洗浄インジケータです。

市場にはさまざまな洗浄インジケータが市販されていますが、洗浄器の洗浄力に最も近い抵抗性を持つ洗浄インジケータを選択することで、洗浄工程のわずかな不具合も検知することができます。簡単に合格してしまうインジケータでは、洗浄力が大幅に下がらないと異常を検知できません。

また、予備洗浄で落ちてしまうインジケータでは、洗剤関連の不具合を検知することはできません。洗浄インジケータを選ぶ際は、洗浄器の洗浄力が最も高まる、本洗浄の終了直前で色落ちするインジケータを選ぶのがベストです。

日常モニタリングでは、洗浄インジケータは毎回同じ場所に設置して使用します。また、内腔器材のモニタリングには、洗浄器の洗浄ポートに洗浄インジケータを接続できるものを使用し、内腔器材の内部まで洗浄できているかを確認します。

 

本記事の内容に関するお問合せは、営業担当またはSALWAYウェブサイトのお問合せフォームよりご連絡下さい。

SALWAY洗浄工程インジケータ

 

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